第55話 私の家、私の物語
あれから、いくつか検証を行った。
けれど、私の欲望から生まれたものは、あの家を除けば以前と変わらなかった。
見た目だけは立派でも、中には何もない。
以前と同じ、ハリボテばかりだった。
駆さんは不思議そうに頭を捻っていたけれど、鐘々ちゃんだけは、何かに気づいたような目でずっと私を見ていた。
絶対に感づかれた気がする。
とはいえ、私自身、もう完全に意識してしまっている。
今さら、どうしようもない。
いまのところ、駆さんと鐘々ちゃんのあいだに、そういう感情はないらしい。
そのことには、少しだけ安心していた。
◇
宅配便で運ばれてきた荷物を、新しい家へ運び込む。
取り戻した物は多かったけれど、家具はそれほど残っていない。
広い家には、まだ何も置かれていない部屋もあった。
私はパソコンを机の上へ置き、電源コードを部屋のコンセントへ差し込んだ。
恐る恐る、電源ボタンを押す。
モニターに、見慣れた起動画面が映し出された。
やはり、電気は通っている。
それは、そうだろう。
この家は、そういう家なのだから。
魔道具。
世間では、そう呼ばれる特殊な道具が存在する。
ダンジョンから発見される、外の世界の物理法則では説明できない物品の数々。
それらがもし、人間の欲望から生まれたものだとしたら。
この家も、おそらく同じものだ。
私が思い描いた家。
私と、もう一人。
いつか家族になる誰かと、一緒に暮らすための家。
子どものころから、何度も思い描いてきた夢の家。
そこまで考えたところで、駆さんの顔が浮かんだ。
かあっと、顔が熱くなる。
つまり、まあ、その。
そういうことなのだ。
本当なら、このことも駆さんたちへ説明するべきなのだと思う。
けれど、この家の正体を説明するということは、私の恋心まで打ち明けることになる。
それは、まだ無理だ。
鐘々ちゃん。
お願いだから、まだ言わないでね?
◇
その夜は、雑念が多すぎて眠れなかった。
私はパソコンへ液晶タブレットをつなぎ、ペンを手に取った。
漫画家の先生のアシスタントへ戻れるかは、まだ分からない。
突然連絡が取れなくなってしまった私を、もう一度雇ってもらえる保証もない。
それでも、自分の作品を描くことはできる。
自分で描いて、自分で応募して、新しい仕事へつなげることはできる。
アシスタントをしていたころよりも、描きたいものは増えていた。
出会った人たち。
助けてもらったこと。
自分の意思で、失った物を取り戻したこと。
そして、これから始まる生活。
描きたい話をネームへまとめ、私はペンを走らせた。
パソコンには、見覚えのない無線回線が表示されていた。
試しに接続すると、何事もなくインターネットへつながった。
この家、本当に何でもありなんだ。
そんなことを考えながら、出版社の新人賞や漫画コンテストを調べていく。
暗い話ではなく、明るい話を描きたかった。
誰かが新しい居場所を見つけ、そこから生活を始める物語。
それはきっと、今の私にしか描けない話だ。
取り戻したペンを握り締める。
そして私は、この家で。
私の新しい物語を描き始めた。




