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引きこもり大豚令嬢は今日もマイペースに生きる  作者: 赤羽夕夜


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また来たの?


「……公爵様、今日も来られたのですか?なにかご用でしょうか」

自室のテラスで本を読んでいて、来客に気づけなかった私は、耳端で自室の扉のノック音の末に開いた音が聞こえたことで、本から視線を外した。


そこには、今日は黒のズボンにラフな白いシャツを着こなした、完全プライベートの装いの公爵様が。実は謝りにきたあの日以来、何故か定期的に離れに足を運んでくるのだ。


なんで急に……。こうして読書の邪魔をされることが迷惑でしかなかった。


今日は楽しみにしていた少女小説の「毒林檎から始まる恋」の新刊をマダムマコロンのマカロン片手に自堕落な生活を送ると決めていたのに。


しかし、この敷地内の主は彼だし、一応契約と言えども私の主人になる人なので、追い返すことが出来ない。小説にしおりを挟んで彼に向き直る。


「…………」

視線を泳がすのではなく、ちゃんと言葉にして欲しい。

少しの間、沈黙が続くと、意を決したように公爵様が口を開いた。


「じ……自分の婚約者に会いに来るのに、理由が必要か?」

待って出た返答がそれ……? まぁ、経緯はどうであれ、彼の言い分は一理ある。知らない関係ならともかく、私たちは一応そういう関係だし。


「……はぁ。わかりました。言い返すのが面倒なので。ここにいて構いませんが、せめて読書の邪魔だけはしないでくださいね」


呼び鈴を鳴らすと、ベリーが飛んでやってきた。飲み物を用意するように申しつけると、ベリーは一礼をした。


……そうだ。先日、香油を使ったドリンクを開発したんだった。しゅわりとした炭酸水にフルーティーな食用の香油を垂らした、香り付きスパークリングウォーター。


ここにいるのなら、公爵様に感想を教えてもらおう。売れそうなら商品化してもいいかも。


「……あ、待って。公爵様、炭酸水とか飲めますか?甘いものとかも平気でしょうか」

「ああ。飲めるし、平気だ」


一応返答を聞いてから、ベリーに指示を出すと、小走りで去っていく。なにやら興味あり気な視線を寄こすので、答えた。


「ここにいるなら、先日開発したスパークリングウォーターを飲んでもらおうと思って。感想をくれたら嬉しいです」

「それは全然構わないのだが……おまえはそんなこともしていたのか?」


そんなこととは、事業のことだろうか。隠すこともないので、頷くと目を丸くさせて驚かれた。たしかに、女性が先導切ってこういった商品を開発したり、事業に関わることは王国では珍しいから、あたりまえなのかも。


「女性は家を守ることしかできないと思っていたから。特にお前は家から一歩もでないから、そういうことはしないとおもっていた。意外にやり手なのだな」

「……生きていくにはお金が必要ですから。最初はお父様から買ってもらったいらないドレスや宝石を質に売って、それを元手に今後発展しそうな事業に投資したりしてました。失敗したものもあれば、成功したものもあったのでなんとも言えませんが」


貴族社会は女性の立場が低いから、実際、男性がいなくなったらお金を稼ぐ手段はない。とくに私のような嫌われもので社会不適合者は、お父様がいなくなれば、後ろ盾はなくなるし、露頭に迷う。


お金はなんでもは買えないけど、大抵のものは買えるし、幸せにもしてくれる。お金があることで心の余裕にも繋がるのだ。


と邂逅していると、目的の炭酸水と、開発中の食用の香油5種類がとどいた。ストロベリー、レモン、ブルーベリー、メロン、グレープだ。


「公爵様はどれが好きですか?」

「ではレモンを」


レモンの香油の容器を手に取って、沈殿した成分がいきわたるように、数回振って炭酸水の中に数滴入れる。それを公爵様に差し出しすと、それで喉を潤す。


「――これが香油か?水に浮いた脂が少しきになるが、香りは酸味と豊潤なレモンのそれだ。……美味しいよ」


ルビーの瞳が優し気に細められる。お世辞抜きの心からの感想なのがわかる。その言葉の記録を取ってお礼をいった。


「ありがとうございます。改善点はありますが、参考にさせていただきます」

「これを販売するのか?」

「ええ。平民用に。香油は量産できるので、平民向けの商品にぴったりなんですよ」


すると、公爵様が手に顎を置いて考え込んだ。しばらくして顔をあげる提案を持ち掛けられる。


「平民向けに販売するのは少し待ってくれないか? これを貴族用に販売してみるのはどうだろうか?」

「貴族……ですか?いいですけど、贅沢を凝らした貴族相手に果たして売れるでしょうか?」


貴族は舌が超えているし、高いといっても砂糖などの調味料は手に入りやすい立場にある。そんな貴族たちに販売して、はたして……。


「砂糖の高騰化は貴族でも頭を抱えている問題だ。たしかに、平民よりは手に入りやすいが、それと同時に流行にも敏感だな。食用の香油ともなれば興味を持つ貴族も大勢でてくるだろう」

「……たしかに。平民の方に目を向けて疎かにしてました。……少し返答を待ってもらっていいですか?ディナサンが共同出資者ですし、香油の製作は他の商会に任せているので……」

「ああ、それで頼む」

私はディナサンに向けて至急使いを送り、香油についての返答を待った。


話に一区切りつくと、お互いに話すことを失くしてしまう。気まずくて、私は本に手を伸ばした。


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