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タイトル未定2026/02/05 07:48

 法を犯した貴族を聖騎士団に任せて、ようやく宿営地に戻った俺は、いつものように川で取れた魚に串を通して焚き火に当てていた。

 いつもより魚の数を増やして、年季の入った傷だらけのコップを二つ用意してある。

 これらは、この後やってくるであろう旧友のために用意したものだ。


「こんなとこで晩酌か?」


 先ほど孤児院を奪還する際に協力してくれた聖騎士団の団長「ジーク」が木々をかき分けて野宿地に現れた。


「焼き魚か?久しぶりだな!一匹もらってもいいか?」

「構わない。そのために今日は多めに焼いてるんだ」


 ジークは焦げ目のついた食べ頃の魚を手に取り、椅子替わりに設置してある丸太に腰をかけた。


「久々に食うと美味いな!これ!」


 久しく見た戦友は相変わらずの純粋な笑みをうかべた。

 その光景を見ると世界を救った長旅を思い出して懐かしい気持ちになる。


「ほら!どうせだしいっぱいのんでけよ!」

「悪いな!」


 ジークは差し出された紫色の液体を見て何かを思い出したかのような懐しそうに目を細めて、コップの傷跡を見る。


「どこでも売ってる安い葡萄酒。あの頃はよくで飲んでたな。」

「そうだな。あの旅は大変だったけど楽しかった。…そういや皆んなは元気にやってるのか?」

「…ああ。セトは妹の病を直せたって喜んでたし、マリは結婚して子供ができた。来月出産予定だそうだ。春瑛は師匠の道場を継いだそうだ。今は五千人の弟子に武術を教えてる。ルーベルトなんて国軍の総帥になってんだぜ?すげぇだろ?そんでメディサは…」


 メディサの身に何かあったのか、ジークは言葉が詰まらせた。


「…どうした?メディサに何かあったのか?!」

「いや違う彼女はいたって健康だよ。体は…な。アイツは今でもあの日、お前を裏切った事を悔やみ続けている。最近久しぶりに会ったんだが、目は虚でまったく生気を感じなかった。まるで死人のようだったよ」

「…そうか。まだ気にしてくれてんだな」


 メディサは、少なくとも俺が復活するまでの間は、毎日墓参りを続けていた。

 その度に祈りながら泣いてくれていたんのだろう。

 重い空気を変えようとジークは引きつった笑みを浮かべて無理やり明るい声を出した。


「にしてもお前から手紙が届いた時はおどろいだぜ?まさか墓で寝てるはずのお前から手紙来るなんて思わなくてよ!ついに化けて出たのかと思っちまった!」

「それでもお前は、俺を信じては来てくれた。感謝してるよ…」

「手紙の字を見ればすぐに本物だってわかったよ」

「俺の字体。まだ覚えててくれたんだな」

「当たり前だ。俺に文字を教えてくれたのは他でもないあんただからな」

「…そうか。イヤイヤでも勉強させた甲斐があったよ」

 それからひとしきり笑いあった。

 こうして、焚き火を囲って談笑していると、パーティーを組んでいたあの頃の様で楽しい。

 しかし、その空気も長くは続かなかった。


「なぁ。俺たちを憎んでないのか?」

「?…どう言う事だ?」


 わざととぼけた態度を取るとジークは真剣な表情で声を荒げた。


「俺達はあんたを裏切ったんだぞ!あんたが居なけりゃ俺達は何度、魔物のクソになってたか分からない。そもそも旅にすら出る事なくスラムの汚ねぇガキのまま終わってたんだ!なのに俺達はあんたを処刑した!命の恩人を裏切ったんだ!」

「みんな家族を人質にされてたんだろ?なら仕方がないじゃないか」

「それでも普通は恨むものなんだよ!正直言えばここにくる道中、俺は殺される覚悟をして来た!なのにあんたはあの日、盗賊だった俺を受け入れたように再び俺を受け入れた!どう考えてもおかしいだろ!!」

「俺一人の犠牲でみんなを救えた。それの何がおかしいんだ?」


 ジークのいいたいことは十分わかっている。

 だが、それを受け入れることはできない。

 もしそれを受け入れたなら俺は俺ではなくなってしまう気がした。

 このまま話していても埒が明かないと思ったジークはその場に両膝をついて額を地面につけた。


「やめろ。やめてくれ」

「悪いが一方的にあの日のことを謝罪させてもらう。」


 ふざけるな、俺が欲しかったのはこんなものじゃない。


「謝ってすむ話じゃないのは十分承知している!だが!それでも聞いて欲しい!裏切って本当にすまなかった!あんたのことを俺たちは一瞬たりとも忘れたことはない。許してほしいなんて図々しいことは言わない。だからせめて俺のことを恨んでほしい!」


 その瞬間今まで溜め込んできた全てがどっと頭を支配した。

 ジークの胸ぐらを掴み馬乗りになって睨みつける。


「ふざけんな!俺はッ!」

「お前は!!このままじゃあ壊れちまう!!」


 吐き出そうとした言葉を遮られた。

 ジークはそのまま俺のことをまっすぐ見ながら胸ぐらを摘む手を握りしめて続けた。


「あの手紙を見た時俺はあんたが生きていたことに心から安心したんだ!!あんなひどい別れをしたのに手紙をよこしてくれたことがどうしようもなくうれしかったんだ!!新たな新天地で人のため、国のために戦い続けたアンタが自分の幸せのために生きている。そう思って、いざ手紙を読んでみればアンタは…」

 俺の目をまっすぐ睨みつけていた目から涙が溢れる。


「アンタはまた自分をすり減らしながら人のためにたった一人で戦い続けていた。」

「……」


 かつての仲間たちは皆、戦後の夢をよく話してくれた。

セトは妹の病を治して、妹を学校に通わせてやりたいと言っていた。

 マリは結婚して子供を持ち、どこにでもある普通で幸せな家庭を築きたいと話していた。

 ジークは騎士団へ入団すると話してくれた。

 春瑛は、生まれ育った道場を継いで、師範として弟子を育てて行きたいと話してくれた。

 メディサは…故郷の国へ一緒に行こうと誘ってくれた。

 そんな仲間達を俺は救う事ができたと一方的に思っていた。

 しかし実際は彼らを「勇者を裏切った」という重い枷で縛り付けていたに過ぎない。


「頼むからもう不幸にならないでくれ…そうでなきゃ俺たちは…」

 「……」


 かつての仲間達が苦しんでいるのは、言われるまでもなく分かっていた。

 あの場で皆が震えていたのは俺に恐怖していたからではない。悲しみと悔しさに堪えていたからだろう。

 俺はそれを見て見ぬふりをしていた。

 でなきゃ俺はまたみんなと会いたいと思ってしまうから——

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