第66話 「探してたダンジョンコア、ずっと持ってました」
# 第66話 探してたダンジョンコア、ずっと持ってました
唯:「これがダンジョンコア魔石ーーー!?」
手のひらの上。
深紅の魔石を、もう一度見る。
どう見ても――ずっと持ち歩いていた魔石だ。
唯:「キャピ……」
クロエ:「……唯の《鑑定》じゃ、まだ見えない?」
唯:「みたい……」
名前が分かっただけでも進歩なんだろうけど。
でも、待って。この魔石――。
唯:「あっ!」
エマ:「どうしたの?」
唯:「前に反応してた!」
ノストの洞窟ダンジョン。
あの泉で《静青のダンジョンコア魔石》を見つけたとき。
腰に下げていたこの魔石が――。
「ぷるっ。」って震えた。
しかも《静青》を拾ったときなんて。
「ぷるっ。ぷるっ。ぷるぷるっ。」
唯:「あれ! 仲間がいたから反応してたんだ!」
クロエ:「……たぶん」
唯:「形も似てたじゃん!」
クロエ:「……うん」
唯:「大きさも!」
クロエ:「……うん」
唯:「なんで気づかなかったの私!?」
クロエ:「……《鑑定》でも分からなかったから、仕方ない」
唯:「クロエぇぇ……!」
優しい!クロエが優しい!
ガリア:「なんじゃ。そんなことを気にしておったのか」
唯:「だってガリアがくれたんだよ!?」
この深紅の魔石は、以前この里を出るときにガリアからもらったものだ。
唯:「ガリア、知ってたの?」
ガリア:「知らん」
唯:「即答!?」
ガリア:「ワシが知っておったら、その時に言っておるわ!」
ガリア:「ワシも珍しい魔石とは思っておったが、ダンジョンコア魔石とやらとは知らなんだ」
ガリアが腕を組む。
ガリア:「そもそも、その名自体ほとんど聞かんからの」
唯:「そっかぁ……」
つまり。私たちは世界中にあるダンジョンコアを探そうとして――。
最初の一個を探しに来たら。
すでに腰からぶら下げてました。
唯:「……キャピ」
エマ:「一個見つかったんだから、いいことじゃない?」
唯:「それはそうなんだけど!」
なんか納得いかない!
◇
ガリア:「そういえば――」
大ババ様の家を出たところで、ガリアが空を見上げた。
ガリア:「数か月ほど前じゃったかの」
唯:「ん?」
ガリア:「王国の方角から、妙にでかい魔力を感じたぞ」
足が止まる。
唯:「……王国?」
ガリア:「うむ。一瞬じゃったがの。自然に発生する類いのものではなかった」
エマと顔を見合わせる。数か月前。
王国。巨大な魔力。
唯:「……やっぱり」
エマ:「うん」
唯:「異世界召喚、本当に行われたんだ」
ガルドから聞いた話。
私たちが売った《静青のダンジョンコア魔石》を使って、四人の異世界人が召喚されたという噂。
まだ自分の目で見たわけじゃない。
でも――ガリアほどの龍が遠く離れたここから感じるほどの魔力が発生したのなら。
噂だけでは片づけられない。
ガリア:「異世界召喚か。懐かしいのぉ」
唯:「…………え?」
今。なんて言った?
唯:「ガリア、異世界召喚を知ってるの!?」
ガリア:「知っておるぞ」
唯:「先に言ってよ!」
ガリア:「聞かれとらん!」
唯:「そうだけど!」
ガリアは豪快に笑った。
ガリア:「ワシがまだ若かった頃にも、一度あったからのぉ」
唯:「ガリアが若かった頃……?」
クロエ:「……何年前?」
ガリア:「さあのぉ!」
クロエ:「……覚えてない」
ガリア:「昔のことじゃ! いちいち数えておらん!」
龍族の時間感覚、雑すぎる。
エマ:「そのときは、どうなったんですか?」
ガリア:「んー?」
ガリアが顎を掻く。
ガリア:「詳しいことは知らん!」
唯:「知らないんかい!」
ガリア:「当時のワシは、そんなものより強い奴と戦う方が楽しかったからの!」
唯:「今と変わってない!」
ガリア:「わはははは!」
ダメだ。若い頃からガリアだった。
だけど、ガリアの表情がほんの少しだけ変わった。
ガリア:「まあ――世界が少しばかり荒れたのは覚えておる」
唯:「……世界が?」
ガリア:「うむ。国同士が揉めたり、あちこちで戦いが起きたりの」
ガリアは昔を思い出すように空を見る。
ガリア:「当時のジジババどもが大慌てしておったわ! わはははは!」
唯:「ガリアがジジババって呼ぶ人たち、何歳なの……?」
クロエ:「……たぶん、考えたら負け」
でも。笑っているガリアとは反対に、私は少しだけ怖くなった。
昔の異世界召喚では、世界が荒れた。
そして今。王国は四人も召喚した。
(やっぱり――)
放っておいちゃダメだ。ダンジョンコア魔石。
少なくとも、何も知らないまま召喚に使われるのだけは止めたい。
◇
ガリアは少し考え込んでいた。
ガリア:(そういえば、今回の異世界召喚より、
ちょっと前にもなんかあったような……)
腕を組んで、ぼんやりと首を傾げる。
ガリア:(……忘れたの~)
そんなガリアを残して、私たちは出発前に
もう一か所だけ思い出の場所へ寄っていくことにした。
◇
唯:「はぁぁぁぁぁぁぁ……」
ちゃぷん。肩までお湯に沈む。
唯:「生き返るぅぅぅ……」
エマ:「唯、おばあちゃんみたい」
唯:「今日はいっぱい吹っ飛ばされたの!」
長距離を飛んで。ガリアと戦って。
壁に何回も激突して。身体中が痛い!
