第28話 「太陽、痛くない?」
# 第28話 太陽、痛くない?
洞窟を出てから、しばらく。
私は街へ続く道を歩いていた。
右を見れば、風に揺れる草原。
左を見ても、やっぱり草原。
顔を上げれば、どこまでも続く青い空。
唯:「キャピ……!」
エマ:「ふふっ。唯、さっきからずっと楽しそうだね」
唯:「だって見てよ! 空だよ! 草だよ! 山まである!」
エマ:「うん。あるね」
唯:「反応薄くない!?」
エマたちにとっては普通の景色なんだろう。
でも私は何か月も、岩と水と魔物しか見ていなかった。
風が吹く。
草の匂いが鼻をくすぐる。
唯:「……外の匂いだ」
思いきり息を吸う。
最高だ。
この道の先には、人間の街がある。
家。
お風呂。
ベッド。
美味しいご飯。
そして――。
酒!
ようやく私の異世界生活が始まる!
……と、思っていたんだけど。
◇
唯:「…………暑い」
エマ:「そう?」
唯:「エマ、暑くない?」
エマ:「今日は涼しい方だと思うけど」
唯:「…………え?」
周りを見る。
誰も暑そうじゃない。
なのに、太陽の当たっている腕がジリジリする。
熱いというより――痛い。
唯:「ちょっと待って。これ絶対おかしい!」
慌ててエマの陰へ入る。
エマ:「わっ、唯?」
すると、少し楽になった。
唯:「…………太陽だ」
ミレイ:「もしかして、ヴァンパイア種だから?」
唯:「キャピ?」
ミレイ:「ヴァンパイア系には、日光を苦手とする種族がいるって聞くわ」
ヴァンパイア。
日光。
弱点。
唯:「…………」
エマの陰から腕を出す。
ジリジリ。
引っ込める。
もう一度。
ジリジリ。
唯:「……終わった」
ガルド:「何がだ」
唯:「私、昼間に外歩けないの!?」
ガルド:「燃えてるわけじゃねえだろ」
唯:「そういう問題じゃない!」
唯:「昼から酒飲めないじゃん!」
ガルド:「そこかよ」
唯:「重要だよ!」
リューク:「……魔力で防げるかもしれないぞ」
唯:「え?」
リューク:「肌に直接日光が届くから痛むんだろ。魔力で身体の表面を覆ってみろ」
唯:「…………どうやって?」
リューク:「魔力を感じて、動かす」
唯:「それが分かんない!」
リューク:「そこからか……」
◇
というわけで。
街へ向かう途中、突然の魔力講座が始まった。
リューク:「まず、自分の中にある魔力を感じろ」
目を閉じる。
魔力。
魔力……。
今までスキルは何度も使ってきた。
だったら、何かあるはず。
意識を身体の内側へ向ける。
(…………あ)
何かがある。
血とは違う。
身体中を巡っているような、不思議な感覚。
(これ……かな?)
なら――。
唯:「ぬんっ!」
ブワッ!!
身体から何かが一気に溢れ出した。
唯:「おおっ!」
リン:「うわぁ……」
唯:「何その反応」
リン:「魔力、すっごい垂れ流し」
唯:「キャピ!?」
リューク:「出せとは言ったが、撒き散らせとは言ってない」
唯:「初めてなんだから仕方ないでしょ!」
そのとき。
エマ:「―んっ」
ドクン。
エマが胸元を押さえた。
エマ:「…?…え?」
突然、心臓が大きく跳ねる。
頬も少し熱い。
目の前には、リュークと言い合っている唯。
ただそれだけなのに。
ドクン。
エマ:「…………?」
唯はその変化に気づかなかった。
◇
リューク:「外へ出すんじゃない。身体の表面に留めろ」
唯:「留める……」
もう一度。
今度はゆっくり。
身体の中を流れる魔力を感じる。
外へ逃がさず。
皮膚のすぐ上へ。
薄く――。
ブワッ!
唯:「あっ」
リューク:「出しすぎだ」
唯:「もう一回!」
ふわっ。
リューク:「右腕しか覆えてない」
唯:「難しい!」
もう一度。
また漏れる。
さらにもう一度。
今度は左側が薄い。
唯:「ぬぬぬ……!」
魔力を出すんじゃない。
動かす。
身体中へ巡らせて。
必要な場所に、必要な分だけ――。
ふわり。
唯:「…………お?」
全身を薄い膜が包む。
その瞬間。
――ピコン。
《魔力操作の熟練度が規定値に到達しました》
《スキル《魔力制御Lv.1》を獲得しました》
唯:「キャピ!!」
来た!
新スキル!
さっそくエマの陰から出てみる。
太陽の光が肌へ落ちる。
唯:「…………おお!」
さっきまでのジリジリした痛みが、かなり弱くなっている。
唯:「できたよ、エマ!」
エマ:「ほんと?」
唯:「うん!ちょっと涼しくなった!」
これならいける。
唯:「でも、魔力制御って難しいね」
エマ:「最初なんだから仕方ないよ」
唯:「身体全体に薄く……薄く……」
魔力を均等に巡らせる。
右腕。
左腕。
脚。
背中。
唯:「ぬぬぬ……」
あと少し――。
ブワッ。
唯:「あ」
また魔力が漏れた。
その瞬間。
エマ:「――っ!」
ドクンッ!
エマ:「…………!」
唯:「エマ?」
エマ:「えっ!?」
唯:「やっぱ難しいね、これ」
エマ:「そ、そうだね……!」
エマが胸元を押さえる。
心臓が速い。
頬も、さっきより熱い。
でも私は気づかない。
もう一度、魔力を身体へ戻して――。
唯:「おっ! 今度はいい感じ!」
全身を薄く覆う。
唯:「だいぶ涼しくなった!」
エマ:「…………」
ぱたぱた。
なぜかエマが、手で顔を扇ぎ始めた。
唯:「……エマ?」
エマ:「やっぱり今日……暑いかも」
唯:「え?」
ガルド:「…………」
ミレイ:「…………」
リン:「…………」
リューク:「…………」
全員で空を見上げる。
青空。
白い雲。
爽やかな風。
どう考えても、過ごしやすい陽気。
唯:「…………?」
エマ:「…………///」
ぱたぱた。
エマだけが、赤い顔を扇いでいた。
よく分からないけど。
とりあえず――。
(魔力制御、もっと練習しよ)
このときの私は、まだ知らなかった。
自分から漏れた魔力が。
エマにだけ、少し違う形で届いていることを――
第28話 太陽、痛くない? 完




