# 第2話:起きたら美少女が『成長』していた件
「……ん……あ、朝、か……」
窓から差し込む眩しい太陽の光で、俺は目を覚ました。
床に敷いた固い毛布の上で体を伸ばし、小さくあくびを噛み殺す。昨日、長年勤めた伯爵邸をクビになり、路地裏で行き倒れていたシアを拾って安宿に泊まった――そこまでの記憶が、一気に脳裏に蘇ってきた。
ベッドの方へ視線を向ける。
シアはまだ眠っているだろうか。昨日はあれだけ衰弱していたんだ、今日くらいは遅くまでゆっくり寝かせてやろう。そう思って、俺は極力音を立てないように立ち上がろうとした。
「あ……アルト様、お早うございます」
しかし、シアはすでに起きていた。
ベッドの端に腰掛け、ちょこんとこちらを見つめている。
「お、おう、シア、おはよう。よく眠れ――って、え?」
挨拶を返そうとした俺の言葉が、喉の奥でピタリと止まった。
あまりの衝撃に、自分の目が狂ったのかと思って何度も瞬きを繰り返す。
(いや……おかしい。絶対に何かがおかしいだろ……!?)
そこにいたのは、昨日助けたはずの「12〜13歳ほどの、ぶかぶかの服を着た幼い少女」ではなかった。
ツヤツヤとした美しい漆黒の髪はそのまま。しかし、その頭身が明らかに昨日と違っていた。
スラリと伸びた、しなやかで健康的な長い手足。
ボロボロの灰色の布切れの胸元は、昨日まではスカスカで余っていたはずなのに、今は中身の圧倒的な自己主張によって、はち切れんばかりにパンパンに膨らんでいる。
キュッと引き締まった細い腰回りから、女性らしい豊かな曲線を描く太ももへのライン。
そこに座っていたのは、息を呑むほどにスタイル抜群な――俺と同い年か、下手をすれば少し年上にも見えるような、成熟した大人の美少女だった。
「あの……アルト様? 私の顔に、何かついていますか?」
シアが不思議そうに首を傾げる。その仕草に合わせて、豊かな胸元が、たぷん、と大きく揺れた。
「わ、わわわ、いや! 違う、違くないけど違う! 君、本当にシアか……!?」
「はい、アルト様に昨日『シア』という素敵な名前をいただいた、シアです。……どうかされましたか?」
「どうかされたかも何も、その、見た目が……昨日よりめちゃくちゃ育ってないか!?」
慌てて鏡台から手鏡を持ってきて、シアの前に突きつける。
シアは鏡に映った自分の姿を見て、目を丸くした。
「わぁ……本当です。顔立ちもすっきりして、髪もすごく綺麗……それに、なんだか視界が高くなっています」
「他人事みたいに言うな! 体型が一日で数年分スキップしてるぞ!?」
わけが分からず頭を抱える俺の横で、シアは自分の胸元に手を当てたり、腕をさすったりしながら、納得したように小さく声を上げた。
「あ……なるほど。きっと、アルト様の『剪定』のおかげですね」
「俺の、ハサミの……?」
「はい。私、奴隷にされてからずっと、まともにご飯を食べさせてもらえなくて……。だから、体はずっと子供のままで止まっていました。でも昨日、アルト様が乱れていた栄養の巡りを完璧に整えてくださったから……」
シアはふふっ、と嬉しそうに微笑んだ。
「溜まっていた数年分の成長が一晩で一きに追いついたんだと思います!」
「そんな植物みたいな急成長ある!? いや、あるのか……俺が『剪定』しちゃったからな……」
俺のスキル『剪定』は、無駄なノイズを間引いて、その対象が本来持っている「理想の姿」へ急成長させる能力だ。
手入れの行き届かない庭木が、栄養を整えられた翌朝に一気に新芽を吹くように、シアの身体もまた、本来あるべきだった姿へと一晩で育ちきったということか。
「ということは……シア、君の本当の年齢って……」
「はい。一応、今年で18歳になります」
「同い年じゃねえか!!」
昨日までは「可愛い妹分」だと思って頭を撫ていた相手が、まさかの同級生。
そう認識した瞬間、昨日までは気にならなかった彼女の爆発的なプロポーションや、薄い布切れ一枚から覗く白い肌が、急に強烈な「異性」の魅力として俺の目に飛び込んできた。
「あ、あの……アルト様?」
シアがベッドから立ち上がり、俺の方へと一歩近づいてくる。
背丈も俺の目線の一歩下くらいまで伸びており、至近距離で見上げる彼女の瞳は、吸い込まれそうなほどに美しかった。
「俺、俺はちょっと外の空気を吸ってくる! シアはその服だと色々と危ないから、部屋から出ちゃダメだぞ! いいな!?」
「あ、アルト様……!? お、置いていかないでくださいー!」
ドアを勢いよく閉め、宿の廊下に飛び出す。
心臓がバクバクと信じられない速さで鐘を鳴らしていた。
(落ち着け、落ち着け俺……! 相手は昨日助けたばかりの元奴隷の子だぞ! 変な目で見ちゃダメだろ!)
ふぅ、と深く息を吐き出し、熱くなった顔を両手で叩く。
まずは、あのボロボロでサイズがパッツンパッツンになっているシアの服をどうにかしないといけない。
幸い、手元には伯爵邸をクビになった時の退職金(雀の涙ほどだが)が少しだけある。
「……よし、まずは服屋に行って、シアの着替えを買ってこよう」
財布を握り締め、俺は宿の階段を駆け下りた。
昨日まではただの無職の庭師だった俺の日常が、ものすごいスピードで動き始めようとしていた。
(第2話 終)




