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「……なるほど」
そんなブランク達を見ながら、ユニコーンは頭を左に傾け、コキリと首を鳴らす。
「たかが小娘一人。ならば、妙な格好の男だけ警戒すれば良いかと思いましたが、まさか人間側についた同胞だとは……正直なところ想定外でしたが、まあいいでしょう」
「ふん……生憎だが、私は貴様達のように、卑劣で下賤な害獣では無いぞ。それより、依り代を切り離された割には、随分と余裕じゃないか? 私はてっきり、醜く泣き喚くものだと思ったぞ」
神魔に同胞と言われたのが不愉快だったのか、八葉がユニコーンを挑発する。しかし、ユニコーンの顔から余裕の表情が消える事は無かった。
「ふくく、私の力を引き出し利用する為に、日々捧げられた分も含め、智秋からは既に相当量の力を貰っていますので。神魔……では無いお嬢さん、今なら例え貴方達二人掛かりだろうと私は負ける気はしません。貴方達を屠った後で、ゆっくりとこの市内中の人間を喰らう事に決めました」
「負ける気しない……か。二度も俺のセパレス・インパクトを喰らった間抜けの台詞とは思えないな」
ブランクの言葉にユニコーンは腕を組み、首を左右に振る。
「ええ、確かにそうですね。私は、私自身の未熟さと、依り代と強く結びついた全能感から、つい貴方達を過小評価していたようです。ですが、それももう過去の話。ここからは失礼の無いように、全身全霊をかけて戦わせていただきますよ……ふんっ!」
ユニコーンが力を込めると、全身が肥大化を始め、モコリ……と背部が大きく隆起する。ユニコーンの内側で何かが蠢いているかのように、背中の皮膚が大きく伸びると、パンッという小さな破裂音と共に破けた。
ユニコーンの体内から現れたのは、真っ黒な一対の腕だ。ちょうどユニコーンの純白な両腕の下から、血を滴らせ生えている。
「があっ!」
更に変化は続く。ユニコーンの腰部からは、盛り上がった肉が、新たな黒い胴となって後方に向かい生え出し、その胴から伸びる一対の脚もまた、ユニコーンの脚同様に強靱だ。
そして、ユニコーンの首が、ビキビキと音を立てる。首ごと頭部が、あり得ない程に右肩側へとズレ、空いた左側から肉が盛り上がると、一つの形を成して行く。それは黒いユニコーンの頭部……否、その頭上に鋭く刃状に伸びる角の数は二本だ。
「同じ身体にもう一体の神魔だと? ……あの二本角はバイコーン……いや、合計三本だからトライコーンになるのか?」
ブランクの背丈程もある巨大な馬の、本来なら首がある位置から生えた上半身に、四本の腕と二つの頭を有した姿を見てブランクが呟く。
その白と黒、二体の神魔を混ぜ合わせたような異形を見上げて、隣の八葉も頷いた。
「ああ、依り代である智秋の魂が影響したのだろう。あの少年は、普段思考する心の裏で、本人すら自覚しないまま、相当量の黒い影を溜め込んでいたようだ」
「イジメられてたみたいだしな……無理も無いか」
「どうです? 素晴らしくも美しいでしょう? まさに人間の聖と邪、光と闇を体現した、これが私の最高の姿です。もっとも、この後で数多の人間達を喰らえば、更により美しく素晴らしい身体へと、進化していくでしょうがね。ああ、その時が楽しみでなりません!」
四本の腕で、器用に己を撫でながら、二つの頭で同時に喋るトライコーン。その目はブランク達を見据えながらも、半ば恍惚としていた。
「……言いたい事はそれだけか?」
「ん? 今、何か言いましたか?」
ブランクの声に、自分の輝かしい未来を思い描いていたトライコーンは現実へと引き戻される。
「言いたい事はそれだけかって聞いたんだよ、この白黒ナルシストなシマウマ野郎! 人間を喰って更に進化だと? 笑わせるな。俺達が居る限り、お前のその妄想が叶う日は永遠に来やしない! 八葉っ!」
怒気を込め吐き捨てるように吼えると、八葉へと腕を伸ばすブランク。その手に白狼の頭を触れさせ、八葉も叫ぶ。
「うむっ、私達はその為に来たのだ。憑依合身っ!」
「エクシード・コネクトッ!」
青い光と共に、八葉とブランクが交わる。光の中から現れた青い戦士の姿を見て、トライコーンは目を細めた。
「ほう……まさか、二人が一つになるとは……一体何者なんですか、貴方達は?」
「……ブランク。人を喰らう悪しき神魔を狩って狩って狩り続ける、貴様達の天敵だ! 覚悟しろ、トライコーン! チャージッ!」
ブランクの両脚が、青い光に包まれる。トライコーンは四本の腕を広げ、後ろ脚で地面を掻いた。
「なるほど、良いでしょう! ならばブランク、私の素晴らしい未来の為に、早速貴方を鉄屑へと変えてあげますよっ!」
トライコーンが駆け出す。その四本脚は実際の馬さながらの加速を見せ、猛烈な勢いでブランクへと迫った。




