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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第四話 紅蓮の記憶と鬼師匠
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4-9


「そうっすか、負けちゃったっすか」


 ちゃぶ台を囲み座ると、新が椿へ、この場所を出てから今まで起きた事を話す。

 虹魔木と父親である間口耕三を追う日々。神魔狩りの中で知った、虹枝の会という謎の組織の暗躍。そして、その一員と思われる、ボロ布の男ブギーマンと戦い、一方的に敗れた事まで話すと、目を閉じ黙って聞いていた椿が、湯呑みを飲み干し呟く。


「そうなんだ、師匠。せっかく奴等の手掛かりを掴んだって言うのに……俺の力が足りないばっかりに……」


「ん〜、別に良いんじゃないっすかね?」


 俯く新。その姿を首を傾げて眺めながら、椿があっけらかんと言い放った。


「え?」


「別に、負けてもそうして生きていられたなら、良いんじゃないんすかね? むしろ、倒すべき相手の、力量の一端でも知る機会が出来て、幸運だったと思うっすよ。後は……」


「それは……今度こそ勝てる力を身につけて挑む」


「そういう事っすね。……ん、二人はそれで、うちに来たって事っすか?」


「ああ、師匠にもう一度鍛え直しもらえないかと思ってね。どうかな?」


「一通りの事は、既に以前教えたっすけど……まあ、やってみるっすかね。あっ、それなら一つ、新っちに条件があるっす!」


「条件?」


 新が首を傾げると、椿は両手の指をモジモジと組んで、言いにくそうに呟く。


「そ、その師匠ってのは、もう止めてほしいっす。そりゃ以前の、少年だった新っちから呼ばれるのは……まあ良いんすけど、今の大きくなった新っちから言われると、何かこう……背中の辺りがムズムズするっすよ」


「そ、そうなのか? えっと……じゃあ何て呼べばいいんだ?」


「ん〜、姐さんと同じ様に、椿でいいっすよ」


「オッケー。じゃあ、今度からはそう呼ぶよ、椿」


 新がそう呼ぶと、椿は照れ臭そうに笑う。


「へへへ、ありがとうっす。よしっ、それじゃあ、三郎太……アレ持ってきて欲しいっす」


「かしこまりました、姫様」


 脇に控えた三郎太を振り返り、椿が手を振る。三郎太は一礼するとフッと姿を消し、数瞬後には手のひらサイズのガラス球を持って現れた。

 いつの間にか片付けられていた、ちゃぶ台の中央にガラス球がコトリと置かれる。ガラス球の中には、スノードームのように精巧なミニチュアの木々や川が作られ、小さな一つの景色を描いていた。


「夢幻門《むげんもん》か、懐かしいな」


「訓練とは言え、あたし等がやりあうには、これじゃないと色々不便っすからね。さあ、早速始めるっすよ」


 椿がガラス球に手をかざし、新も同様に手をかざす。すると球に柔らかな光が灯り、ゆっくりと明滅し始めた。

 光が瞬く度に、新は全身が球に引かれるように感じ、その感覚は次第に強くなっていく。やがて球の引力が最大になった時、奇妙な浮遊感と共に、新の意識が途絶えた。


「ふう……相変わらず、凄いな」


 新が再び意識を取り戻し、瞳を開けると、周囲の景色は一変していた。家の中に居たはずなのに、今は遠目に木々が見える空き地に立っている。


「そう、ここは夢幻門の中、新っちは魂だけを吸い出された状態っす。今なら、魂の記憶で姐さんが居なくても憑依合身が出来るっすよ」


 新から数メートルの距離を開けて向き合った椿が、胸を張り腕を組んで微笑む。


「ああ、確かそうだったな……なあ、ここではこれも使えるのか?」


 椿に見えるよう、新が左手を挙げる。その腕に光るブランクギアをチラリと見て、椿が頷いた。


「今この場で具現化されているという事は、つまりそういう事っす。見た所、新っちの魂を少しずつ溜め込んで、憑依合身の負担を軽減する物みたいっすけど……そんな玩具であたしの相手を出来ると思われるとは、少々癪っすね」


 椿は相変わらず笑顔のままだ。しかし、その身に纏う空気が、幾分鋭さを増した。


「ふふん、椿もやる気が出たようだな。では私は文字通り高みの見物と洒落込もう。三郎太、何か肉料理を持ってきてくれ」


「かしこまりました。少々お待ちください、八葉様」


 空の上、あの部屋で夢幻門を覗き込んでいるのだろう八葉の声と、それに応える三郎太の声が聞こえる。向こうからは、ミニチュアサイズの新達が見えているのだろう。

 新は小さく息を吐くと挙げたままの左手に向かって叫んだ。


「チェンジ! エクシード・コネクトッ!」


 白く、次いで青い閃光が新を包む。光が消え青いブランクへと変わった新に向かって、椿が組んでいた腕を降ろし叫ぶ。


「さあっ、新っち。こっちはいつでもいいっすよ! まずは一発、思いっきり打ち込んでくるっす!」

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