ディナサン・ドラムドル
「ひ・め・さぁ~ん!お久しゅうございます~♡半年もの間、報告をブルーベル経由で済ますなんていけずやわ~」
「久しぶり、ディナサ――」
次の日の昼下がり。
ブルーベルは言いつけ通り、ディナサン・ドラムドルその人を連れて来た。
ゴマすりをしながらこちらに歩み寄る、茶髪でツーブロックの糸目の青年。そしてうさんくさい訛り方と茶色のスーツをパリっと着こなす様は、見る人が見れば彼に見惚れるのだろう。
ディナサンはセールスする気満々で大きなスーツケースを無遠慮にいくつも運ばせてくる今に始まったことではない。
ひょうひょうとしており、食えない態度でこちらに接近する。接待用の机を挟んで、猫なで声でご機嫌を伺うのはまさに王国有数の大規模商会の商会長にふさわしい態度......といえなくもないかもしれない。
信頼はしているが、信用はできない。何を考えているかわからないし。この人のおかげで色々な事が助かっているからあまり多くは言わないけど。
「もう、姫さん!僕のことはディーでいい言うとるやんかっ!僕と姫さんの仲やさかい、そう呼んだって欲しいねんなッ?」
「こんなデブに愛称で呼んで欲しいとか変わってるでしょ。......ま、いつものくだらないやり取りは置いて......」
「ああッ!姫さんのその辛辣な態度がたまらん......ッ!――で、呼んだ理由言うんは使用人が欲しいからやろ?」
一応ブルーベルから経緯は聞いているのだろう。友人に会うような馴れ馴れしい態度から、ビジネスの話をする、真剣な顔付きに変わる。
だから、商人としては信じられる。お金でのやりとりに関してはこの人ほど誠実な人間はいないから。
「そう」
「まぁ、庭の荒れ方の屋敷の手入れが行き届いていない有様みればすぐわかるわ~。んで、何人欲しいん?」
言葉にせずに指を4本突き立てる。意外そうにディナサンは細い目をかっぴらいた。
「そんな少なくてええん?生活費は公爵様が負担してくれんねやろ?20人くらい雇えるやん~」
「公爵様から送られてくる生活費の予算だとこれくらいが限界なの。今でも維持費は私のポケットマネーで賄っているくらいだし」
「......ええ~、ヴァーレンス・グラトニー公爵様ってそんなにケチなん?」
通常貴族の1ヶ月の生活費は1人頭の生活費はおおよそ金貨5枚と言われている。うちの場合、人件費や維持費もろもろ入れると金貨10枚はいるだろう。
しかし、実際に私に回ってくる生活費は金貨3枚。ブルーベルの給金を入れるにしても、屋敷の維持費まで手を回せない状態だった。
なんとか事業の仲介料や、ディナサンから貰っている契約金等で月に金貨500枚くらいは手元に入ってきているが、事業等の維持費に当ててしまえば、手元には10枚も残らない。
つまり、生活費で使えるのは金貨13枚程度。そして使用人を解雇してしまい、お財布は公爵家が握っている以上は、この離れの管理は自分で回さなければ行けないのだ。
「金貨3枚はすっくなすぎやんか。それ公爵様に言ったん?明かに予算管理の人間が姫さんの生活費を着服しとるやろ」
「グラトニー公爵は忙しいし、予算管理をしているハイリーっていう人間が管理しているんだけど、会おうとしても無視されるから打つ手なし。自分の生活は自分で管理するしかないでしょ」
「はぁ~、姫さんも苦労しとんやなぁ......。まぁ、人材の件は僕に任しとき。後、4人くらいの給金なら僕が出したるわ。いつも僕の事業にアドバイスしてくれているお礼や。ついでに清掃業者も雇ったろ」
ディナサンは懐から取り出した計算機をぱち、ぱち、と弄りだし、4人分の給金と清掃業者を雇う分の金額を算出する。得意気に笑っているが......。
「いいの?」
「かまへん。かまへん。姫さんのアイデアにはそれ以上の利益を出させてもろうてるから。姫さんの引きこもりライフに協力させたってぇや~」
両手を握って食えない笑みを浮かべる。今はその言葉が頼もしいので、行為に甘えようと思う。教育事業もそうだが、今出資している事業が上手く行けば、長期的な利益が見込めるはずだ。
それまでの辛抱と思えば、この苦痛も嫌ではない気がしてきた。
まぁ、人と関わるのは本当嫌なんだけど。




