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「良かった・・・まだエルロンドは攻められてない。」
ようやく、領地を視界に捕え、心底安心した様子で、テレーズはつぶやいた。
「飛ばして来ましたからね・・・。うぇ・・・。」
いかん・・・マジで気持ち悪い・・・久々にヴェルスパーさんにご登場してもらわないと・・・
徒歩の行軍で2日かかる所を1日で帰ってきたからな・・・神速をたっとびすぎなんだよ・・・
「お兄様、大丈夫ですか?」
よく平気だね、君ら・・・
「な、なんとか・・・。」
「情けないわね。これから魔王に近づこうっていうのに。」
それとこれとは話が別・・・
「この分なら、兵が戻ってきてからでも、防衛は充分間に合いそうね。(本当に危ない所だったわ・・・)。」
「あと1日もすれば兵達も戻るでしょう、私達は一度、お暇いたしますわ。」
「そうね、ところで、さっきの話だけど、偵察程度なら、今エルロンドにいる兵でも対応できるわよ?どうするの?」
魔王に少数で接近するなんざ、傭兵連中じゃ誰も行きたがらないか・・・。
かといって、都市を落とした勢力相手に俺達だけで挑むのもな・・・う~ん、どうするか。
イリスの目標は魔王の討伐・・・危うくなったら即逃げするとして、直接対決させるなら敵軍が邪魔になる・・・
・・・・まてよ?・・・そもそもどうやってカプリコスを落としたんだ?
「龍海」と「ゴルデオ高地」に阻まれてるから、魔族側も大軍は動かせない、だからこそグラスヘイム山脈から侵攻を受けたって話だったはず・・・
あ~ダメだ・・・頭まわらん・・・
「・・・どの道、作戦を練る時間が必要だと思います。俺達はすぐには動きませんから・・・どうぞ、お気になさらず・・・。」
「わかったわ。そのへばってる隊長さんが回復したら、また私の屋敷に来てちょうだい。でも、あまり時間もないわよ?」
「・・・存じておりますわ。では明日にでも。」
「午後から時間を作る、早めに来てちょうだい。」
もう夕方になりつつあるからな・・・とりあえず・・・早く帰らせてくれ・・・・
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「これは皆様・・・お帰りなさいませ、随分とお早いお戻りでございますが、いかがされましたか?」
ウィルヘルムさん・・・ふ~、やっと帰って来れたか・・・移動しかしてないのに、疲れた・・・
「ただいま戻りましたわ。実は・・・・」
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「なんと・・・カプリコスが・・・。」
「ああ、それで急遽俺達はとんぼ帰りとなったわけ。」
「さらに今度はカプリコスに向かわれるとは、お労しいですな。」
妻が乗り気なもので・・・
「ホントだよ、まさか本当に魔王に立ち向かってっちゃっうの?僕、ちょっと遠慮したいんだけど・・・」
俺だってご遠慮願いたいわ・・・
「あら、カイム。臆しておりますの?情けありませんわね。」
「お姉様、いくらお姉様でも、魔王はちょっと・・・荷が勝ちすぎませんか?」
う~ん・・・ラスボス感があるってだけで、実際どんなヤツなのかわからないけど、この世界の人達にこれだけ恐れられてるんじゃなぁ。
「なぁ、3人共、魔王ってどのくらい強いんだ?」
「「「イリス(姉ちゃん・お姉様・様)くらい。」」」
「行くのやめようか。(爽やかな笑顔で)」
え!?ガチでイリス級なの!?
