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『転生したらコウモリでした。キャピしか言えないけど異世界で生きます。』  作者: AsaHiruYugataYoru
第3章 キャピ! 異世界が思ったより広すぎます!

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第86話 『世界樹の実を食べたスゥが、「しゃ、しゃべった!?」』

第86話 世界樹の実を食べたスゥが、「しゃ、しゃべった!?」


 世界樹からもらった、一つの実。大きさは、両手に収まるくらい。

 綺麗な緑色をしていて、触るとほんのり温かい。


 そして――。


唯:「《鑑定》!」


《世界樹の実》

《世界樹が長い年月をかけて蓄積した生命力と魔力が凝縮された実》

《極めて高濃度の生命力を内包する》

《摂取した生物の生命力・魔力容量を大幅に増加させる場合がある》


唯:「…………」

エマ:「どうだった?」


唯:「なんか、すっごいやつ」

クロエ:「……雑」

唯:「だって、すっごいんだもん!」


 極めて高濃度。大幅に増加。

 どう考えても、すっごいやつだ。

 問題は――。


唯:「これ、どうしよう?」


 もらったはいいけど。食べる?

 私が?エマ?クロエ?


 みんなで分ける?


 いや、世界樹を助けたのはファルやレオンも一緒だし。

 精霊王だって頑張ってた。


エマ:「すぐに決めなくてもいいんじゃない?」

唯:「それもそうかぁ」


クロエ:「……保存方法も聞いた方がいい」

唯:「なるほど」


 さすがクロエ。冷静だ。

 じゃあ、とりあえず今日は――。


スゥ:「スゥ!」

唯:「ん?」


 肩を見る。スゥが伸びていた。

 にゅーん。肩から腕へ。腕から手首へ。


 そして。じーっ。


 私の手にある《世界樹の実》を見ている。


唯:「…………」

スゥ:「…………」


唯:「食べたいの?」

スゥ:「スゥ!」


 ぷるん!ものすごく元気な返事だった。


唯:「でもね、スゥ。これはすっごく貴重な――」


 ぽよん。


唯:「え?」


 跳ねた。私の腕から。《世界樹の実》へ。


 べちゃ。


唯:「…………」

エマ:「…………」

クロエ:「…………」


 スゥの身体が実を包む。


唯:「え?」


 ずぶ。


唯:「ちょっと待って」


 ずぶずぶ。


唯:「スゥ?」


 ぽこん。消えた。


唯:「…………」

エマ:「…………」

クロエ:「…………」

スゥ:「スゥ!」


唯・エマ:「ええええええええええっ!?」

クロエ:「……食べた」

唯:「食べたぁぁぁぁぁぁ!?」


 丸ごと!世界樹の実を!


唯:「スゥ! 出して! 今すぐ出して!」

スゥ:「スゥ?」


唯:「『なに?』じゃないの! ぺってして! ぺって!」

スゥ:「スゥ!」


唯:「絶対分かってない!」

エマ:「唯、スライムに『ぺっ』は難しいんじゃ……」

唯:「でも世界樹の実だよ!?」


 滅多に実らないって言ってたよ!?

 世界樹からのお礼だよ!?

 もらったばっかりだよ!?


 《深紅》のときだってそうだ。私が寝てる間に吸収して。

 今度は目の前で堂々と!


唯:「スゥ、食べ物見つけたら何でも吸収するの禁止!」

スゥ:「スゥ!」

唯:「分かってないよね!?」


クロエ:「……唯」

唯:「なに!?」


クロエ:「スゥ」

唯:「だからスゥが――」


クロエ:「……光ってる」

唯:「え?」


 見る。スゥの身体の中心。

 さっきまでなかった緑色の光が灯っていた。


スゥ:「……スゥ?」


 ぷる。光が広がる。

 身体の中を巡るように。

 緑色の光が、何本もの細い線になって走っていく。


エマ:「唯、離れて」

唯:「う、うん」


 スゥを地面へ置く。次の瞬間。


 ドクン――。


唯:「っ!?」


 空気が震えた。

 いや。スゥから溢れた魔力だ。

 小さな身体からは考えられないほどの魔力が、一気に膨れ上がる。


唯:「スゥ!?」


 システム音が響いた。

《高密度生命力の吸収を確認》

《個体名:スゥ》

《種族特性《吸収》による同化を開始》

《生命力容量が拡張されます》

《魔力容量が拡張されます》

《保有魔力量の急激な増加を確認》


 ぷるぷるぷる!スゥが震える。


エマ:「スゥちゃん……!」

唯:「大丈夫!? スゥ!」


スゥ:「ス……ゥ……」


 返事はある。でも、いつもの元気な声じゃない。

 私はしゃがみ込む。


唯:「スゥ。私、分かる?」


 ぷる。スゥが私の方を向いた。

 たぶん。顔はないけど。


スゥ:「ス……ゥ……」

唯:「大丈夫。ここにいるからね」


 身体に触れる。

 いつもの、ぷにぷに。


 だけど少しだけ熱い。

 そのとき。


《個体名:スゥの魔力構造に変化を確認》

《意思情報の魔力変換が可能になりました》

《条件を満たしました》

《スキル《言語魔力変換》を獲得しました》


唯:「……言語?」


 何それ?


