表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
58/79

第57話 新しい住人

 さて、これからどうしようか。

 コアちゃんによる建築物の生成実験は、遅々として進んでいない。


 教授も本職が忙しいらしく、なかなかこちらへ来られずにいた。


 いずれここへ住むとは言っているものの、そのためには大学での引き継ぎや、引っ越しの準備も必要なのだろう。


 それにしても、コアちゃんの中へ入るために、毎回我が家の庭を通らなければならないのは不便だ。


 ダンジョンの入口を移動させたりはできないのだろうか。


 いや、いっそ二つ目の入口を作るとか……。


 できるのか?

 あとで、コアちゃんに聞いてみよう。


 そんなことを考えながら庭を眺めていると、コアちゃんが隅のほうでしゃがみ込んでいた。


 そういえば、以前にも同じようなことがあった気がする。


 白根さんと話していたときだっただろうか。


 少し気になり、後ろから近づいてみる。


「おまえ、いつもどこから来るのじゃ? 妾の指は、そんなにうまいのか?」


 そこには、猫に指を舐められ続けているコアちゃんの姿があった。


 子猫か?

 いや、身体が痩せているだけで、成猫なのかもしれない。

 猫には俺の姿も見えているはずだが、逃げる様子はない。


 コアちゃんの指を舐めることに夢中だった。


「コアちゃん、何をやってるんだ?」


「おお、主か。こやつが妾の指から離れぬのじゃよ」


 コアちゃんが手を動かす。


 猫も指を舐めたまま、手の動きに合わせて顔を移動させた。


 本当に、おいしいのだろうか。


「腹が減ってるんじゃないのか?」


 ポケットをまさぐってみる。

 煮干しか何か、入っていなかっただろうか。


 ……ポケットに煮干しが入っているわけがない。


 それはそうだ。


「暦ー、ちょっといいかー?」


「はーい」


 暦が、まるで新妻のような笑みを浮かべながら、居間から顔を出した。


「猫がいるんだけど、何か食べさせてもいいのか?」


「あ、寅次郎、来てるんですね」


「寅次郎?」


「この辺りでは有名な野良猫みたいですよ。ちょっと待っていてくださいね」


 なるほど。

 名前がついているということは、それなりに近所の人たちから親しまれているらしい。

 人に慣れていることにも納得できる。

 ただ、特定の誰かが飼っているわけではないのだろうか。


「なあ、この寅次郎って、本当に野良猫なのか?」


 猫用の小皿を持ってきた暦に、俺は尋ねた。


「首輪はつけていません。それに、耳先もカットされていないんですよね」


 耳先。

 ああ、不妊手術を受けた地域猫につけられる目印だったか。


「近所の人からご飯をもらっているところは、何度か見ました。でも、特定の家へ帰っていく様子はありませんでした」


 本当によく見ている。

 いや、暦の場合、一度目に入れば記憶に残るのだ。


 俺に観察力が欠けているわけではない。


 そう。

 きっと、そうだ。


「ふむ。こやつにも家がないのか……」


 コアちゃんが、寅次郎の前へ指を差し出した。


「妾の中に住むか?」


「な゛ー」


 寅次郎が、妙に濁った声で返事をした。


「ふむ。なるほどのう」


 ん?


「待て、コアちゃん。何がなるほどなんだ?」


「雨に濡れぬ場所は知っておるが、寒い日は困る。今のうちに、よい寝床を見つけたい――と言うておる」


「えっ、分かるんですか?」


 暦が驚いて、コアちゃんを見た。


「欲の味で分かるからのう。もっとも、ここまで細かな言葉を話したわけではない。大部分は、妾が欲の味から補ったものじゃ」


 マジか。

 コアちゃんは、動物の意思まで読み取れるのか。


 いや、考えてみれば不思議ではない。

 コアちゃんは、人間の言葉を聞いて欲望を理解しているわけではない。

 相手の中にある欲望を、直接味わっている。


 ならば、()()()()()()()()()()()()()()()


 コアちゃんの中には、もともと魔物が生息していた。

 魔物の欲望を読み取り、それに応えてきたのだ。

 魔物が異世界の動物だと考えれば、猫の欲望を理解できても何らおかしくはない。


 ということは――。


「住人は、()()()()()()()()()()……?」


 何だか、面白いことになりそうな気がしてきたぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