「曰く、世界最強の魔法使い、人に仇なす者、悪逆非道・・・・。強さも悪名も、噂では他の追随を許しませんな。かの三魔神将等、魔王と比べれば赤子のような物だと。」
マジかぁ・・・『ハヴァマール』さん、一発で片付くかとちょっと期待してたのに・・・
「私と同等・・・。ふふふ・・・。」
笑ってらっしゃる・・・腕が鳴りますか、そうですか。
「イリス?そんな、「強いヤツがいる!ならば拳を交わそうではないか!」みたいな顔してても、絶ッ対に一人で戦っちゃダメだからな。」
「・・・何故ですの?」
「一歩間違えれば死ぬから。『ヴェルスパー』は死者には効果ないんだろ?」
「ですが、私以外に、この大陸に魔王と武を競える者がおりますの?」
「おりますの?」
「「「・・・・。」」」
おりませんでした。
「だからと言って、一人で戦う事もないだろ?」
「むぅ・・・。」
ふくれないの。・・・しかし、それだけ強くてよく今までおとなしくしてたな。
「なぁ、なんで魔王は強いのに、今まで侵略して来なかったんだ?」
「理由は誰にもわかりませんが、私のように、魔力が有限だから・・・ではないでしょうか。」
「ふむ・・・、それだけ噂があるなら、魔王が実際に戦場で戦ってる所を見たヤツがいるのか?」
「おりませんな。しかし、その存在、その強さ、その容姿だけは確認されております。」
ふ~ん・・・色々不明瞭な点はあるものの、確かに存在して、イリス級の戦闘力を持っている、か。
「まぁ、とりあえず今回は偵察だ。イリスも無茶しない事。最低でも俺は連れて行け。幸運が役に立つかもしれん。」
リーンベルとカイムは・・・今回は留守番させるか・・・・
「リーンベルとカイムは、このままエルロンドへ残れ。万が一、街が攻められた場合、ウィルヘルムさんと協力して防衛に参加するように。」
「えぇ!」
「ん?不満か?リーンベル。」
傭兵部隊は残して指揮を任せるつもりだったんだが・・・
「・・・いえ・・・。わかりました。ウィルヘルムさん、よろしくお願いします。」
「はい。よろしくお願いします。リーンベル様、カイム様。旦那様、老骨ではございますが、留守はお任せくださいませ。」
「うん、よろしく頼むよ。リーンベル、傭兵部隊の指揮を任せる。ウィルヘルムさんとカイムはリーンベル補助を、何が起きてもリーンベルに怪我をさせないように。」
「はい!」「うん!」「は。」
よし・・・
「イリス、何かあるか?」
「いえ、良き采配と思いますわ、あなた。」
「よし。じゃあ今日はこの辺で、飯にしよう。ウィルヘルムさん、お願いします。」
さて・・・明日はテレーズ様の所へ話を進めに行くか・・・
まったく慌ただしい・・・お前もう帰れ魔王・・・
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その夜・・・
久方ぶりの我が家の寝台は、素晴らしく心地良い寝心地だった。
「・・・イリス、さっきも言ったけど・・・」
「ええ、わかっておりますわ。あなたから釘を刺されてしまいましたもの、今回は功を焦りません。」
「頼むよ、自分と俺を護る事を優先してくれ。」
「ふふふ、はい。」
「・・・こっちおいで。」
・・・失ってたまるかよ。魔王だろうが神だろうが、イリスは誰にもやらんぞ!
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「おはようございます!旦那様奥様!お体の具合でも悪いのですか!?」
翌朝、居間へ降りて行くと、我が家の万能執事から体調の心配をされてしまった。はて?
「おはようございます。いえ?多少疲れてはいましたが・・・・」
「左様でございますか、いえ・・・昨晩はお静かだったものですから、何かあったのではないかと・・・」
俺達って・・・そんなにいたしてるのかな・・・・
「忘れておりましたわ。あなた、戻りましょう。」
「戻らないから・・・・ちょ、腕ひっぱらな・・・マジですんの!?」
ズルズルズル・・・・
ウィルヘルムさん、安心したように恭しくお辞儀してないで、我が妻を止めて・・・
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「ひとっ風呂浴びたし、イリスと俺はテレーズ様のトコ行って来ます。」
「は、行ってらっしゃいませ。」
「カイム、リーンベルはウィルヘルムさんとギルドに行ってあらかた説明頼む。恐らく昨日の話のとおりになるだろう。あと俺達の外泊の準備も進めておいてください。」
「うん!」「かしこまりました。」
さて、あのツンデレ領主が文句をたれなければいいけど・・・
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「・・・話はわかったわ。つまり、また貴方達二人で向かうのね。」
「はい。」
おや?随分の素直に・・・
「行くのはもう止めません。その前に新たな情報を聞いていきなさい。」
「新たな情報・・・ですの?」
「ええ、カプリコスから逃げてきた領民から話を聞けたわ。まずは・・・」
仔細はこうだ。
俺達がグラスヘイムへ出立した直後、カプリコスが増援の準備を進めていた段階で、突如、街の上空に魔王が単体で現れたそうだ。
魔王の絶大な魔法により、一撃で街は半壊、その後、魔王の部下らしき人物が、魔王の傍ら現れるや否や、大量の魔獣達が降り注ぎ、街を蹂躙し始めたそうな。
領主は即座に降伏したが、首を刎ねられ処刑、その後街がどうなったかは不明だが、追手はなかったそうだ。
逃げ遅れた領民がどうなったか・・・
魔王の実力、側近らしき者、恐らく召喚かなにかで現れた魔獣の群れ、街の現状は不明、と。
追手がなかったのなら攻められる心配はない、か?