だから――。
龍の里に来たなら、やっぱりここ!
温泉!
唯:「懐かしいねぇ」
エマ:「うん」
隣のエマも気持ちよさそうに目を細めている。
前にこの里で暮らしていた頃。
何度も入った温泉だ。
そして反対側には――。
クロエ:「…………」
クロエが口元までお湯に沈んでいた。
唯:「クロエ?」
クロエ:「……なに?」
唯:「どう?」
クロエ:「…………いい」
唯:「でしょ!」
クロエ:「……身体が溶けそう」
唯:「分かるぅ!」
クロエがさらに沈む。鼻の下まで。
エマ:「沈みすぎるとのぼせるよ?」
クロエ:「……あと少し」
唯:「クロエ、温泉好きなんだ」
クロエ:「……好きになった」
即落ちだった。しばらく三人で、ぼーっとする。
湯気が昇っていく。風が気持ちいい。
エマ:「前は二人だったね」
唯:「うん」
あの頃は、私とエマ。今は――三人。
クロエ:「……今は三人」
唯:「そうだね」
クロエ:「…………」
クロエが少しだけ移動してきた。
ちゃぷん。私とエマの間へ。
唯:「近くない?」
クロエ:「……温泉だから」
唯:「理由になってないよ!」
エマ:「ふふっ」
まあ、いいか。私も少しだけクロエ側へ寄った。
触れそうな距離に、胸の奥が「とくん」と3人は共鳴しゆっくりした時間を過ごした。
◇
次の日
唯「あっ!そうだ!」
エマ・クロエ:「?」
もう一度、大ババ様の家へ向かった。
唯:「大ババ様!」
大ババ様:「zzz……zzz……」
唯:「また寝てる!」
クロエ:「……ずっと寝てたんじゃない?」
エマ:「ありえるかも……」
私は布団の横にしゃがむ。
唯:「大ババ様! 次! 次のダンジョンコア魔石を占って!」
大ババ様:「……んぁ?」
唯:「次のありか!」
大ババ様:「せっかちな娘じゃのぉ……」
唯:「世界中探すの無理なんだもん!」
大ババ様がゆっくり身体を起こした。
目を閉じる。
大ババ様:「…………」
今度こそ。占ってる。たぶん。
大ババ様:「見えるのぉ……」
唯:「どこ!?」
大ババ様:「大きな……大きな樹じゃ……」
巨大な樹。
大ババ様:「深い森……」
エマ:「森……?」
大ババ様:「それから……澄んだ水……」
クロエ:「……大きな樹。深い森。綺麗な水」
唯:「それって――」
大ババ様:「そして……重要なのはのぉ……」
来た!重要な情報!
大ババ様:「zzz……zzz……」
唯:「寝るなー!」
エマ:「大ババ様、寝ないで!」
クロエ:「……起きて」
大ババ様:「……騒がしいのぉ」
唯:「誰のせい!?」
後ろで話を聞いていたガリアが腕を組む。
ガリア:「巨大な樹。深い森。澄んだ水か」
少し考え。
ガリア:「おそらく――エルフの国じゃな」
唯:「エルフ!」
エマ:「じゃあ、大きな樹って……」
ガリア:「世界樹じゃろう」
世界樹。その言葉だけで、胸が少し高鳴った。
異世界に来たんだ。いつか見てみたいと思っていたものの一つ。
唯:「世界樹……!」
クロエ:「……行ってみたい」
唯:「私も!」
エマ:「目的、忘れないでね?」
唯:「キャピ」
忘れてません!たぶん!
こうして――。
私たちの次の目的地が決まった。
龍の里から、さらにその先へ。
次に向かうのは――。
**エルフの国。**そして。
**世界樹――!**
# 第66話 探してたダンジョンコア、ずっと持ってました 完




