第十九話 『親友』
五年前。
「やった! あすちゃんと一緒のクラスだ!」
「よかったー」
「あたし、心配だったよ! 友達が誰もいなかったらどうしようって!」
「いや結衣ならすぐ新しい友達ができるんじゃない?」
「そんなことないよ! あたしはあすちゃんみたいに凄くないよ!」
「何言ってんの? わたしより結衣のほうがずっと元気で、話しかけやすいだろう?」
「でもでもあすちゃんは自分に自信があるじゃない! だからそんなにかっこいいよ!」
「結衣ももっと自信を持てよ。凄くかわいいのにもったいないな」
「えへへ~ ありがとうあすちゃん!」
「いやここで抱きつくなっ」
「でも大丈夫だよ。あたしあすちゃんがいるから新しい友達いらないよ」
「だから抱きつくなってっ」
「あたしとあすちゃんとはるはるはずっと友達だよ」
「いいから離れろっ」
「でもね……」
「結衣?」
「今回は大丈夫だったけど、いつか別々になるよね?」
「多分そうだけど」
「んで、あすちゃんはすぐ新しい友達を作るよね?」
「どうかな……やってみないと分からないけど」
「あたしより、その新しい友達と一緒にいるほうが楽しかったらどうする?」
「えっと……」
「だから心配だったんだよ! あすちゃんを失いたくなかった!」
「大丈夫だよ。わたし達は親友じゃない? 絶対離れないよ」
「本当?」
「約束する。何があっても、他の友達ができても、わたしはずっと結衣のことが大好きだよ」
「あすちゃんっ!!!!!」
「だから抱きつくなってば!」
※ ※ ※
「結衣……」
セレクタス領を制圧した日の夕方。
「…………あすちゃん?」
わたしの大好きな赤髪の女の子はこの世界にしては豪華なベッドで苦しそうに寝ている。
「大丈夫? 欲しいものがあれば何でも言ってね」
「うん……平気だよ」
「医者さんはどう? 好きじゃないなら他のも用意できるよ」
「……別に問題ない」
「そう……」
医者さんによると、結衣は粥しか何も食べないし、鎮静剤を飲まないと寝られないし、自分で立つことすらできないし。
「ここはセレクタス領っていうんだよ。わたし達がアルナリア帝国から解放したんだよ」
「うん」
「ほら、もう一回地図見る? ここはわたしが最初に飛ばされたダリアン領で、ここが我々の最終目的である帝都テラシア」
「はあ……」
「みんな探したんだけど、春乃はいなさそうだね。でもすぐ見つけるよきっと」
「そうだといいね……」
「春乃と会うのがめっちゃ楽しみよね! そしたらもう一度三人でいられるし!」
「……うん」
そんな悲しそうな顔しないでくれ。
わたしの知ってる結衣はいつも元気で、笑顔で、凄く楽しそうな女の子だった。
時々不安になっても、いつも子供のようにわたしに甘えて、そしてすぐまた笑ってくれた。
こんな無感情で、無関心な結衣は見たくないよ。
「わたしね、ダリアン領で素敵な人達と出会ったよ」
「っ?」
「だからね、結衣にも紹介したいんだけど、いいかな?」
「……うん。わかった」
「サリア、エルちゃん、入っていいよ!」
サリアはいつものような簡素な洋服じゃなくて、少し派手なドレスを着ている。
エルちゃんも、さすがに銀色の首輪は外せないけど、お姫様用の豪華な赤色のドレスに身を包んでいる。
「はじめまして、です」
「お初にお目にかかります」
「誰、ですか?」
「私はサリアと言います。えっと、アスカさんの補佐を務めています」
「サリアはわたしがこの世界で始めて出会った人だよ。最初の頃は凄く助けられた」
「あたしは……結衣です」
「はい、アスカさんから聞いています! アスカさんの大好きな幼馴染ですね!」
「うん……」
「いいないいな、私も子供の頃のアスカさんを知りたかったです! きっと凄く可愛かったですね!」
「えっと……」
「よろしくお願いします! ユイさんとも仲良くしたいです!」
「うん……よろしく」
結衣はいつものように無表情だけど、サリアの純粋な笑顔に対して素直にうなずいた。
「んで、こいつはエルちゃん」
「私の名はエルカルサ・フローラリア・ダリアン・アルナリアだ! 昔はアルナリア帝国の第7王女だったけど、今はアスカのエルフ軍の総長をやってるぞ」
「エルフ……?」
「そうだけど、エルフはみんな悪い人じゃなくてさ、人間みたいにいいやつもいるのよ」
「……うん」
急に恐怖で暴れたらどうしようってちょっと心配だったけど、思った以上に、エルフに対しての結衣の反応は悪くないな。
男性じゃなくて、小さくて可愛い少女だからだろうけど。
「私のことはエルカルサって呼んでいいぞ!」
「エルカ……レシ?」
「……やっぱりエルでいいか」
「うん、エルちゃん」
「お前は、アスカと同じ世界から来たんだよね?」
「そうだけど?」
「アスカみたいに、凄いことができるのか? 例えば新しい武器を作るとか?」
「どうかな……あすちゃんのほうが頭がいいからね」
「でもアスカの友達ってことはお前もきっと悪くないぞ」
「そうそう、結衣は十分すぎるくらいやればできる子だから!」
「ね、あすちゃん、ちょっと聞いていい?」
初めて表情らしい表情を見せた結衣が、不安そうな目線をわたしに向けた。
「うん、何かな?」
「あすちゃんは、この二人とどういう関係なの?」
「えっと……友達?」
「本当?」
「……友達以上?」
「…………」
「だって、可愛いんだもん!」
「まさか本当にハーレムを作るつもりだった……」
「ごめんなさい!」
「ね、あの約束覚えている?」
「約束? どの約束?」
「ほら、初めて中学のクラス割りを見た時」
「あれか、うんうん覚えている!」
「二人の恋人ができたんだけど、今でも、あたしの親友でいてくれる?」
「当たり前だろう。わたし、結衣を忘れたことが一度もないよ。誰よりも何よりも、昔でも今でも、結衣のことが大好きだよ」
「……ありがとう」
「だから、早く良くなってくれ。わたし、待っているから」
「……うん。頑張る」