なんともいえないところだが・・・
「以上よ、偵察に行くのなら十分に気を付けて、出来れば、街の状態まで確認してきてくれると助かるわ。」
「わかりました。」
「そうね・・・またジャックに案内をさせるわ。ウィルヘルムとエルフの子達を貸してくれてありがとう。グラスヘイムから兵を出される可能性がある以上、防備を疎かには出来ないもの。」
だろうな。
「ルカとも連絡を取り合うわ。貴方達が戻るまでに対応策を練っておく。まぁ、あちらはあちらで増えすぎたドワーフの扱いに困っているでしょうけれど・・・。」
「テレーズ様、お約束通り、無茶な事はいたしませんわ。ですが、策の1つとしてカプリコスの奪還を視野に入れておいていただけますこと?」
おとなしくしてろとは言わないけど・・・どうしても挑むのね、この嫁は・・・
「・・・・ホントにもう・・・簡単に言ってくれるけれど、どうするのよ。」
「討伐、とまではいかないかもせれませんが、追い払うくらいは出来るかもしれませんわ。魔王さえいなければ、グラスヘイムの奪還よりは容易いのではないかしら?」
平然と言ってのける事で。
「それはそうだけれど・・・。」
「先程のお話にありましたドワーフの件にしろ、もう、こちらに領土の猶予はないのでしょう?この状況において、カプリコスの奪還こそ最優先の事項と存じますわ。」
カプリコスの領民がいないなら、いっそ全力全開ハヴァマールさんで更地にでもしてもらうか・・・
「貴方に異論はないのかしら?」
「ああ、俺はもう諦めていますよ。自慢じゃあありませんが、幸運には自信があるのでね。俺とイリスならなんとかなるんじゃないか、と。」
「楽観的な・・・わかったわよ。ではとりあえず、カプリコスへ向かってちょうだい。出発は今夜からでいいかしら?明日の日中には辿り着けると思うわ。」
「別にいいよな?」
「ええ、問題ありませんわ。」
「わかったわ。・・・しつこいようだけれど、くれぐれも無茶はしないでよ。」
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「しかし、今度は逆方角か、あっちこっち忙しいね、どうも。」
「あら、あちこち見てまわれるのですから、これはこれで良いのでなくて?」
戦闘が絡まなければね・・・
「せっかく嫁さんと旅行が出来るなら、もっと綺麗なトコに行ったりしたいよ。」
「荒事が片付いたら、それもいいですわね。」
「魔王、か。イリスより格下ならいいんだけどな。」
「先のドラゴン程度、という事はないでしょう。油断はしませんわ。」
「・・・一応最後にもう一度聞くけど、立ち向かわない、という選択肢は?」
「ありませんわ。」
「・・・OK。じゃ、いっちょ魔王様とやらのご尊顔でも拝みに行きますか!」
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「お帰りなさいませ。首尾はいかがでしたでしょうか。」
「うん、予定通りの運びになったよ。今夜カプリコスに向けて出発する。そっちは?」
「話には伺っておりましたが、リーンベル様の信望は凄まじいですな。」
「だろ?まぁ、人気はあっても戦争においての統率はさすがに無理だろうから、しっかりと補佐を頼むよ。」
「かしこまりました。リーンベル様とカイム様は引き続きギルドにて防衛準備を進めておりますので、後程、私と共に東門まで、お見送りに参ります。」
「わかりましたわ。」
「では、外泊の準備は整っておりますので、出発まで、しばしお寛ぎ下さいませ。お茶をご用意して参ります。」
「ありがとう。ウィルヘルムさん、いつも申し訳ないですね。」
「恐縮でございます。」
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東門にて・・・
「やぁ、ジャックさん。お久しぶりです。えっと・・・大丈夫ですか?」
「ご無沙汰しております。・・・はい。おまかせください・・・。」
お任せしたくなくなるくらい疲れた顔をしてらっしゃいますけど・・・
「とりあえず、カプリコス近辺まででいいですから、あとは俺達でなんとかしますので、すぐに安全な場所まで撤収してください。」
「・・・はい。お言葉に甘えさせていただきます。」
元気ねぇ・・・よっぽど嫌なのかな。
「よし3人共、行ってくるよ。街の方はよろしく頼む。」
「お兄様、どうかお気をつけて。必ず帰ってきてくださいね?」
「おう!なるべく早く帰ってくる!じゃあ、行こうかイリス。」
「はい。」
さぁ、魔王、こっちは異界の戦女神と福の神(自称)だぜ?
どれだけ強いか知らないが、最強夫婦を舐めんなよ。
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