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「そうっすか、負けちゃったっすか」
ちゃぶ台を囲み座ると、新が椿へ、この場所を出てから今まで起きた事を話す。
虹魔木と父親である間口耕三を追う日々。神魔狩りの中で知った、虹枝の会という謎の組織の暗躍。そして、その一員と思われる、ボロ布の男ブギーマンと戦い、一方的に敗れた事まで話すと、目を閉じ黙って聞いていた椿が、湯呑みを飲み干し呟く。
「そうなんだ、師匠。せっかく奴等の手掛かりを掴んだって言うのに……俺の力が足りないばっかりに……」
「ん〜、別に良いんじゃないっすかね?」
俯く新。その姿を首を傾げて眺めながら、椿があっけらかんと言い放った。
「え?」
「別に、負けてもそうして生きていられたなら、良いんじゃないんすかね? むしろ、倒すべき相手の、力量の一端でも知る機会が出来て、幸運だったと思うっすよ。後は……」
「それは……今度こそ勝てる力を身につけて挑む」
「そういう事っすね。……ん、二人はそれで、うちに来たって事っすか?」
「ああ、師匠にもう一度鍛え直しもらえないかと思ってね。どうかな?」
「一通りの事は、既に以前教えたっすけど……まあ、やってみるっすかね。あっ、それなら一つ、新っちに条件があるっす!」
「条件?」
新が首を傾げると、椿は両手の指をモジモジと組んで、言いにくそうに呟く。
「そ、その師匠ってのは、もう止めてほしいっす。そりゃ以前の、少年だった新っちから呼ばれるのは……まあ良いんすけど、今の大きくなった新っちから言われると、何かこう……背中の辺りがムズムズするっすよ」
「そ、そうなのか? えっと……じゃあ何て呼べばいいんだ?」
「ん〜、姐さんと同じ様に、椿でいいっすよ」
「オッケー。じゃあ、今度からはそう呼ぶよ、椿」
新がそう呼ぶと、椿は照れ臭そうに笑う。
「へへへ、ありがとうっす。よしっ、それじゃあ、三郎太……アレ持ってきて欲しいっす」
「かしこまりました、姫様」
脇に控えた三郎太を振り返り、椿が手を振る。三郎太は一礼するとフッと姿を消し、数瞬後には手のひらサイズのガラス球を持って現れた。
いつの間にか片付けられていた、ちゃぶ台の中央にガラス球がコトリと置かれる。ガラス球の中には、スノードームのように精巧なミニチュアの木々や川が作られ、小さな一つの景色を描いていた。
「夢幻門か、懐かしいな」
「訓練とは言え、あたし等がやりあうには、これじゃないと色々不便っすからね。さあ、早速始めるっすよ」
椿がガラス球に手をかざし、新も同様に手をかざす。すると球に柔らかな光が灯り、ゆっくりと明滅し始めた。
光が瞬く度に、新は全身が球に引かれるように感じ、その感覚は次第に強くなっていく。やがて球の引力が最大になった時、奇妙な浮遊感と共に、新の意識が途絶えた。
「ふう……相変わらず、凄いな」
新が再び意識を取り戻し、瞳を開けると、周囲の景色は一変していた。家の中に居たはずなのに、今は遠目に木々が見える空き地に立っている。
「そう、ここは夢幻門の中、新っちは魂だけを吸い出された状態っす。今なら、魂の記憶で姐さんが居なくても憑依合身が出来るっすよ」
新から数メートルの距離を開けて向き合った椿が、胸を張り腕を組んで微笑む。
「ああ、確かそうだったな……なあ、ここではこれも使えるのか?」
椿に見えるよう、新が左手を挙げる。その腕に光るブランクギアをチラリと見て、椿が頷いた。
「今この場で具現化されているという事は、つまりそういう事っす。見た所、新っちの魂を少しずつ溜め込んで、憑依合身の負担を軽減する物みたいっすけど……そんな玩具であたしの相手を出来ると思われるとは、少々癪っすね」
椿は相変わらず笑顔のままだ。しかし、その身に纏う空気が、幾分鋭さを増した。
「ふふん、椿もやる気が出たようだな。では私は文字通り高みの見物と洒落込もう。三郎太、何か肉料理を持ってきてくれ」
「かしこまりました。少々お待ちください、八葉様」
空の上、あの部屋で夢幻門を覗き込んでいるのだろう八葉の声と、それに応える三郎太の声が聞こえる。向こうからは、ミニチュアサイズの新達が見えているのだろう。
新は小さく息を吐くと挙げたままの左手に向かって叫んだ。
「チェンジ! エクシード・コネクトッ!」
白く、次いで青い閃光が新を包む。光が消え青いブランクへと変わった新に向かって、椿が組んでいた腕を降ろし叫ぶ。
「さあっ、新っち。こっちはいつでもいいっすよ! まずは一発、思いっきり打ち込んでくるっす!」




