ぎょうさん食べや
「ということがあってん。姫さんの未来の旦那さんかと思うて期待してたんやけど、期待しすぎて逆に幻滅してしもうたわ」
ディナサンはビジネスの話がてらリーゼロッテに先日あったことを話した。ブルーベルはディナサンの空になったティーカップに新しい紅茶を注ぐ。
リーゼロッテはケーキスタンドに乗せられている、ディナサンがもってきたマダムマコロンのチョコレートマカロンを手にとり、かみ砕いた。
砂糖が高いので、こういうスイーツなどの嗜好品は下手なドレス1枚より高い。最近食べられなかったまともなスイーツに舌鼓みを打ちながら相槌をした。
「旦那という立場と頭の良し悪しは関係ないでしょ。私たちはお互いの利害があって結婚するわけだし」
「このご時世、女一人じゃ生きづらいしな~。女性社会が進出しつつあるいうても、男尊女卑が根底に残る社会や。いくら姫さんがお金を稼ぐ力があっても、家を借りたり、大きい買い物やビジネスの話とかはまだ男性の保証人がおらんと難しいからな」
「その点で言えば、私は幸運ね。あなたというビジネスパートナーがいるから、投資や事業もスムーズにすすむし」
「せやな。絶対に後悔はさせへんから、大船に乗った気でおりぃ」
マカロンを食べ終わり、紅茶で甘さをリセットすると、次は2段目に乗せられていたサンドイッチを手に取る。食欲は人並み以上のリーゼロッテの食べる手は止まらない。
ディナサンもリーゼロッテの言葉に頷いた。
その間にもケーキスタンドに乗せられている2人分のスイーツやサンドイッチはみるみるうちに無くなっていく。
それを気にすることはなく、ディナサンは自分の取り皿の上にある2つのマカロンもリーゼロッテに差し出した。
「これも食べる?僕、仕事柄食べる機会が多いし、姫さんぎょうさん食べや」
「あなたが取ったのだから自分で食べなさいよ。……そんなに食い汚く見えた?」
ぴたり、と食べる手を止めたリーゼロッテは、ケーキスタンドに伸びた手をお引っ込めて、母親に叱られた子供のように顔色を伺うように聞いた。
「いいや?僕姫さんの食べっぷり好きやで? 僕、無理なダイエットのために食べたいもん我慢する女の子より、姫さんのように好きなものを我慢せずに食べる素直な女の子の方が好きやもん」
優し気に視線を細めて頬杖をついたディナサン。口を開かないが、リーゼロッテの後ろに控えているブルーベルはうんうん、と強く頷いた。
なんだかこそばゆくなったリーゼロッテはおずおずとサンドイッチに手を伸ばして茶をすすった。
「変わってるわね。ホント」
ほんのりと、リーゼロッテの頬は赤く色づいていた。
★
「旦那様、執務中に失礼します」
「どうした、今忙しいのだ。至急でないなら後に――」
「いえ、離れで暮している婚約者様のことでお耳にいれたいことが……」
「あの女、またなにかしでかしたのか?」
孤児院対策のについての解決策を自室で練っている最中、来訪者を告げるノック音が鳴る。使用人の若い男性が遠慮気に現われると、至急耳に入れたい事柄を手短に伝えた。
難しい顔がさらに難しく、眉間の皺を濃く刻みつく。
使用人の報告だと、リーゼロッテが周りの目を気にすることなく、頻繁に見知らぬ若い男性を離れに招いているとのことだった。
女性が貴族、またはそれ相応の男性を家に招くことはそう珍しくはないが、婚約者という身でありながら、2人きりになれる環境で家族以外の男を招き入れることが問題だ。
周りの人間の目を考慮すれば、少しわかることだろう。それに、ただでさえリーゼロッテは醜聞が広まりやすい。メリットがあるから婚約関係になったのに、デメリットを運ばれては元も子もない。
道具であれば、道具らしくあって欲しいと、ヴァーレンスは離れにいるリーゼロッテへ悪態をついた。また彼女のために忙しい時間を割かねばいけないのかと思うと気が重くなった。
いっそのこと、婚約関係を破棄してしまおうかとも考えたが、婚約関係を解消した女性は世間体もわるくなる。それにあのリーゼロッテのことだ。嫁入り先がなくなるどころか、まともな生活も送れなくなるかと思うと気の毒に思った。
ヴァーレンスは目頭を押さえて目の疲れを和らげながら執事を呼び、自分の忙しいスケジュールを調整するように命令を下した。




