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第12話 必死すぎて、引くわ

 初日から、日付が変わる寸前の帰宅となってしまった。道中でグループラインに連絡は入れたが、さすがにみんな、もう寝ているだろうか。

 深夜の静寂に気を使いながら、ゆっくりと玄関のガラス戸を引く。居間の方から微かな明かりが漏れているのに気づき、俺は「ただいま」と小声で呟いて戸を閉めた。


 自分の部屋へ向かう前に居間を覗き込むと、遥がテーブルに突っ伏して眠っていた。誰かがかけてやったのだろう、厚手の毛布が彼女の肩をすっぽりと包んでいる。

 遥はスマホを持ってない。俺が遅くなるとは聞いてないのだろうか。

 テーブルには今夜の晩御飯がラップをかけて置いてあった。


「おつー。初日から残業ってブラックじゃん」


 台所から炭酸水のペットボトルを持った玲奈が現れる。


「今日は特別。明日はもうちょっと早く帰るよ」


 玲奈がキャップをひねる。プシュ、と鋭い炭酸の抜ける音が静かな部屋に響いた。


「そーして。その子、ずっと暗い顔して待っていて、辛気くさいったらなかったし」


「俺が遅くなるって伝えてくれなかったのか?」


「さあ? 他の子から聞いてるんじゃない? あーしは言ってないけどね」


 玲奈は喉を潤してから答えた。

 ……遥は、人一倍心配性なのかもしれない。親父があんな逝き方をしたばかりだ。それに、彼女はすでに母親も亡くしている。


 玲奈は遥のほうに冷ややかな視線を送る。


「――必死すぎて引くわ」


「引く?」


 うっかり独り言が漏れた、という様子で玲奈が肩をすくめる。


「だって、どう見ても必死じゃん。会ってまだ一週間ちょっとの相手をそんなに心配する? どんだけしがみついてんだっての」


「親父が事故で亡くなったばかりだし、ましてや遥は母親を亡くしているんだ。身内の身を案じるのは、仕方がないだろ」


「親父なんてサイテーじゃん。黙ってあちこちに子ども作って」


 それは……否定できない。

 俺が返事に詰まっていると、玲奈はさっさと二階へと上がっていった。


 深い溜息をつき、俺は眠り続ける遥のそばへ歩み寄った。

 こんなところで寝ていたら風邪をひいてしまう。起こそうとして手を伸ばしかけ――俺は伸ばしかけた指先を、わずかに躊躇わせた。


 遥の目尻に、乾いた涙の跡を見つけたからだ。

 ……この子を、これ以上不安にさせてはいけない。


 直接肌に触れないよう、俺は毛布の端を掴み、彼女の体を包み込むようにして抱き上げた。毛布越しに伝わる遥の体温。腕の中に伝わる重みは、拍子抜けするほど、折れてしまいそうなほどに軽かった。


 二階へと上る。音を立てないよう気を配ったが、階段を踏むたびにギシギシと響く。


「ん……」


 遥は小さく寝息を漏らしたが、目を覚ます気配はなかった。

 彼女たちの部屋の前に立ち、つま先で静かに襖を引く。


 中からは、彩夏の規則正しい寝息が聞こえてきた。

 俺は遥を、彩夏の隣に並んだ布団の上へとそっと下ろした。ついでに、寝相の悪さで布団を蹴飛ばしていた彩夏の足元にも、掛け布団を掛け直してやる。


 少ししびれ始めた腕を揉みながら、俺は音を立てずに襖を閉めた。

【あとがき】

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