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主人公を殺すたび、俺のチート装備が増えていく ~その聖剣、前に俺が殺した勇者のなんだけど~  作者: レイヴ


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第一話 鞘だけ持って帰った理由

「その剣さ、どこで拾ったの?」


「最下層の宝箱です。鞘は入ってなかったんですけど」


 七瀬晴人は、金色の剣を横にして見せてくれた。根元には翼の紋章がある。左の翼だけ、先が欠けていた。


 間違いない。三年前、俺が殺した勇者の剣だ。


「知ってるんですか、この剣」


「まあ、ちょっと。昔の知り合い」


 別の世界に置いた剣が、東京の地下にある。資料の動画で見つけ、今日は鞘を持ってきた。


「あ、配信してるので。顔、映しても大丈夫ですか?」


「あー、顔はやめて。会社に内緒なんだよね」


「了解です。カメラ、こっち」


 頭上の小型ドローンが、晴人の肩越しへ回った。俺はフードを少し深くする。口元はマスクで隠していた。


 石造りの広間には、俺たちしかいない。出口の近くに、倒れた魔物が転がっていた。


「お一人ですか。入口のほうには、誰もいなかったはずですが」


「横道から来たんだよね」


「では、その位置でお願いします。通路は空けておいてください」


 晴人は、俺と出口の両方を見られる位置に立った。


 晴人がドローンの横の画面をのぞいた。


「皆さん、ちょっと待ってください。この剣を知ってる人に会えたので」


〈前の持ち主いるの?〉

〈宝箱の中身にも出どころあるんだ〉


 表示されている視聴者数は六万を超えていた。


「このあとは地上で相棒と合流するので、今日はそこまでです。もう少しだけ、お付き合いください」


 配信が切れるまで待つと、相手が二人になる。今なら一人で、帰る門も横道を三つ戻るだけだ。映像を残しても、仲間から引き離すより楽だった。


 一年前に置き去りにされた最難関ダンジョンから生還し、見捨てた仲間まで許した青年。


 依頼書の経歴は、どこを切っても主役だった。


「ああ。鞘なら、俺が持ってるよ」


「本当ですか?」


 晴人が顔を輝かせた。


 俺はスマホを取り出し、仕事の画面を確認する。


【対象:七瀬晴人】

【主人公化率:100.0%】

【完成済み】


 ……うわ。いい奴のまま、きれいに完成してるじゃん。


 スマホをしまい、晴人の顔を直接見て、主人公補正を外した。


 光も音もない。世界がこいつを助ける、都合のいい偶然だけがなくなる。剣技も、魔法も、鍛えた身体も残る。


 俺は黒革に包まれた古い鞘を、鞄から出した。


「……それだ」


 鞘の口にも、同じ翼の紋章があった。


「譲ってもらえませんか。お金なら払います」


「あー、ごめん。今日は売らないんだ」


 晴人の目が、上着の隙間に覗くホルスターから、俺の右手へ戻った。欲しい物を見ても、油断はしないらしい。


 銃口を向ける前に、手首を落とされる。撃てても、動画で見たように剣で受けられるだろう。


 昔、別の世界で得た〈貫通〉は、不意を突いた攻撃だけが防御を抜く。ただ、主人公補正には負ける。そっちはもう外した。


 じゃ、ぼちぼち殺すか。


 鞄を壁際へ置き、左手に鞘を持った。右手では、腰の短剣を抜く。


 右の指には、一度だけ死から戻れる指輪がある。自分で集めた保険だ。使えば、取り分が減る。


 短剣を向けると、晴人の笑顔が消えた。


「刃物を下ろしてください。話はそれからです」


 晴人が半歩下がり、剣先をこちらへ向けた。


 鞘で剣を押さえ、短剣で手首を切る。そちらへ目が落ちれば、銃を抜ける。


 踏み込むと、先に金色の光が走った。


 短剣を握る手を狙った一撃。まともに受ければ、腕ごと持っていかれる。


 左手の鞘を斜めに差し入れた。


 刃が触れた途端、光が消えた。


 聖剣レグナは、触れたものの硬さを無視して斬る。ただし、自分の鞘に触れている間は、その魔法が止まる。


