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タロット大陸吟遊録  作者: にん


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8/15

#3-1:女帝国



「……はぁ」


この数日間で、もう何度目のため息だろうか。


女教皇国で感じたものが、胸の奥に滓のように溜まり、沈んでいた。

おかげで、足取りも自然と重くなる。


「……あと、十九か国か……」


大陸すべての国が、愚者国のように明るく自由な国ではないことくらい、予想はしていた。

だけど、あそこまで違うものを見せられると、国とは一体何が正しく、何が間違っているのか、分からなくなってくる。


(……女帝国も、そうなのかな……)


あと少し歩けば、女帝国の国境だ。


俺は小さく息を吐き、肩を落としたまま、のらくらと歩き続けた。


国境からほど近い街に、到着した。

門番や衛兵の姿はなく、俺は難なく街へ入ることが出来た。


街を見渡すと、すれ違うのは女や子ども、老人ばかりだった。

若い男や兵士の姿は、ほとんど見えない。


(……あれ。なんかおかしいな)


これまで訪れた国なら、国境付近には必ず兵士や門番がいて、旅の目的などを聞かれたものだ。


女帝国は、近隣諸国と戦争をしないのだろうか。


俺はそんなことを呑気に考えながら、街の中を歩いていた。


街のはずれまで来たところで、女たちの声が聞こえた。


目を向けると、女たちが賑やかに掛け声を掛け合いながら、畑を耕していた。


その周りを、子どもたちが元気に駆け回っている。


(……ああ、いいな……)


その光景は、とても美しかった。


胸に溜まっていた滓が、少しずつ流れ出ていくような気がした。


俺はその場で立ち止まり、しばらく眺めていた。すると、胸の奥に温かいものが広がっていく。


少し離れた場所でリュートを掲げ、弦に指を掛けた。


今見たものを、唄にしたくなったのだ。


――


笑え 笑え 人々よ

耕せ 耕せ 女たちよ


そのひと振りが 命となり

やがて豊かな 国をつくる


人が笑い 健やかに生きれば

豊穣は きっと約束されるだろう


――



唄いながら、胸の奥が少しずつ上気していく。


気づけば俺は、畑へ近づきながら唄っていた。


最後の節を唄いあげたところで、指笛が鳴った。


そちらを見遣ると、女たちが眩しいくらいの笑顔で、俺に拍手を送ってくれていた。


そのうちの一人が俺に近づき、声を掛けてくる。


「あんた、いい唄を唄うじゃないか。詩人さんかい?」


褒められたことに気を良くして、俺は胸を張った。


「ああ。大陸全土を、旅して唄っているんだ」


「大陸全土……そうかい、そうかい。どこから来たんだい?」


大陸全土とは言ったものの、愚者国を除けば、まだ三か国目だ。


俺は恥ずかしさをごまかすように、頭を掻いて言った。


「……愚者国だ……だから、まだ……三か国目だけど……」


女は、そんな俺の様子に噴き出した。


「あはっ。三か国目でも、立派なことさ」


そして、女は続けて俺に言う。


「……詩人さん。もし良ければ、もう少し唄ってくれないかい?」


(……おっ、早速仕事だな)


「ああ、もちろんだ。それで、報酬はいかほどで?」


女は一瞬きょとんとし、それから大きな声で笑った。


「あははっ。渡せる銅貨なんて、あたらしら農民にあるわけないさね」


(……ただ働きはごめんだ)


それなら、と別の場所へ歩き出そうとしたところで、女が「待ちな」と俺を呼び止めた。


「今日の食事と寝床なら、用意出来るよ。たらふく食べてもらって構わないさ」


「食事」と聞いただけで、俺の腹が鳴った。


銅貨は手に入らない。

けれど、食事と寝床がある。

悪い取引ではない。


俺はそう判断して、女に振り返った。


「よし、乗った!」


女はまた豪快に笑い、「そうこなくちゃ」と言って、他の女たちに大きな声を掛けた。


「おーい! 詩人さんが、他にも唄ってくれるってよ!」


その声に、畑のあちこちから歓声が上がる。


俺は陽が落ちるまで、陽気な曲を唄い続けた。


お読み頂き、心から感謝しております。


仕事をしながら、創作活動に日々励んでおります。


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是非、ご協力のほど、宜しくお願い致します。

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