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6

 ジークを見送った後、焚き火を見ながらただ、何かをするでもなくぼーとしていた。

 もう何も考えたくない。


 「いっそあのまま死んでいれば……」


 こんなに寂しさを感じることなく転生出来たのに。

 なぜ神は俺を不死身にしたんだ?


 「やっと見つけた!探しましたよ!」


 草むらから今度は、アドレナが現れた。

 シーナが来た時と同じように、汗だくで肩で息をしている。

 

 「言ったはずです。子供達の元に戻ってくれと。こんな夜中に女性一人で山に入るなんてせっかく助かった命を無駄にするつもりですか?」


 シスターは、こちらの忠告を気にせず向かい側の丸太に腰をかけた。


 「子供達はぐっすり眠っています。警備の方もあの一件から村の自警団と法務官が守ってくれる事になったので心配ありません!」

 「そうですか。子供達が元気なのは良かったですが、あなたが森で遭難して死ねば全て無駄になるので自重してください」

 「ならなぜあなたはそんな危険な場所で毎日野宿を?」

 「俺を見れば分かるでしょう?こんな化け物が村を徘徊してたらそこらじゅうが事故物件扱いされてしまう」

 「村の人々はあなたの事を受け入れているはずです。あなたの悪口なんて聞いたことないですよ?」

 その後、小声で「冒険者以外は」と続けだのが聞こえた。

 

 「子供達相手ではそうは行かないですよ。」

 「それなら子供達に外見で判断してはいけないと教育できる良いきっかけになります。ですから1度孤児院へ足を運んで頂けませんか?」

 「俺は……」

 「と言うのは建前でお礼がしたいんですよ。今までの分も兼ねて!」

 「今まで?」

 「孤児院に毎月支援金を出していたのはあなたですよね?」

 「なんの事だかさっぱりです」

 

 首を傾げてとぼけて見せたが、アドレナには通用しなかった。

 

 「シーナさんが全部白状してくれました」

 「……」

 

 流石のシーナも今回の一件で、全てを隠しきれなかったらしい。

 だからと言って全てぶっちゃけるのもいかがなものかと思うが…今度苦情いれとくか…

 

 「もし良ければ明日、孤児院に来てください。ご馳走を作って待ってますから!」

 

 そう言い残しシスターは村とは反対方向へ歩き始めた。どうもシスターは方向音痴のようだ。


 「そっちじゃない!孤児院まで送りますから待ってください!」

 


 アドレナに誘われた通り昼時に孤児院へ向かった。

 孤児院の庭では子供達が笑顔で走り回っており、その中央で子供達を見守りながら微笑むアドレナの姿がある。

 微笑ましいそんな光景を前に不気味な姿をしている男が立ち尽くしている。

 想像すると自身が場違いに感じた。

 シスターには悪いがやはり俺はここに来るべきではないだろう。


「おい!待て!」


 背を向けて歩き出そうとしたその時、聞き覚えのある声が俺を呼び止めた。


「…通報するのはやめてくれ。昨日の件があったから様子を見に来ただけだ。すぐに帰る」


 頭上に?を浮かべながら最年長の少年は言った。


「何言ってんだ?俺たちはあんたを待ってたんだぞ?」

 

 リインカはこの世界に転生してから勇者として戦い続けていた。

 そんなリインカを人々は英雄と呼んでいたが、魔王軍をと戦う姿を見ると次第に恐れ始め、手の平をかえしたように化け物と呼びはじめた。

 化け物に対して人々は恐怖し、差別し、罵倒し、そして裏切り、処刑した。

 そんな過去があるからこそリインカは孤立を選んだ。

 人々には不気味な力を持つ俺が、不気味な怪物にしか見えていなかった。

 人間とは、理解できないものに対して恐怖心を抱くものだ。

 だから差別も裏切りも仕方がないことだと思っていたのだが…


「お兄ちゃん!あーん!!」


 子供達は不思議と俺のことを受け入れた。

 恐怖するどころかまるで新しい遊具をあたえられたかのようにはしゃいでいる。


「…」

「こら!リマタ!失礼ですよ!」

「ムグ…うまいありがとう」


 孤児の子供、リマタが膝の上に座りアドレナの手料理をスプーンですくっては口に突っ込んでくる。

 それを受け入れるたびリマタは微笑みながら俺の頭を撫でてくれた。

 飼い犬にでもなった気分だ。

 その光景を見るシスターは、当初は止めようとしていたものの今となっては、孫を見守る祖母のようにニコニコ微笑んでいる。

 それとは正反対の嫉妬と殺意が背後から向けられていて、いまいち食を楽しめずにいた。

 シスターにバレないよう小声で「いくら恩人のあんたでも妹に手を出したら俺が殺す」と孤児院の最年長の少年が囁いた。

 食事を終えた俺は、早々に帰ろうと席を立つも子供達に囲まれて退路を断たれてしまった。


「お兄ちゃん!遊んでよ!」

「ハハッ…」


 どうやらもうしばらく帰してくれないようだ。

 

 

