表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/32

【第31話】航海日誌(抜粋)

 航海日誌、Day 1001


 妙に頭がすっきりしている。何か大きな、そしてとても悲しい夢を見ていたような気もするが、どうしても思い出せない。まあ、いいだろう。今日からまた、記録を再開する。

 船は、ひどく静かだ。




 航海日誌、Day 1086


 テラリウムの植物たちの成長だけが、日々の楽しみだ。ソラリス・ロゼが、また一つ新しい蕾をつけた。時々、独り言が多くなったと自分でも思う。まあ、誰かに聞かれるわけでもないのだが。




 航海日誌、Day 1150


 機関室のマイナーなトラブル解決に、丸一日を費やしてしまった。ひどく疲れた。

 昔、子供の頃に読んだ宇宙冒険譚の、あの頼もしい船長なら、こういう時どうするだろうか、と柄にもなく考えてしまった。

『感傷に浸っている暇があったら、まず手を動かせ』。

 不意に、そんな力強い声が、頭の中に聞こえた気がした。




 航海日誌、Day 1245


 メンテナンス中、高所から工具を落としてしまった。幸い、どこにも損傷はなかったが、一人で回収するのは骨が折れた。

 思わず、「誰か、下のレンチを取ってくれ!」と、虚空に向かって叫んでしまい、一人で顔が赤くなる。

 冗談を言い合えるような、気楽な友人がいれば、こんな長い旅も、少しは楽しいのだろうか。




 航海日誌、Day 1321


 最近、少し規律が緩んでいる気がする。食事の時間も、睡眠時間も、不規則になりがちだ。この広大な船で、僕を見ている者は誰もいない。それが、自由であると同時に、ひどく不安になる時がある。

 誰か、厳しく、僕の行動を律してくれるような存在が必要なのかもしれない。




 航海日誌、Day 1392


 ひどい熱を出して、丸二日、ベッドから動けなかった。解熱剤を飲むのも、栄養食を口にするのも、全て自分一人でやらなければならない。ただ、天井を見つめていると、心細さで、涙が出そうになった。

 誰かに、ただ優しく、冷たいタオルで額を拭いてもらいたい。そばにいて、手を握っていてほしい。

 そんなことを願うなんて、僕は、どうかしているのだろうか。




 航海日誌、Day 1430


 不思議なことが起きている。

 最近、船が、少し賑やかになった気がするのだ。

 一人でいるはずの廊下で、誰かの気配を感じる。食堂で食事をしていると、誰かの話し声が聞こえるような気もする。

 僕が、孤独の中で夢想した人々の声が、すぐそばで聞こえるようだ。

 彼らと心の中で話していると、不思議と、孤独を忘れられる。

 疲れているせいだろうか。

 でも、この感覚は、決して悪くない。




 航海日誌、Day 1500


 今日で、この船の任務が始まってから、1500日目になる。

 仲間たちとの生活も、すっかり当たり前のものになった。僕の記憶はどこか曖昧だが、確かに彼らはいる。僕のそばに。

 この温かく、賑やかな平穏が、ずっと、ずっと続けばいいのに。

 僕は、心からそう願っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