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第122話 いつものメンツだ

 白根が困惑している。


「この量を持ち帰るんですか!?」


「そのとおり。まるっと全部いただく」


「身体強化しても無理がありますよ!?」


「大丈夫、俺ならできる」


 右腕の袖を捲る。

 さあ、出番だ。


「網代さん」


「なんだ?」


「まさかとは思いますけど……全部担いでいくつもりですか?」


「なんでそうなる」


「さっきからあなた、力技しか使ってないでしょう!」


「失礼な。俺だって文明的な解決方法くらい使うわ」


「檻を壊していた人が言います?」


「あれは、それが一番スムーズな解決策だったからだ」


「それを力技って言うんですよ」


「とりあえず、パソコンと書架、それからファイルを一か所に集めよう」


「集める?」


「ああ」


 俺は右腕を軽く叩く。


「すごいものを見せてやる」


 そうして、事務所からいただきたいものをすべて一か所へまとめた。


 パソコンと書架にあった大量のファイル。

 その他、あとで調べれば何か出てきそうなものも一緒に集める。


 その中央へ立ち、白根を呼んだ。


「白根」


「はい?」


「できれば、俺の左腕で抱え込めるくらい近くまで来てくれるとありがたいんだけど」


「なっ!?」


 白根が、反射的に一歩下がった。


「なんでそうなるんですか!?」


「安全のため、仕方がないんだ……」


「何の安全ですか!?」


「いや、マジで下手すると、腕だけここに置いていくとかになりかねない」


「えっ?」


 白根の動きが止まった。


「今からやるのは、ダンジョンへの瞬間移動なんだけど……たぶん、一定範囲の空間を丸ごと向こうへ移すんだ」


「たぶん?」


「細かい仕組みは、俺も知らん」


「怖いことをさらっと言わないでください」


「で、その範囲から外れたものは持っていけない」


「それだけなら……」


「境界に引っかかると、その場所で切れる」


「…………」


「…………」


「切れる?」


「切れる」


「何がですか?」


「物が」


「人は?」


「試したくない」


「絶対嫌です!」


「だから近づいてくれって言ってるんだよ!」


 七築の家を移したとき、範囲の外にあったものは持ってこられなかった。


 庭で実験したときも、境界に置いたアルミ缶が綺麗に真っ二つになった。


 おそらく……物を運んでいるというより、俺を中心に一定範囲の空間そのものを切り取り、向こうへ持っていっているのだと思う。


「…………」


 これ……最悪、攻撃にも使えるんじゃないか?

 相手を境界に置いて、そのまま移動すれば——。


「…………」


 やめよう。

 想像したら、だいぶグロいことになった。

 これは封印案件だ。


 白根が、おそるおそるこちらへ近づいてくる。

 そして、その身体を俺へ密着させた。


「…………」


 柔らかい。

 いや、違う違う違う。

 そうじゃないんです。

 やばい。

 これは、やばい。

 変に意識してしまう前に、さっさとやってしまおう。


 俺は、もう一度部屋の中を見回した。

 

 廊下の向こう。

 鉄扉の先も気になる。

 この施設がどこまで続いているのか。

 ほかに何があるのか。

 

 調べたいことはいくらでもあった。


 だが——ここにある資料を置いたまま探索を優先して、結果的に何も持ち帰れない。


 そんな事態だけは避けたかった。


 俺一人なら、最悪どうとでもなる。

 だが、今は白根もいる。

 欲を出して、取り返しのつかないことになる必要はない。

 リスクマネジメントを考えるなら、ここで一度撤退するのが正解だろう。

 よく言うだろう、まだ大丈夫はもう危ない。と。


「…………」


 白根がこちらを見る。


 近い。

 ものすごく近い。

 

 柔らかな唇。

 綺麗な瞳。

 青白い肌に、赤い——だから、やめろって言ってんだよ!

 そういうときじゃないでしょうが!


 頭に湧いてきた煩悩を全力で振り払い、右腕へ意識を集中させる。


 ダンジョンと、この右腕を、繋げる——。


「あぐっ! おごぉぅぐ!」


「網代さん!?」


「ぐぎぃぃぃいいい!」


 激痛。

 相変わらず、とんでもない激痛だ。


 歯を食いしばる。


 指先から針金を突っ込まれ、爪と肉の間をぐりぐりと掻き回されるような痛みが、右腕の至るところから一斉に襲ってくる。


 うん。

 これだ。

 これこれ。

 相変わらずクソ痛い!


 でも、こうして文章にできるくらいには、俺もこの痛みに慣れてきたなぁぁぁぁぁ!


 次の瞬間。

 

 バチンッ、と。


 頭の中で何かが弾けた。


 ◇


「…………」


 目を開ける。


 最初に視界へ入ったのは、コアちゃんのコアがある天井——。


 ではなかった。


「駆さん……!」


 泣きながら、俺の顔を覗き込む暦。

 その隣には、心配そうな顔をした鐘々。

 さらに後ろには、呆れたような顔をしたコアちゃん。


「…………」


 あー。

 いつものメンツだ。


 帰ってきた。

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