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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第四話 紅蓮の記憶と鬼師匠
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4-8


「よっ……と。さて、こっから山登りか」


 バスを降り、荷物を担ぎなおした新が、ふうと息を漏らす。八葉はその後ろで腕を組み笑った。


「山とは言え、そう大した高さでもあるまい。なんなら変身して行くか、新?」


「はは、冗談だろ。これもまた、特訓の一つみたいなもんだ」


 八葉に笑い返すと、新はバス停から伸びる山道へと入って行く。八葉も黙ってそれに続いた。

 開発による発展著しい手名芽市でも、少し外れまで行けば、こういった昔ながらの山はいくつも現存している。そのうちの一つに、新達の目指す場所があった。


「確か……この辺だよな?」


「ああ、ここだ。少し待っていろ」


 山道の途中、あえて道を外れ歩く事数時間、少しだけ開けた場所に出ると、新が八葉を振り返る。

 八葉もその問いに頷き応え、しゃがみこむと地面に手をついた。


「はぁっ!」


 八葉が気迫のこもった声をあげる。その瞬間、八葉の手から大地を通り、周囲の木々へと何か電流のような光が走り抜けた。


「いいぞ。さあ、久しぶりの再会といこうじゃないか」


 立ち上がり、手の土をパンパンと叩き落とす八葉。二人の目の前には、先程まで存在しなかった、武家屋敷さながらな、一軒の豪邸が出現していた。その門がひとりでにゆっくりと開いていく。


「真神様、お久しゅう御座います。しかし、前もって言ってくだされば、こちらからお迎えにあがりましたのに……」


 開いた門の向こう、やや時代がかった執事服に身を包んだ、白髪の老人がそう言ってゆっくりと頭を下げた。そのキッチリと整った頭頂部に向かって八葉がユラユラと手を振る。


「なに、主人とはいえアレの旧友が会いに来ただけだ。そうかしこまることもあるまいよ、三郎太。それに今の私は真神である以前に八葉だ、間違えてくれるな」


「そうで御座いましたね。姫様なら、お二方が山に入られた時より、既に奥でお待ちです。八葉様、それと新様も、どうぞお上りください」


「うむ、邪魔するぞ」


「お邪魔します。三郎太さん、また少し厄介になります」


「いえいえ、たまにはこういう変化も、それはそれで良い物です」


 頭を下げる新に、三郎太は柔らかく笑い手を振った。

 三郎太に促されるまま、二人は屋敷へ入る。中も外見同様、時代劇のセットのように古めかしいデザインだったが、床も柱も何もかも新品同様に磨き上げられていた。


「うん、相変わらずここは空気が美味いな。山だからってのとはまた違う、澄んだ感じがする」


 長い廊下を歩きながら、大きく深呼吸をし頷く新。それを見た八葉が首を傾げた。


「なんだ、新は知らなかったのか? ここは既に奴の神域、それもあの三郎太に毎日清められた場所だ。おそらく大抵の怪異ならば、居るだけで浄化されるだろうな」


「は〜、凄い所だったんだな、ここって。ん? 怪異が浄化されるって、八葉は大丈夫なのか?」


「その質問、冗談では無かったら怒るぞ、新。出自は違えど、私はむしろ奴と同じような存在だ。それ故に、ここは居心地が良い。まあ、我が家もまた、律によって清められた私の神域とも言えるがな」


「ははは、相変わらずのようだね、新っちは」


 ムッとした八葉が突き当たりの襖を開けると、奥の部屋から楽しげに笑う少女の声が聞こえた。

 八葉に続いて新も部屋へと入ると、部屋の奥、一段高くなった畳の上にドカリと座り込んだ少女が右手を挙げた。歳の頃なら十七、八だろうか。伸びた黒髪を雑に後頭部で一つ結びにし、上はテーシャツ、下はホットパンツと、非常にラフで、かつこの家には似合わない格好でくつろいでいる。


「やぁやぁ、良く来たっすね。八葉の姐さん、新っち」


 少女は立ち上がると、畳から降り二人の前に立って笑いかける。


「うむ、久しいな、椿。相変わらずのようで安心したよ」


 椿は並ぶと八葉より頭一つ背が高い。半ば見上げるように椿を見て、八葉も微笑み返した。


「久しぶり、師匠」


「あはは、その師匠っていうのも久しぶりっすね、新っち。……うん、新っちはしばらく見ない間に随分と変わったっすね」


 椿は会釈する新に向き直り、新の全身を眺めた後、その肩をパンパンと叩く。


「ふふん、ここを出て数年。悠久を生きる私達にとっては僅かな間だが、人の子にとってはそれだけ長い時間なのだな。椿の言う通り、新は随分と変わったよ。いくつもの戦いの中で、確実に強く逞しくなったな」


「そ、そうかな……自分じゃあんまり良く分からないけれど……」


「いやいや、姐さんの言う通り、随分良くなったっすよ。それで? 今日は一体どうしたっすか?」


 椿の言葉に、新は困ったように頬を掻く。チラリと横の八葉を見ると、ニヤリと笑いながらこちらを見ていた。


「あ〜……師匠に褒めてもらった手前、言い難いんだけれど……」


「では、まずはお茶など如何ですかな、新様」


 一体いつから……否、間違いなく、たった今現れたように新には見えた三郎太が、これまた今現れたちゃぶ台と、そこに乗った湯気をたてる三人分の湯呑み、そして茶菓子を手のひらで指し示した。


「そうだな、ここまで来て急ぐ話でもなし。茶でも飲みながら話すとするか、椿、新」


 そう言うと、八葉はさっさとちゃぶ台へ向かう。新は椿と顔を見合わせ、それに続いた。

 

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