第14話 タカシのネームプレート
うちの母親の尋問が始まってしまった。
被害はマドカちゃんにまで及ぶ……。
母よ。昨日酷い目にあったばかりの少女にそれは無いんじゃないか? さすがにデリカシーが無さすぎるだろう。
と、攻めたかったが、ここは俺が大人になるところだ。
何せ息子の命がかかっているんだ。母親の気持ちもわからんではない。
ただ、うちの母親は凄むとプレッシャーがすごいんだ。
「い、いえ、何も」
「何もしていないのに、タカシはああなったの?」
「それは……」
やめてくれ。その攻撃は俺に効く。
しかし、マドカちゃんが困っている。
ここで女性に喋らせるのはさすがに紳士とはいえんだろう。
「えー」
話の長い校長のようなフィラーを挟み、もうどうでもなれという勢いで全てを話した。
「私ごとで大変恐縮ですが、これというのもですね、はい。マドカちゃんが私の同級生三人に脱がされているという状況に、ですね。ふふ、不覚にも興奮してしまいまして、私も健康な男子なので、はい。えー、その後、半裸のマドカちゃんに押し倒された刺激で至ってしまいました。という次第でございます。はい。」
「……このバカ」
バカはてめえだクソババアアアアアアアアアアア! だから言いたくなかったんだよ!
「タカシくん。……それで出ちゃったの?」
「恥ずかしながら……」
マドカちゃんが恥ずかしそうに下を向く。
ソレを見て俺のタカシは上を向く。
テーブルが遮っているせいで、目は合わなかったみたいだけど、俺のタカシとマドカちゃんは、互いに向き合っていた。
事情を知らないマドカちゃんのお母さんは混乱しながらも、単語と単語をつなぎ合わせて状況を察したようだ。
ここにきてようやく母親が俺の『射爆』について説明し始めた。
「タカシは『|射精誘発性頭蓋襲脈症《しゃせい ゆうはつせい ずがいない しゅうみゃくしょう》』という病気でね。原因はわからないんだけど、ごく稀になる人がいるらしいの。なんていうか、それでね。女性の……その……」
デリカシーの無い母親が必死に状況説明してくれている。正直ありがたい。マドカちゃんはともかく、マドカちゃんのお母さんの前で俺が話すのは拷問だ。
「いわゆる性接触によって、射精すると、酷い頭痛に襲われるの。それこそ、場合によっては本当に死んじゃうみたい。これまで何回か運ばれたことがあって、その度に『生きてて良かった』ってなるんだけど……バカみたいでしょ?」
母親は少し戸惑いながらも一息に全てを話した。俺が逃げ場がなくなるとすぐに、良く言えば腹を括る、悪く言えば投げやりになるのは、母親に似たのかもしれない。
「いえ、バカみたいなんて思いません。本当に辛そうでしたから……」
そうだ。マドカちゃんには俺の射爆の現場を見られてしまったんだ。あの凄惨な姿を目の当たりにしたら、さすがに笑うことはできないだろう。
マドカちゃんのお母さんは何も言わないが、驚いている様子だ。
女を助けたヒーローが、まさかの『射爆』なんてリスクを抱えた存在だったわけだから当然だろう。娘の伴侶候補に考えていた男が、三分間しか戦えない宇宙の戦士よりも恐ろしい爆弾を抱えていたんだからな。
何が三分だ。こっちはハンコスリだ。恐れいったか!
兎にも角にも、そうやって俺の悲しい弱点は竹之内家に知られることとなった。
後からこの話を聞かされたであろうマドカちゃんのお父さんは、上司の息子が『射爆』持ちだって知ってどんな気持ちだったのだろう。
俺には知る由もないことだ。
……。
俺の『ハーレムの呪い』は、俺の預かり知らぬところでマドカちゃんのお父さんにまで迷惑をかけてしまったようだ。
そうやって、うちの母親から俺の『射爆』を引き起こす可能性のある魔女と判断されたマドカちゃん。
それからは朝の送迎はバラバラになり、俺たちの高校時代の思い出は幕を閉じる。
そういや卒業式の日、一緒に写真を撮ったっけ。
ちょっと待ってな。
ほら、これだ。
『俺とマドカちゃんが常陸一高の看板の前で、二人で笑っている写真』
いやー、俺の学ランのボタンは全部奪われちまったんだが、マドカちゃんも何か欲しそうにしてたから、あれをあげたんだよ。
タカシのネームプレート!
レアアイテムだ。
私服で通える学校だったから、普通はみんな入学式で配布されるネームプレートをつけていなかったんだ。だから、油断していたんだと思う。
本来だったら一番価値のありそうなアイテムが俺の手元に残ってた。
マドカちゃんはめっちゃ喜んでたと思う。
何せ憧れの先輩の心臓に最も近い部位にある無機物だ。
今でも宝物にしているだろう。
そうに違いない。