《《言語魔力変換》》

《意思を魔力情報へ変換し、音声として出力する》


唯:「音声……?」

クロエ:「……喋れる?」

唯:「え?」


 スゥを見る。さすがに。

 そんな急に――。


スゥ:「…………」


 ぷる。


スゥ:「……ユ……」

唯:「…………え?」

スゥ:「ユ……ぃ……?」


 時間が止まった。エマも。クロエも。

 私も。誰も動かない。


唯:「…………スゥ?」

スゥ:「ユ……イ」

唯:「…………」


 今。私の名前。言った?


スゥ:「ユイ」

唯:「しゃべったぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


エマ:「スゥちゃん!?」

クロエ:「……喋った」


唯:「スゥ! もう一回! もう一回言って!」

スゥ:「ユイ!」


唯:「私! 唯!」

スゥ:「ユイ!」


唯:「そう! 私が唯!」

エマ:「唯、落ち着いて!」

唯:「だって喋ったんだよ!?」


 ずっと。私が話しかけても。

 返ってくるのは「スゥ」だけだった。


 地下で一人だったときも。

 肩に乗せて歩いていたときも。


 私が勝手に話して。

 スゥが「スゥ」って返して。

 それだけだったのに。


スゥ:「ユイ!」

唯:「うん!」


 なんだろう。めちゃくちゃ嬉しい。

 名前を呼ばれただけなのに。


エマ:「スゥちゃん。私は?」

スゥ:「…………」


 スゥがエマを見る。


エマ:「エマ」

スゥ:「……エ……マ」

エマ:「……!」


唯:「言えた!」

エマ:「すごいね、スゥちゃん!」


 エマが嬉しそうにスゥを撫でる。


クロエ:「……クロエ」

唯:「自分からいった!」


クロエ:「……クロエ」

スゥ:「…………ク……ロ……」


クロエ:「……クロエ」

スゥ:「クロ……エ」


クロエ:「……どやぁ」

唯:「なんでクロエがどやるの!?」


 まだ単語だけ。発音もぎこちない。

 それでも。


スゥ:「ユイ。エマ。クロエ」

唯:「うん!」


 また一つ。スゥが私たちに近づいた。

 そんな気がした。


 ――その直後。

《高密度生命力の同化が完了しました》

《拡張された魔力容量を基盤とした空間形成が可能になりました》


《条件を満たしました》

《スキル《亜空間形成》を獲得しました》


唯:「今、なんかもう一個覚えた」

エマ:「今度は何?」

唯:「《亜空間形成》」

クロエ:「…………」


 クロエの目が。きらっ。


唯:「あ」

クロエ:「……詳しく」


 やっぱり食いついた。


唯:「ちょっと待って。《鑑定》!」

《亜空間形成》

《魔力によって現実空間から切り離された独立領域を形成する》

《形成者は任意の場所に領域への出入口を生成できる》

《領域規模は形成者の成長・蓄積魔力・吸収した性質により変化する》


唯:「……独立領域?」

エマ:「どういうこと?」


唯:「えっと……スゥの中に入るんじゃなくて、別の場所に空間を作るみたい」

クロエ:「……見たい」

唯:「見たい!」


エマ:「待って。二人とも絶対に試す顔してる」

唯:「だって亜空間だよ!?」


 亜空間。名前だけでもう面白い。

 異世界に来てからいろんなものを見てきたけど、亜空間はまだ見たことがない。


唯:「スゥ! できる?」

スゥ:「ア……クウ……カン?」


唯:「そう。亜空間!」

スゥ:「…………」


 ぷるぷる。分かってない。


唯:「うーん……」

 どう説明すればいいんだろう。

 空間を作って。そこに入口を――。


唯:「スゥ。なんかこう……別のお部屋作れる?」

スゥ:「オ……ヘヤ?」


唯:「そう! お部屋!」

スゥ:「…………」


 ぷる。スゥの身体が淡い緑色に光った。


唯:「お?」


 光がスゥから離れる。ふわり。

 私たちの前へ。

 何もなかった空中に、緑色の光が一本の線を描いていく。


 縦に。横に。ぐるっと一周。


エマ:「これ……」

クロエ:「……入口?」


 人一人が通れるくらいの、光の輪。

 その内側だけ。景色がない。真っ暗だった。


唯:「…………」

 恐る恐る近づく。向こう側を覗いてみる。何も見えない。


唯:「スゥ。これ、入れるの?」

スゥ:「…………」


 ぷるん。


スゥ:「スゥ!」

唯:「そう! 入る!」

スゥ:「……スゥ!?」


 合ってるのか分かってない顔してる!


クロエ:「……唯」

唯:「なに?」


クロエ:「行こう」

唯:「うん!」


エマ:「なんで即決なの!?」

唯:「だって、気になるじゃん!」


 私は光の輪へ手を伸ばす。

 指先が黒い部分へ触れた。


 何も起きない。そのまま手を入れる。


唯:「おお……!」


 腕が消えた。でも感覚はある。


唯:「大丈夫そう!」

エマ:「本当に?」

唯:「たぶん!」


エマ:「たぶん!?」


 私はそのまま。一歩。

 光の向こうへ踏み込んだ。


第86話 「世界樹の実を食べたスゥが、『しゃ、しゃべった!?』」 完

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