第69話 「助けたエルフ、王女様だったみたいです!」
# 第69話 助けたエルフ、王女様だったみたいです!
がしゃん。鉄格子の向こうを、エルフの兵士が通り過ぎていく。
私はその背中をじーっと見送った。
唯:「…………納得いかない」
クロエ:「……同感」
唯:「私たち、ファルを助けたよね?」
エマ:「うん」
唯:「盗賊も捕まえたよね?」
クロエ:「……三人、木に縛ってきた」
唯:「ここまで送り届けたよね?」
エマ:「うん」
唯:「なのに、なんで牢屋なの!?」
鉄格子をがしゃがしゃ揺らす。
唯:「キャピー! 出してー!」
エマ:「唯、壊しちゃダメだよ!」
唯:「壊さないよ!」
……たぶん。
ちょっと力を入れたら曲がりそうだけど。
クロエ:「……でも、向こうから見たら怪しい」
クロエが自分を指差す。
クロエ:「ヴァンパイア」
次に私。
クロエ:「ヴァンパイアドラゴン」
最後にエマ。
クロエ:「……普通」
エマ:「私だけ!?」
唯:「エマも月龍巫女だよ?」
エマ:「見ただけじゃ分からないでしょ!」
確かに。行方不明になったファルを、ヴァンパイアとドラゴンが連れてきた。
唯:「……怪しいね」
クロエ:「……すごく」
仕方なく壁にもたれる。
それにしても気になる。
ファルが連れていかれたとき、兵士たちは確かに叫んでいた。
『ファル様!?』って。
◇
しばらくして。廊下の向こうから慌ただしい足音が響いた。
ファル:「唯さん!」
唯:「ファル!」
ファルが駆けてくる。
その隣には、若いエルフの男性。
さらに後ろから、長い金髪を後ろへ流した男性が歩いてきた。
上質な深緑の衣装。
兵士たちが一斉に道を開け、頭を下げる。
(……絶対、偉い人だ)
ファル:「申し訳ありません! 事情はすべて説明しました!」
すぐに牢が開けられる。
唯:「やっと出られたぁ……」
私たちが廊下へ出ると、男性が深々と頭を下げた。
アルヴェイン:「娘を救っていただいたこと、エルフの王として――そして父親として、心より感謝する」
唯:「…………」
ん?娘?王?
私はゆっくりファルを見る。
唯:「……ファル?」
ファル:「はい?」
唯:「この人、お父さん?」
ファル:「はい。父のアルヴェインです」
唯:「王様?」
ファル:「はい」
唯:「…………」
お父さんが王様。
つまり――。
唯:「ファル、王女様なのぉぉぉ!?」
ファル:「す、すみません! 言う機会がなくて!」
唯:「聞いてないよ!」
ファル:「聞かれませんでしたので!」
唯:「普通聞かないよ!」
そのとき、隣にいた若いエルフが一歩前へ出た。
レオン:「ファル様」
ファル:「……レオン」
レオン:「護衛を置いて一人で森へ入り、あげく盗賊に捕まったと聞きましたが?」
ファル:「…………」
レオン:「我々がどれだけ探したと――」
ファル:「ご、ごめんなさい!」
すごい。王女様が一瞬で小さくなった。
レオンと呼ばれた青年は怒っている。
……というより。
(めちゃくちゃ心配してたんだろうなぁ)
アルヴェイン:「説教は後にしろ、レオン」
レオン:「……失礼しました」
クロエ:「…………」
クロエが二人をじっと見る。
唯:「どうしたの?」
クロエ:「……別に」
なんだろ?
◇
私たちは王城の一室へ案内された。
大きな窓の向こうには――世界樹。
近くで見ると、異変がよく分かる。
青々とした葉に茶色が混じり、ところどころ枝が露出していた。
アルヴェイン:「特にここ最近、衰弱が目に見えて加速している」
エマ:「原因は分かっていないんですか?」
アルヴェイン:「ああ。土、水、病、魔物……考えられるものは調べた。しかし原因は特定できていない」
ファル:「だから私は、精霊王様を探していたんです」
唯:「精霊王?」
ファル:「この森のどこかに《精霊の泉》があり、そこに精霊王様がいると伝えられています」
クロエ:「……場所は?」
ファル:「分かりません」
唯:「え?」
ファル:「何日も探しましたが、一度も……」
それで一人で森へ入ったのか。
◇
アルヴェイン:「そなたたちは、なぜこの国へ?」
唯:「私たちも探し物なんだ」
異世界召喚に使われた《静青のダンジョンコア魔石》。
同じような魔石が世界のどこかに残っていること。
そして大ババ様の占いで見えた、
巨大な樹。深い森。澄んだ水。
唯:「だから世界樹の近くに、《深緑のダンジョンコア魔石》があるんじゃないかなって」
アルヴェイン:「《深緑のダンジョンコア魔石》……聞いたことがないな」
ファル:「私もです。でも……」
ファルが世界樹を見る。
ファル:「世界樹の異変と、皆さんが探している魔石。何か関係があるのかもしれません」
私もそう思う。ただ、まだ何も分からない。
ファル:「唯さん。一緒に精霊王様を探していただけませんか?」
唯:「精霊王に両方聞いちゃう?」
ファル:「はい!」
エマとクロエを見る。
エマ:「私は賛成」
クロエ:「……私も」
唯:「じゃあ決まり!」
◇
そして――。探した。
1日目,2日目,3日目
森の奥。川沿い。古い獣道。
ファルが怪しいと思っていた場所も全部。
私の《振動感知》も使った。
クロエも周囲を探り、エマも魔力の流れを調べてくれた。
なのに。
唯:「……ない!」
ファル:「ありませんね……」
唯:「こっちは?」
クロエ:「……さっき通った」
唯:「キャピ……」
歩き回っても歩き回っても、《精霊の泉》は見つからなかった。
◇
夜。夕食とお風呂を済ませ、私たちはファルの邸宅で休んでいた。
エマとクロエが部屋へ戻ったあと、私は夜風をあびに庭へ出る。
そこにはファルがいた。
月明かりの下、遠くの世界樹を見つめている。
唯:「ファル?」
ファル:「……今日も見つかりませんでしたね」
昼間より、少しだけ弱い声。
ファル:「王族なのに、世界樹に何が起きているのかも分からない。精霊王様を探しても見つけられない……」
唯:「でも、探してるじゃん」
ファル:「え?」
唯:「分からないから探してるんでしょ? だったら明日も探せばいいよ」
私だってそうだった。
コウモリになったときは何にも分からなかった。
飛び方も、戦い方も、この世界のことも。
唯:「最初から何でも分かる人なんていないよ。キャピ!」
ファル:「……ふふっ。そうですね」
ファルが少し笑った。そのとき。
唯:「……ん?」
ファル:「どうしました?」
クンクン。鼻を動かす。
もう一度。クンクン。
唯:「……なんか、いい匂いする」
ファル:「匂い?」
甘い。すごく薄い。
でも――懐かしい。
(これ……どこかで……)
私は立ち上がった。
庭の先。暗い森の奥から漂ってくる。
唯:「……こっち」
ファル:「え?」
クンクン。間違いない。
私は、この匂いを知っている。
唯:「ファル、行ってみよう!」
ファル:「えっ!? 今からですか!?」
月明かりの下。
私は甘い香りを追って、森へと足を踏み入れた。
第69話 助けたエルフ、王女様だったみたいです! 完




