31 ボーラビット狩り 3
ボーンラビットを探し始めてしばらく歩き続けているがなかなかそれらしい音が聞こえてこない。
勝手を知らない仁那はこういう物なのかと黙ってついていく。喋る声で警戒音を聞き逃したら嫌だなと言うのもあったが。黙々と歩き続けること約一時間、ようやくテオが足を止め困ったように振り向く。
「居ないなあ……。いつもはもっとすぐに見つかるんだけど」
仁那の前で良いところを見せたいと考えているテオにとっても、なかなかボーンラビットが見つからないことに焦りを感じていた。
――釣りの人がいう、ボウズってやつもあるのかな。
そんなことを考えながら、仁那はテオに気にしていないよと微笑みかける。テオは少し照れたように頭をかきながら、少し違うところを探そうと進んでいく。
それからしばらくしてようやくアタリが来る。
キュッキュッ
初めて聞くが仁那にもすぐにその音は分かった。音の方へ二人共盾を向け腰をかがめる。そうした方が的が減ってボーンラビットを捉えやすい。その瞬間、草がザザッと揺れ弾丸のようにボーンラビットが飛び出す。
やはり狙いは前にいるテオだ。
テオは視界を確保するために低めに下げていた盾をスッと持ち上げる。そしてゴッっと盾に伝わる衝撃を受け止め、テオは後ろにいる仁那を振り向く。
「よっし。一匹」
仁那もすぐにテオに近寄る。テオが盾を仁那に見せると、ボーンラビットは角を盾に刺したままクッタリとしている。
「あれ? 暴れたりしないのね?」
「そうそう、ぶつかった衝撃で脳が揺さぶられて大抵気絶しちゃうんだ」
「ああ……。やっぱりなんか残念な感じ」
仁那はそんなボーンラビットを苦笑いをしながら見つめる。仁那が日本に居た頃、そんな残念な生き物を取り扱ったアニメが好きだったのを思い出しながら、この世界にもそんな魔物が居るんだ。なんてことを考えていた。
ボーンラビットが目を覚ます前にと、テオは素早くナイフで息の根を止め、そのまま足を持ってぶら下げる。
「これで、さっきの場所で吊るしておくとだいぶ血が抜けるから。一旦戻ろう」
「うん」
始めの場所から少し遠くまで来てしまったためゆっくり歩いていく。そこまで大きくない魔物ではあるが、血抜きをしながら手に持って居るため行動は多少抑制される。村の外での活動であるため何かトラブルがあれば危険にも成る。手間ではあるが、いちいち獲れた獲物を吊るしに行くのがルールだとテオは説明する。
「それでも、途中でまた出てくることはあるから盾はいつでも構えられるようにね」
「ラビット、私持とうか?」
「大丈夫。俺は片手でも受け止められるから」
「うん、気をつけてね」
それでも、小一時間で一匹という成果にテオは少し不満もあるのだろう。来たルートと少し変えて、あえてボーンラビットを求めるように歩いていく。
しかし、特にあの警戒音が聞こえること無く元の場所に近づいていく。
……。
うぁああああ……。
「なんだ?」
もう少しという所で、ミザールとアルコン達の居る方から叫び声が聞こえた。慌てて仁那が振り向くと、必死に走る二人が見えた。そして、その後ろからは人と同じ様なサイズの獣が二人を追っている。
「え?」
突然の事に、仁那が呆けたような声を上げてしまう。
「な、なんでこんなところにフォッシルが……?」
「フォッシル?」
「もっと奥の方にいる獰猛な魔物だ」
「ど、どうしよう……」
「くっそ……ニナは逃げろっ。あの二人は……」
フォッシルは、少し首の長めのイタチの様な姿をしている。体は人間の大人くらいの大きさはあった。普段はこんな人里近い場所に居るような魔物ではない。村の大人の冒険者たち数人がかりでなんとか倒せるような魔物だ。
突然の状況に戸惑いながらも、仁那は一人で逃げることに後ろめたさを感じる。
「だけど……」
「大丈夫、三人いればなんとかなる」
テオはフォッシルから目を離さずに、その動きを見つめていた。
そのフォッシルは逃げ惑う二人をゆっくりと追っていく。ミザールとアルコンも二人居るため、一気には行かない。一人の人間を襲っている間にスキは出来る。その間にもうひとりに攻撃されることを警戒しているようだ。
テオは、ボーンラビットを手放すと剣を抜き放ち、二人に合流するために動き出す。仁那は一瞬迷ったが、この状況では自分は足手まといに成る。唯一の武器である背負った弓を手にしながら村の方へ走り出した。
テオは二人の進む先に合流できるようにと斜めに走る。三人なら退治することは出来なくてもきっと撃退は出来る。そう信じ、右手の剣をギュッと握りしめる。
その時だった、逃げていたアルコンが突然、石に足をつまずいたのか転ぶ。先を走るミザールはそれに気がつくのが遅れ、一瞬二人の距離が広がった。
――やばい!
それを見たテオは必死に方向を変え、アルコンに向かう。フォッシルはその絶好のタイミングに全身をバネのようにスピードを上げた。
「うわあ!」
アルコンは必死に立ち上がろうとしながら、襲いかかるフォッシルに木の盾を向けその身を守ろうとする。気がついたミザールが慌ててその足を止めアルコンに向かおうとするが開いた距離が広すぎた。
「アルコン!」
フォッシルはアルコンの突き出した木の盾に噛み付くと首を振る。堪らずに手を離したアルコンにはもはや身を守るすべはなかった。鼻筋にシワを寄せ、獰猛な口を開けばギラギラとした牙が光る。
アルコンが盾を奪われるのを見た仁那はとっさに足を止め背中の矢筒から一本の矢を取り出す。無我夢中で矢を番え弓を引く。
――お願い。当たって……。
まだまだ不慣れな弓だが、今アルコンを救うにはこれしか無い。テオ、ミザール、仁那、この三人の中で間に合うのはこの弓だけだ。
めいっぱい引き絞られた弦がその力を解放する。仁那の弓は唸りを上げまっすぐにフォッシルへ向かった。
アルコンに噛みつこうと飛びついたフォッシルの臀部に一本の矢がささった。
「ギャン!」
「え……?」
それはテオの目にも映る。空中で臀部に突き刺さった矢により声をもらしたフォッシルが怯んだようにその足を止める。
「おおお! ニナ!」
走りながら嬉しそうにテオが仁那の方を振り向いた。
――当たった!
自信があったかといえば、無かった。だが無事に刺さったことに仁那はホッとする。このタイミングがあればミザールも間に合う。
フォッシルはその場で体を曲げ刺さった弓を口に咥え引き抜く。そして怒りを宿した瞳が仁那を捉えた。