 子供達に案内されながら教会を歩き回る。

 教会全体に古臭く、年季が入っている。

 教会を細かく見ていくと所々、目立たないようにリホームされており、アドレナがいかにこの孤児院を大切にしていたのかが分かった。

 孤児院に出していた寄付金は無駄なく使われているようで安心する。

 ちょうど孤児院全体を1周したところでアドレナからの呼び声がかかった。


 「皆さん!お昼寝の時間ですよ!」


 その瞬間、子供達は二種類に別れた。

 半分はアドレナの誘導に従い昼寝の体制にはいったが、もう半分は逃げ回っている。

 逃げ回る子供達を最年長の少年とアドレナが追いかけ一人一人運んでいっているがこのままでは日が暮れてしまいそうだ。

 そんな光景を眺めているとアドレナが小石につまずいて背中から倒込んでしまった。


「きゃっ!?」


 幸い近くにいたため背後からそれを受け止めることができた。


「大丈夫ですか?」

「……は、はい!」

「顔赤いですけどどこか痛みます?」


 アドレナは恥ずかしそうに顔を赤らめて頷いた。

 怪我はしていないようなのでひとまず安心だ。


「シスターは子供達を寝かしつけていてください。俺が残りの子供達を収容します。」

「でも!」

「いいんです。困った時はお互い様でしょう?」

「……私は、あなたに頼ってばかりです」


 最年長の少年は必死に子供達を捕まえようと走り回っているが、小回りが効く小さな幼児の方が部があるようでかなり難航している。


「少年」

「ハァハァ……なんだ?」

「ここは一つ勝負をしよう」

「勝負?」

「どちらのが多く子供達を捕まえられるかの勝負だ。俺が負ければ好きなもの一つ買ってきてやる」


 提案に対し、少年はニヤリと笑って答えた。


「乗った」


 そう言うと少年は季節外れの長袖を肩までたくしあげた。

 驚く事にその腕は人間のものではなく美しい白い翼だった。


「なるほどな」

「こいつを見てビビらねぇのはほめてやるよ!だが!手加減はしねぇ!」

「いいだろう。勝負開始だ」


 少年は翼を広げて子供達の元へ急接近して行った。

 それに対し、俺はただ胸ポケットから飴玉を取り出して一言「これから昼寝する良い子にはこの飴玉をあげよう!」と言っただけ。

 その結果は一目瞭然だった。

 ほとんどの子供達は飴玉を目にした瞬間あっという間に床に着いてしまった。

 今頃アドレナにバレないように飴玉を舐め回している頃だろう。

「卑怯だぞ!」と顔を真っ赤にした少年がフサフサと翼で叩いてくる。


「卑怯でも結果を出したものが評価されるのが世の摂理だ。いい社会勉強になったな」

「チッ」


 不機嫌そうに床へ向かう少年だったが何かを思い出したのか立ち止まり、振り返った。


「一つ勘違いしてるみたいだから教えとくけどよ」

「なんだ?」

「俺は少年じゃなくて少女だ。名前はミリア。覚えとけ」

「…すまん」

 

 

 

 子供達が寝静まった後、アドレナに誘われ、庭に設置された木製のテーブルを挟んで向かい合って座った。

 シスターは、湯気が経つ綺麗な茶色い紅茶をカップに注ぐとある提案をした。


「孤児院に住んでみるのはどうでしょうか?貴方がいてくれれば私達も安心して暮らせます。貴方も雨風を防げる建物で生活出来ますよ」

「……」


 確かにお互いメリットのある提案だ。

 子供達も俺を受け入れてくれているため、辺に気を使う必要もない。

 何よりシスターの言う昨日のような、事態がまた起きないとは限らない。

 この村にも自警団や法務官がいるとはいえ、相手が上流階級の人間だと下手に動けないだろう。

 俺なら失うものは無いため犯罪者になってでも相手の一族を根絶やしに出来る。

 まぁアドレナがそこまで考えているとは思えないが。

 即決できる提案でもないため、出来れば後日に持ち越したいところだが、その間に逆恨みした昨日の貴族やその身内が襲撃してくる可能性がある。

 回答は早い方がいいだろう。


「わかりました。ここに住ませてもらいます」

「本当ですか?」

「ただし条件があります。今まで通り俺の給料の7割の金は受け取ってもらいます」

「多いですよ!せめて半分に減らしてください!」

「この条件が飲めないなら俺は孤児院の敷地内で野宿します」

「いてはくれるんですね」

「どうします?」

「分かりました。ただしこちらからも条件を出しますよ。」

「いいでしょう。」

「3食食事付き。可能な限り子供達と共に食してもらいたいです」

「分かりました。…でもいいんですか?」

「何がです?」

「今いる子達は俺の事情を知っているから受け入れてくれると思いますが、新しく入った子は俺のことを化け物だと思って眠れなるかもしれませんよ?」

「トラウマを小さいうちから克服すれば強い子に育ちます」

「この孤児院ってスパルタ教育採用してるんですね」

「何かいいましたか?」

「いえ!なにも!」


 そんな交渉の末、俺は孤児院の一室を借りて暮らしていくことになった。

 疲れて眠った子供を寝床に運び、翌朝はアドレナから弁当を受け取って仕事にむかい、帰ったらまた子供の遊び相手をする。

 そんな忘れかけていた平和で穏やかな日常を取り戻して行った。

 幸せだった。

 前世や今世で散々裏切られて悲惨な末路を辿って来た過去を忘れられるほどの幸福と充実感が、確かにそこにあった。

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