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# 第25話:白銀の資格と、大庭園への誘い



「――Bランク、ですか」


 机の上に並べられた三枚の白銀のプレートを見つめ、俺は静かに呟いた。

 つい二日前まで、登録したての下っ端『Fランク』だったのだ。冒険者の常識で言えば、数年から十数年は地道に実績を積み上げてようやく辿り着く高みを、俺たちは一瞬で駆け上がってしまったことになる。


「そうだ。本来ならどれほど実力があろうと、規定の依頼回数を経なければ昇格は認められん。だがな、庭師アルト。君が平原でやってのけたことは、街の防衛という枠を遥かに超えている」


 ギルド長は組み替えた指の上に顎を乗せ、真剣な眼差しを俺に向けた。


「偵察部隊の報告、そしてボルドの証言をすり合わせても、未だに信じられん。君は、Aランク級の変異種の魔力を、その『ハサミ』一つで完全に消失させ、ただの野生の熊に戻したという。……それはもはや、武力や魔法という概念ではない。この世界の法則そのものに干渉する、未知の『権能』だ」


 隣に立つシアが、誇らしげに胸を張り、腰の純白の剣の柄をカチリと鳴らす。フィリアもまた、白銀の霊樹の杖をきゅっと抱きしめ、俺の顔を見つめていた。


「大袈裟ですよ、ギルド長。俺はただ、伸びすぎて周りを枯らしていた『大雑草』の根元を、チョキンと綺麗に間引いただけですから」


 俺が苦笑いしながら答えると、ギルド長は盛大にため息を吐き、首を振った。


「変異種を雑草扱いか……。まあいい。君が何者であれ、リファルの街を救ってくれたのは事実だ。それに、Bランクの資格を与えるのは、単なる褒賞ではない。君たちに、さらに大きな『手入れ』を頼みたいからだ」


「大きな手入れ?」


 俺が眉をひそめると、ギルド長は一枚の広大な地図を机の上に広げた。

 そこには、この商業都市リファルを中心とした地方だけでなく、さらにその先にある広大な『大帝国』の全土が描かれていた。


「今回の魔獣の狂暴化……君の言う『地脈の汚染』だな。これは、このリファル周辺だけの問題ではないのだ。現在、帝国の全土で、同じような地脈の渇きと、それに伴う魔獣の凶悪化が報告されている。まるで、世界そのものが内側から腐り始めているかのように、な」


 ギルド長の言葉に、俺の庭師としての直感が激しく警鐘を鳴らした。

 世界全体の地脈が腐りかけている。それはつまり、この世界という名の『広大な大庭園』そのものが、深刻な手入れ不足に陥り、根腐れを起こしかけているということだ。


「帝国の首都にある中央ギルドでは、この地脈の異常を調査・解決できる異能の持ち主を探している。リファルを救った君たちの噂は、すぐにでも上層部に届くだろう。……アルト。君のそのハサミなら、この世界の『根腐れ』を止めることができるのではないか?」


 ギルド長は静かに、白銀のプレートを俺たちの前へと押し出した。


「このプレートは、帝国全土のあらゆる場所への立ち入りを許可する通行証でもある。どうだ? 一都市の冒険者で終わるには、君の持つハサミは……あまりにも全能に過ぎる」


 俺は差し出された白銀のプレートを手に取り、その冷たい感触を確かめた。

 クビになった元庭師。伯爵邸の庭を追われた俺だったが、気づけば、目の前には『世界』という名の、手入れを待つ巨大な庭園が広がっている。


「アルト様。私は、どこまでもあなたのお供をいたします。あなたが世界を整えるというのなら、そのためにこの剣を振るいます!

 」

 シアが琥珀色の瞳を輝かせ、真っ直ぐに俺を見つめる。


「私もです、アルト様! 私を救ってくれたアルト様の手足となって、どんな悪い雑草も、私の古代魔法で焼き払ってみせます!」


 フィリアも力強く頷き、白銀の杖の先端が呼応するように美しく明滅した。

 最高の護衛と、最強の魔導士。

 二人の頼もしい笑顔を見て、俺の腹は決まった。


「分かりました、ギルド長。その白銀の資格、ありがたく頂戴します。……元々、庭師ってのは、庭が広ければ広いほど血が騒ぐ生き物ですからね」


 俺は白銀のプレートを腰のポーチに収め、不敵に微笑んだ。


「よし、交渉成立だ。君たちの次の目的地は、ここから東にある学術都市『オルトヴィン』。そこにある大図書館に、古代の地脈に関する文献が残されているはずだ。まずはそこへ向かってくれ」


「了解しました。――さあ、二人とも。新しい庭へ、手入れをしにいこうか」


「「はい、アルト様!」」


 こうして、リファルの街を救った英雄たちは、次なる舞台へと向けて旅立つ。

 クビになった庭師の世界直し。その偉大なる足跡は、ここからさらに広く、深く、世界中へと刻まれていくのだった。


(第25話 終)

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