第十七話 『幸福の国』
「本当にいいでしょうか? あんなにいっぱいのエルフを死刑にするなんて……」
左手には鋼鉄の銃を潔く抱えているいつも元気なサリア。
「しかたないだろう? あいつら敵だぞ」
右手には当たり前のように首輪と下着姿のエルちゃん。
「エルちゃんもエルフじゃないですか? なんで平気ですか?」
「当然の裁きだぞ。あいつらが犯した罪は絶対に許されないからね」
我々連軍はセレクタス領へ現在進軍中である。
「ていうかなんでエルちゃんがここにいるんですか? アスカさんの正妻はこの私じゃないですか?」
「お前こそなに言ってんの? アルナリア帝国の第7王女である私のほうが上だぞ」
わたしの二人のかわいい恋人は歩きながら仲良く喋っている。
「でもでも、最初に出会ったのも、最初に告白したのも私です」
「じゃあ今は私の番なんだろう?」
セレクタス領に駐屯している軍隊はあまり強くないと聞くけど、油断は禁物だ。
「やっぱり私なんかがアスカさんに釣り合うはずがなかった……」
「まぁ、確かにアスカは素晴らしい女だからね」
「でしょう? かっこいいしかわいいしスタイルもいいし全人類の憧れです!」
「そうそう! 時には優しく、時には厳しく、本当に最高だろう」
「はいです! 凄く賢いしカリスマも高いし完璧な恋人です!」
「しかも弱気な面もあるのがめっちゃかわいいよね!」
「おい、二人ともやめろ恥ずかしいだろうが!」
「「ごめんなさいー」」
ちょっと仲良くすぎるのは困るんだけどな。
「わたしが言っただろう? 二人とも平等にわたしの大切な恋人だから、心配しないでくれ」
「でもアスカさんが一番好きなのは私ですよね?」
「いや私だぞ!」
「もう……」
数十分後。
「これがセレクタス領か……」
東京出身のわたしにとってその町は全然大したことないけど、ダリアン領に育ったサリアは動揺を隠せなかった。
「凄いです凄いです! こんなに大きな都市があるなんて! どのくらいの人が住んでいるだろう!?」
「お前は田舎者だねー。帝都テレシアはこれの百倍も大きいんだぞ」
エルちゃんは過去にも来たことあるらしくて、仰天してるサリアを面白がってた。
「門の前のあれはなんでしょうか?」
「帝国軍なんじゃない? もうちょっと近付こうか」
「いや待て!」
わたしの一言で、連軍全体が急に行進を止まった。
「よく来たね、反逆者ども!!」
真っ黒なドレスに身を包んでいるその女のエルフは細長い杖を空に捧げている。
「Behold our wrath and taste our fear
Your power your justice means nothing here!」
空に白色の光が煽りだして、門に明かりが広がっていた。
それは確かに帝国軍だけど、帝国軍だけではなかった。
エルフだけでは、なかった。
「私の名はコルネリア・ヴァルトーラ・セレクタス! 皇帝陛下が自ら選んだセレクタス領の最高領主だ! 聞くがいい!」
「私、聞いたよ! あなた達は人類を救済しようとしてるって? 悪いエルフ達から、崇高なるアルナリア帝国から人間達を解放してるって?」
「笑わせるな。セレクタス領はダリアン領でも、コルタルシ領でもない! 私はライナー領主みたいなクズとは違う! ここは幸福に満ち足りている領土だ!
「だから引き返すがいい! 誰もあなた達を歓迎しないわ! セレクタス領の人間達はエルフと同様に、幸せに住んでいる! 立ち去れよ、反逆者ども!」
「それでも来るというのなら、撃て! その『銃』っていう魔法武器で、この私を撃ち殺すがいい! でもさ、私は一人ではない! 我々エルフには仲間がいる!」
そして門の前に、黒鎧の帝国軍のエルフ達の前に、武器も鎧も一切ない人間達が立ち並んでいる。
「そうだ! 我が領を奪いたいなら、同類を撃て! 無罪の人間達を撃ち殺せ! でも本当に人類を救いたいだけなら、帰れよ! ダリアン領に戻って二度と来るな!」
「私はエルフも人間も好き! 私はみんなのために領主になって、みんなのために領を守る! 崇高なるアルナリア帝国は最強の、幸福の千年帝国だ! 壊させないわ!」
わたし達は、何のために来た?
それは、人類を解放するため。
それは、自由の世界を作るため。
少なくとも、わたしの連軍はそう信じている。
幸せに暮らす未来のために戦っている。
でも、これはなんだ?
セレクタス領の人間達は平等でも、自由でもないけど、幸せそうだ。
自分が育ったアルナリア帝国を信じている。
この領の帝国軍に勝てるためには、人間と戦わなければならない。
でも、人類を救うために人間を殺すのか?
バカじゃないの?
武器をいくら集まっても、敵を殺せないなら意味がない。
軍隊はいくら人数が多くても、心がこもってないなら戦えない。
ねえ、結衣、どうすればいいの?
結衣の元気な声が聞きたい。
結衣に、わたしの光に、励まされたい。