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92話『天秤はされど傾いて』


あれから数日後。街は再び平穏な日々を取り戻した。


そして内田がここに来てから今日で丁度1ヶ月が経つ

彼女にとって最善の選択は出来たのだろうか。


朝目が覚めて。朝食を済ませた俺は、内田の元に話を聞いてくると言って家を出た。

エルは着いて行きたそうな顔をしていたが、セアルがそっと肩を触って首を振った。


正直助かる。


これからどうなるにせよ

彼女が居ては気まずい事にはなると思うから。



内田の家。正確には仮宿だろうが、その場に着いた。


そっとノックをする。


「あ、夜凪くん……いらっしゃい」


中から出てきた彼女は少し寂しげで、それでいて覚悟を決めた表情をしていた。



「不躾で済まないが、結論。聞いてもいいか?」


「うん、まぁ。ここで話すのも何だし上がってよ」


「ああ。邪魔する」



「思えば私、この世界に来てもう1ヶ月も経ってるんだね。」


「そうだな」


「あっという間だった」


「…………」


「夢の様な時間だったよ」


「…………」


「セアルさんには色んなことを教えて貰ったし、人魚ちゃんとリザードマンちゃん達ともいっぱい遊んだなぁ……」


俺は終始黙って聞いていた。

彼女が俺に返答を求めてはいないのだと分かったからだ。


「……夜凪くん。私、決めたよ」


「聞かせてくれ」


「私は……帰る」


「……後悔は無いか?」


「ははっ……ずるいなぁ……」


無い訳ないじゃん…

と彼女は呟くように言う。


「でもね。私は向こうで愛されていたと思うの」


「ああ。そうだな」


彼女の周りには何時も暖かい瞳で彼女と接する人が居た。


「家族は口うるさかったけどそれでも私の事をきちんと考えて話してくれた。相談にも乗ってくれた」


「友達は多いとは言えなかったけど。それでも心の底から大切にしてる親友達が居たの」


「そうか」


「だから……だからねっ……わ、私は……!私はっ!」


「きっと心配してるだろうな。帰ってやれ」


「酷いよ!夜凪くんがそれを言うのはずるい!」


「すまないな」


「謝らないで!私が悪いんだから!これはっ!私の八つ当たりでっ!みっともない逆恨みでっ!」


彼女は地団駄を踏むかのように髪を振り乱す


「どうしようも無く報われないたった一つの初恋なんだから!」


そう言う彼女の瞳は真っ赤で溢れる涙が頬を伝う


「だから!それでも!私っ…私は!貴方に逢えて良かったっ!貴方を好きになって後悔何て欠片も無い!」


ああ…何て凄いんだろう。

これだけ酷く扱って、蔑ろにした人間にこんな事を言えるなんて。

この世界にきて彼女はどれだけ寂し思いをしたのだろう?どれだけの辛さを感じたのだろう?

突然放り出された慣れない環境。

突如襲われ、殺されかける恐怖。

周りに知り合いが居ない孤独。

俺は分かっていた。でも手は差し伸べなかった。

差し伸べられなかった。



だってそうだろう?

俺が手を差し伸べたりなんかしたら彼女はもう立ち上がれない。きっとこれでいいんだと元の世界には帰らなくてもいいんだと思ったかも知れない。

そしたら彼女の人生の責任は誰が取る?

取れないと分かっている俺がそれをするのはあんまりじゃないか。


彼女の事だから俺がそこまで考えた上で放置したのを感じたんだろう。

凄い。本当に凄いな…内田は。


でも済まない。俺にはもう決めた人が居て。

2人目を受け入れられる程の度量も無いんだ。

俺は器用じゃない。

たった1人しか愛せない。


だからごめん


さよなら。


彼女に最後に何て言えばいいんだろう。


ごめん?さよなら?いや、違うな。



「こんな俺の事を好きになってくれてありがとう。」



そう言った俺の頬に何故か熱い感触が伝うのを感じたのはきっと幻覚だったんだろう。



だって俺は、もうどうしようも無いひとでなしだから


とりあえず溜め込み分それから今日書いた分の投稿は終わりました。


本当は新作投稿しようかなぁとか考えてたんですけどそっちが何故か行き詰まって何故かこっちが書けたという謎。

異世界謳歌……かなり筆が重たくなっていた筈なんですけど不思議なこともあるものですね

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