表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/78

第23話 役所の手続きは受付だけでも時間がマッハ

 俺は、非常に疲弊していた。


 鐘々は“初心者探索者が持ち込んでも不自然でない素材リスト”を作り、それに合わせてコアちゃんへ欲望を渡すことになっている。


 条件は、俺が売却しても不自然ではなく、役所に目をつけられるほど高価でもないことだ。


 ついでに、他の金策についてもまとめてくれるらしい。本当に、金のことなら頼りになる。


 頼りになりすぎて、俺のジョブは現在ヒモになっているが――これは今すぐどうにかなるものではないので、受け入れておくことにする。家事くらいはやるよ、うん。


 さて、話を戻す。


 俺は非常に疲れている。


 その理由は単純明快。ダンジョンの登録に、無駄に時間を使わされているからだ。


 受付だけでも時間がかかるのは当然として、なぜか別の部署に回されそうになったり、それを指摘すると元上司が出てきて戻ってきてくれと懇願されたり、元同僚どもは引き継ぎについての話をしてくるし、俺はもう辞めたんだぞ!?


 窓口の職員に「これは危機管理課ですかね」と言われたときは、まだ耐えた。


「土地に関わるので資産税課かもしれません」と言われたときも、ぎりぎり耐えた。


「草原があるなら農政課にも確認を」と言われたところで、さすがに俺は申請書の該当欄を指差した。


「入口が民有地に発生した低危険度迷宮の民間管理登録です。農地転用でも、固定資産評価でも、災害対策本部案件でもありません」


 なぜ申請者である俺が窓口の案内をしているのだろう?


 余談だが、俺のスマホに眠る業務関連情報については、なにも言われなかった。たぶん、スマホに情報があることすら彼らの脳にはないのかもしれない。僥倖である。この際このスマホに入った情報はとことん利用させてもらうことにする。


 話を戻そう。ともかく、ともかくだ。本当に面倒だった。


 結局、必要書類は元職員の俺が先ほど作ったので、三週間もすれば登録は滞りなく完了してほしい。


 ()()()()ではない。


 ()()()()()。つまり、希望だ。


 ふと、壁に目を向ける。


 『異形居住安全審査協会』

 『結婚相談』

 『ダンジョンを発見したらすぐ報告。』


 ……色々なポスターが目につく。


 暇なので、無駄に文字を追っていく。


「異形の方にも安心できる住環境を」


「貸主と借主、双方の安全のために」


「特殊身体特性による居住トラブルを未然に防止」


 綺麗事が並べ立てられている。


 淡い緑色の背景に、笑顔の家族らしきイラスト。


 その横には、耳の長い人物、角のある人物、肌に鱗のある人物が、同じ屋根の下でにこやかに立っている。


 現実にこんな穏やかな場面があるなら、この窓口に貼る必要はないはずだ。


 こういうポスターは、大体の場合、できていないことをできているように見せるために貼られる。


 こんなところで時間を無駄にするわけにはいかないのだ。


 やるべきことは、まだまだある。


 ヒモのはずなのに仕事があるのは、果たして喜ぶべきことなのだろうか?俺はもしかして、もうヒモから別の職業にジョブチェンジを果たしているのではないだろうか?


 窓口に目を向ける。


 異形の人たちが騒いでいる。


 いや、騒いでいるというより、追い詰められて声が大きくなっている。


「だから、住む場所がなくなるんです!」


 長い耳を帽子で隠した女性が、窓口の職員に詰め寄っていた。


「隣の部屋の生活音が聞こえると説明しただけです。苦情を言ったわけじゃありません。なのに、他の入居者の生活を常時聞いている可能性があるから退去してくれって……!」


 少し離れた席では、肩幅の広い大柄な男が、折り畳み椅子に小さく座っていた。


 椅子が悲鳴を上げている。


「床を補強すれば住めるって言ったんです。費用も一部負担すると言いました。でも、協会の評価で共同住宅不適って……体が大きいだけで、どこにも住めないんですか」


 別の窓口からは、もっと直接的な言葉も聞こえた。


 見た目が気持ち悪いというだけの理由で追い出された。


 体が大きいという理由だけで賃貸を借りることができない。


 異形が住むと他の住人が寄らなくなるから、住まわせることができないと言われた。


 うん、社会の闇、ここに極まれり、だ。


 もう一度壁に目を向ける。

 そこのポスターに書いてあることはなんなのだろうか?


