第100話 オペレーションイン七築
水面で気を失っている七築の様子を見ながら、教授が口を開いた。
「おそらく、目を覚ましたらまた同じ状態になるかもしれないね」
「いったい全体、どうしてこんなことになってるの?」
鐘々が悲鳴に近い声を上げる。
「私、何度も電撃を打ち込むの嫌なんだけど!?」
それはそう。
「おそらくだが、何らかの記憶障害がある。ただ、それも……なんというか」
教授が珍しく言葉を濁した。
「普通の記憶障害とは、少し違うように見えるね」
「なあ、コアちゃん」
「なんじゃ?」
「これって、因子が関係してたりしないのか?」
「……そうじゃな。関係しておるじゃろう」
「そうだよな、関係して——」
「…………」
「えっ?」
そんなあっさり?
「さっき、妾はお主らに因子を与えたじゃろう?」
「ああ」
「あれには、簡単な命令を入れておる」
「命令?」
「このダンジョンの扉を通るための命令。それから——」
コアちゃんが、水面に浮かぶ七築を見る。
「異物が入り込んできたとき、排除するための命令じゃな」
「白血球みたいですね」
暦が言う。
「うむ。そう考えてもよい」
「予防接種って言ってたのも、そういう意味か」
「そうじゃな」
「じゃあ……」
俺も七築を見る。
「七築の中にあるものも、同じなのか?」
「おそらくのう」
「同じ?」
「意思などない。ただ、命令だけが刻まれておる」
「じゃあ、七築の中の因子にも命令が?」
「おそらくのう」
「どんな?」
「それを調べる必要がある」
「どうやって?」
「…………」
コアちゃんが、少し言いづらそうに俺を見る。
「主よ。たぶん、ちとキツいことになると思うのじゃが」
「わかった。やるよ」
「即決じゃな」
「もう慣れたしな」
自分でも、どうかと思う。
「それに、俺にしかできないんだろ?」
「うむ。他の者では、妾の因子が足りぬ」
「あの……」
暦が、不安そうに尋ねる。
「いったい何をするつもりなのですか?」
「七築の中で、ちょいとバトルをしてくる」
「…………」
「…………」
「バトル?」
「うむ」
コアちゃんは、こともなげに頷いた。
「妾と主は、少しの間動けなくなる。じゃから、そのあいだ七築が暴れ出さぬよう、なんとかしておいてほしいのじゃよ」
「待て待て」
「なんじゃ?」
「俺、意識失うの?」
「まあ、そうなるのう」
「七築の中でバトルって、俺なにするんだよ?」
「なぁに」
コアちゃんが、にやりと笑う。
「やればわかる」
「一番信用できない説明だな!?」
◇
コアちゃんが左手で、俺の右手を握る。
そして、そのまま俺の右手を七築の頭へ置いた。
「では、いくぞ」
コアちゃんが目を閉じる。
「何をして——うぉ!?」
瞬きをした。
それだけだった。
なのに——風景が、変わっていた。
「…………は?」
なんだ、ここ?
宇宙?
上下すらよくわからない、真っ暗な空間。
遠くには、星のような光がいくつも浮かんでいる。
『ふむ。成功じゃな』
「うぉっ!?」
頭の中に、コアちゃんの声が響いた。
「え、これどういうこと?」
『簡単に言えば、七築の中を、主が見て動き回れる形にしたのじゃ』
「簡単に言いすぎじゃない?」
『もちろん、本当に七築の身体をダンジョンへ変えたわけではないぞ』
コアちゃんの声が続く。
『妾たちの因子を七築の中へ送り込み、主の右腕にあるダンジョンを介して、中で起きていることを空間として組み直した』
「…………?」
『その顔、わかっておらんな』
「わからん」
『つまりじゃ』
一拍。
『七築の中で起きていることを、主の意識が歩き回って調べられる形にした』
「最初からそう言ってくれ」
『では、とりあえず』
急にコアちゃんの声が元気になる。
『走り回って、妾たちの敵を見つけてデストロイじゃ!』
「それはいいんだけど……」
自分の身体を見る。
「俺、戦えないぞ?」
『それについては問題ない』
「え?」
『いけ! 主ロボよ!』
「ロボではねぇよ!?」




