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 翌朝、ゼノとミネアが転移陣のある部屋に行くと、既に兵士やカインを始めとした魔術師たちも揃っていた。

 整然と隊列を組んで転移陣の上に乗っている兵士たちは勿論のこと、転移陣の周囲を囲む魔術師たちも各種装備を揃えて準備万端である。一方ゼノとミネアはまるで散歩に行くかのように、至って普通の格好のままだ。明らかに場違いな二人に不審そうな視線が向けられるが、気にすることなくゼノはカインに話しかける。


「カイン、座標は?」

「こちらに。僕も確認したので、間違いないですよぉ」

「ふん、当たり前だろ。しかし、やっぱりこの人数送るんなら念を入れとくか……」


 ぐるり、と転移陣の上の兵たちを見回すと、ゼノは魔力を集めながら軽く右手を振る。次の瞬間、手元で蒼い光が瞬くと、身の丈近い杖が右手の中に現れる。

 亜空間に格納していた魔術用の杖を取り出したのだ。


「わー、ゼノさんが杖を持ってるのなんて、初めて見ましたねぇ」

「だろうな。使うのいつぶりだか……」

「格好良いのじゃ。流石ゼノじゃな!」

「あはは……。そんな最上級の杖、使わないなんて勿体ないですねぇ……」


 ミネアは無邪気に喜んでゼノを褒めているが、カインは引きった笑いを浮かべていた。


 希少金属や各属性の魔石を惜しみなくふんだんに使用したその杖は、間違いなく一級品の魔術道具だ。主席王宮魔術師であるカインですら、同じものを用意することなど出来ないだろう。

 この杖があれば、魔力を扱う精度は格段に向上し、いつも以上の術を使うことが可能だ。

 そんな杖を死蔵していること以上に、それを滅多に使う必要のない『賢者』の力に、カインは恐怖しているのだろう。


 ゼノはほんの僅か眉間に皺を寄せ、目を伏せる。

 しかしすぐにいつも通りの表情に戻ると、ハルド騎士団長と共に居た少年王マリスに声を掛ける。


「準備はもういいか?」

「は、はい。人員も全て、揃っています」

「激励とかはいいのか?」

「それは、先に済ませておきました。……ゼノ殿、ど、どうか、よろしくお願いします」

「ま、俺は勝手にやらせてもらうだけだけどな。じゃ、さっさとやんぞ、カイン」


 杖を肩に担ぎ、ゼノは不遜に笑う。そして追い払うようにマリスに手を振ると、未だに呆然とした様子のカインに声を掛ける。

 するとカインはビクリ、と身を震わせながらもいつもの笑顔を顔に張り付け、ゼノに向き合う。


「あ……、はぁい。では、ゼノさんは、陣の中央に」

「分かってる。ミネア、来い」

「分かったのじゃ。ファーズも共に来るが良い」


 カインに対して何やら威嚇しているミネアに声を掛け、さっさと兵の間を進んでいく。そして転移陣の中央、青白い光を放つ魔石が埋め込まれた部分に立つと、ため息を吐く。

 畏怖の感情を向けられることなど、良くあることだ。今更、気落ちする必要もない。


 そんなことを思っていると、いつの間にか追いついていたミネアがまとわりつくように足に擦り寄り、ゼノを見上げていた。


「ゼノ、わらわは何があっても、お主の傍を離れぬのじゃ。妾がお主を守るのじゃ」

「……はん、幼体が何を言ってやがる」


 ミネアの言葉に一瞬呆気に取られる。しかしすぐに鼻で笑い、ミネアの柔らかい金色の髪を掻き回す。

 本当に、この子猫様は馬鹿なようで、時々とても聡い。


 気恥ずかしさから少々乱暴にミネアを引き剥がし、ファーズへ押し付けた。しかしミネアはそんなゼノの様子が気に食わないようで、手を振り上げて抗議する。


「ゼノ! 妾はいつでも本気じゃぞ!」

「あーはいはい。分かったっての。集中すっから転移終わるまでは離れてろ」


 腕を伸ばして小さな頭をぽんぽんと撫でてやり、杖を掲げる。

 そうすると流石に空気を読んだミネアはぶすっと頬を膨らませながらも、ファーズと共に一歩下がった。じりじりとミネアの不満げな視線を感じつつも、軽く目を伏せる。


 ゼノ達の様子を伺っていたカインが他の魔術師にも合図を送り、転移陣起動のための呪文を唱えだす。

 高く、低く、歌のように紡がれる呪文と共に、転移陣に魔力が巡り始める。周囲を囲んだ十数名の魔術師たちが各々注ぐ魔力により、次第に転移陣がまばゆい光を放つ。


 ゼノはある程度転移陣に魔力が満ちると、その力を掌握し、全体のバランスを確認する。そして魔力が足りていない部分があれば自身の魔力を継ぎ足し、さらに1,000人もの人間を落とすことなく運ぶために籠のように魔力を編み上げ、高らかに宣言する。


「我、しるしの先へく者。く運べ」


 カツン、と杖を床へ下す。

 その瞬間、光が弾け、空気が変わるのを肌で感じた。


   § § § § §


 カインは魔力を送りながら、転移陣の上に編まれていく魔力の籠に戦慄していた。


 今回、兵と共に幾人かは王宮魔術師もアルジュマ国に送る必要があった。そのせいで、転移陣を起動するための魔術師の中には、何人か力不足の者も居たのだ。だから、不足分はカインが補うつもりだった。

 しかしゼノはカインが不足している魔力を補うより先に、あっさりとその穴を埋めてしまった。

 個々の不足は小さなものだが、全てを合わせればかなりの魔力を必要とする。そうであるのに軽々と穴を埋めると、そのまま緻密な転移の制御へ移っていった。

 一切綻びのない、美しい魔力の籠を編み上げるなど、一体どれ程の精度で魔力を操っているのだろうか。


 大量の魔力を使い、その上でこの精度の魔力操作を行うなど、いくらあの最上級の杖があろうと只人ただびとには不可能だ。


 『賢者ゼノ』との力の差を見せつけられながらも魔力を送り続けると、魔力の籠がひと際強い光を放つ。そしてその光が収まった後、転移陣の間には静寂が広がっていた。

 光を失った転移陣の上には、誰もおらず、無事に転移が終わったようだ。


 それを確認した途端、ガクリ、と膝から力が抜けた。そのまま無様にも床に倒れ伏す。


「カインっ!?」

「あ~、ご心配なく。ちょぉっと、疲れただけです~」


 慌てた様子で駆け寄る国王マリスに、怠い体に鞭打ち、へにゃりと笑って仰向けに転がる。

 視線で周囲を見回せば、死屍累々。魔力を送っていた魔術師たちは皆倒れ伏しているようだ。なんとか転移完了までは持たせたようだが、きっと全員魔力が空っぽだろう。


「あ~、やっぱり、ゼノさんは『賢者』ですねぇ。他の『賢者(愉快犯)』たちとは違って割と真っ当だけど、やっぱり化け物だなぁ……」

無駄にあるゼノ以外の『賢者』設定。


・享楽の賢者→ダンジョンな塔を作り、最上階に住んでいる。塔のダンジョンには、お宝や自身の知識をまとめた本などを隠しており、それを目当てに塔に挑む人々を見て楽しんでいる。

・放浪の賢者→世界中、あちこちフラフラしながら、気の赴くままに力を使う。ムカついたから、という理由で一国を滅ぼしたこともある。

・狂愛の賢者→病死した恋人を生き返らせるために大量殺人を犯した。大昔の賢者。


ちなみにゼノの二つ名は良いのが思いつかない……。

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