「異形の方にも安心できる住環境を?」


「貸主と借主、双方の安全のために?」


「特殊身体特性による居住トラブルを未然に防止?」


 絶賛すぐそこでトラブルが発生しているぞ。どうにかしてやれ、異形居住安全審査協会とやら。


 その騒ぎを聞きながら、この無駄な時間を効率よく使うために頭を働かせる。


 ……異形。

 住宅問題。

 コアちゃんの維持費。


 ――直接的な金になるとは思えない。だが……


 俺は鐘々ではないが、金のにおいを嗅ぎつけた。


 ――ダンジョンの中に人を住まわせる。


 今回のダンジョンの正式登録は、この目標の第一歩だ。


 相手取る法律は、まだ山のようにある。


 ……が、住まわせる相手を絞れば、そこも突破できるのではないだろうか?


 そのターゲットといえば、異形だ。


 彼らは住む場所を得るだけでも苦労を強いられる。


 彼らを住まわせる受け皿を作る方向でいけば、ダンジョン賃貸住宅を作るのも……。


 そこまで考えて、自分に嫌気が差した。


 異形を利用しようとしている。


 これでは、あいつらとなにも変わらない。足元を見て、仮初めの善意で飯の種にする――実際、どうなのだろう。


 俺は仏様でもなんでもない。ただのヒモである。そこまで高尚なことは考えなくてもよいのではないだろうか?


 まぁ……そもそも住む場所を作れないのだが。


 そう、目下の課題はこれである。


 最初は、ダンジョンの形を変えて部屋を作ればよいと考えていた。


 だが、コアちゃんの変形は、長く続けるにはコスパが悪い。


 コアちゃんは、同じ姿勢を保つようなものだと言っていたが、ゲーム的に考えるなら、長時間続けるとなると、コストが比例して増えていく仕組みなのかもしれない。


 今朝確認した低予算ダンジョンもひどかった。宝部屋は無残に崩れ、偽物の宝が散乱し、廊下はものの見事に崩壊。石畳は、草原に戻りかけていた。


 長い間かけて風化した建物――そう呼べる状態にわずか数時間でなっていた。


 あれを住宅と呼ぶには、国語辞典に対する冒涜がすぎる。


 コアちゃんの詳しい仕様を知りたい。そう、例え有志のユーザーによってつくられたコアちゃんwiki。そう、コアちゃんwikiとが非常に欲しい……が、無い物ねだりをしても仕方がない。コアちゃんのユーザーは俺しかいないのだ。


 俺がひとつひとつ検証しながら、ルールを確認していかなければならない。


 そして、これまでの経験則から鑑みると俺の欲望から部屋を作るにしても、おそらく失敗する気がする。


 コアちゃんの体を変形させてもハリボテになっていたのだ。一から作るのであれば、おそらく難易度は上がる。


 そもそも、俺が具体的に思い浮かべられる部屋など、せいぜい自分が住んできた部屋と、ネットで見た賃貸物件の間取りくらいである。


 部屋に必要なものは……玄関、廊下? 風呂、トイレ、あとは洗面所。できれば収納。たぶん窓も必要。……あとはなんだ? まぁいいか。


 ともかく、言葉としては並べられる。だが、人が暮らせる部屋にするには、それだけでは足りない。


 排水はどうする? 換気はどうなる? 隣室との防音とかどういう仕組みだ? 非常時の避難経路もダンジョンの中で必要か? 誰でもストレスなく通れる廊下幅は?


 考えれば考えるほど、俺の頭の中のワンルームは事故物件と漫画喫茶とビジネスホテルの悪いところだけを混ぜた何かになっていく。


 金欲魔神様が金に関連するものを容易に作りだせたことを考えると……建物を作りたい欲があって、しかもダンジョンに住んでくれるデザイナーを探すか?


 いるわけないだろ、そんな人間。


 そんなことを考えながら、受付から呼ばれる声に応じ、機械的に処理を進め――すべてが終わった頃には、太陽の位置は西に傾いていた。


 おかしいね? 来たときは東にあったのにね?


 家に着いたころには、日はすっかり沈み、半月が顔を出していた。


 門を潜ると、コアちゃんが急いで駆け寄ってくる。


「大変じゃ! 主! 大変なのじゃ!」


「どうした、そんなに慌てて……鐘々は?」


「鐘々が倒れたのじゃ!」


「……は?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