 三年前、持ち帰れるのは一つだけだった。殺す道具は足りていたから、俺は鞘を選んだ。次に誰がこの剣を持っても、止められるように。


 鈍い音が響き、左腕が痺れた。魔法を消しても、振り下ろす力は消えない。靴底が石床を滑った。


 晴人が刃を引くと、剣が再び光った。


「その鞘で、魔法を止めてるんですね」


 あー。一回で気づいたか。


 晴人は横へ動いた。俺が鞘を向け直すより先に、剣先が頬をかすめる。マスクが裂け、血が口に入った。


 短剣は届かず、右手は見られたままだ。銃へ持ち替える暇もない。


 鞘さえ合わせれば済むと思ったのは、こっちの間違いだった。


「まだ続けるなら、手加減はできません」


 俺は短剣を握り直した。


 次は見えた。見えたが、腕が追いつかなかった。


 鞘の外側を回り込んだ金色の刃が、胸を深く裂いた。


 右手から短剣が落ちた。そこで一度、意識が切れ、指輪が砕ける音とともに息が戻った。


 胸の傷は閉じているが、上着は破れたままだった。


 晴人の目が、傷の消えた胸へ動いた。


 今は、こっちの右手を見ていない。


 俺は上着の内側から拳銃を抜いた。


 〈貫通〉。


 銃声が広間を叩いた。


 晴人は剣を立てた。弾丸を遮る位置へ、間に合わせた。


 だが、不意を突いて放たれた一撃には、もう〈貫通〉が乗っている。


 弾丸は金色の刃をすり抜け、晴人の胸を撃ち抜いた。


 晴人が伸ばした手は、俺の服へ届かなかった。


「俺が……何を」


「いや、別に何も」


 晴人の膝が折れる。俺は銃を下ろし、一歩離れた。金色の剣が床に落ち、その隣へ晴人が倒れた。


 ドローンの画面を、文字が埋めていく。


〈待って、本当に撃った?〉

〈晴人、返事しろ〉

〈協会に通報した。救助隊は?〉

〈録画残ってるぞ〉

〈犯人の顔映せ!〉


『入口には着いた! 今から下りるから、晴人!』


 以前の配信では、倒れかけた晴人のもとへ、横道から別の探索者が駆け込んできた。今は、スピーカーの声が響くだけだ。広間へ続く通路に、足音はなかった。


 銃をしまい、短剣も拾って腰へ戻した。待ってから首筋へ触れても、脈はない。


【処理完了】


 通知を閉じ、壁際の鞄を肩に掛けた。頬はまだ痛い。指には、砕けた指輪の跡が残っていた。


 死から戻る道具は、六つ集めた。残る五つは拠点の棚だ。帰るまでもう死ねない。


 また一仕事ぶん、報酬を復活品に回すのか。欲しい物は、ほかにもあるんだけどなあ。


 床の聖剣を拾い、左手の鞘に収める。最後まで押し込むと、かちりと音がした。


 イヤホンから、組織の連絡担当、ニアの声がした。


『田中さーん。終わった通知、こっちにも来たよ。報酬、決めといてね』


「ねえ、一回死んじゃったからさ、ちょっと色つけてよ」


『私に言われても。勝手に死んだの、そっちじゃん』


「冷たいなあ」


『はいはい、上には聞いとく。あ、まだ切らないで。仕事の話、もう一個』


「そっちを先に言いなよ」


 俺は頭上のドローンを見た。晴人の名を呼ぶ女の声が、スピーカーから何度も聞こえていた。


 カメラへ背を向け、出口へ歩く。


『田中さんがお金の話するからじゃん。あの聖剣、どうしてそこにあるの?』


 足が止まった。


「あれ、そっちが流したんじゃないの?」


『うちから出した記録、ないよ。こっちでも探した』


 鞘に収まった剣へ目を落とす。


 三年前、別の世界に置いてきた剣を、誰かが東京まで運んで宝箱に入れた。


 俺が置いてきた品は、ほかにもある。それも、誰かの手に渡っているのか。


「ねえ、次の仕事の前に一か所、寄っていい?」


『どこの世界? 行き先だけ先に教えて』


「この剣を置いてきた世界。ちょっと気になるんだよね」


 出口へ向かって歩き出すと、鞄の金具に鞘が当たった。三年も持ち歩いたのに、中身が戻ると案外、重かった。

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