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▼闘技大会-フォクセルvs.-

 ドミネイトコロシアム中央ステージの中心付近、やや右サイド寄り。

 先程までほとんどその場から動かず、やる気の欠片も見せなかったレイズだったが、突然火が付いたかのように烈火の如く動き始める。

 レイズは周囲を取り囲んだ筋肉モリモリの複数人を相手に盛大なバトルを繰り広げていた。


 そんな獅子奮迅するレイズから向かって左。ステージ正面の奥側。

 そこには頭から爪先まで全身黒尽くめのフォクセル・フォールドの姿があった。

 更なる盛り上がりを見せるステージの上。一人ポツンと立ち尽くしたフォクセル。フォクセルもまたレイズ同様にほとんどその場から動かずにいた。


「見て見てお姉様!あそこあそこ!」

「あんら!なんて可愛いらしいコなのかしら!」


 すると突然、フォクセルの背後からしゃがれ気味の黄色い声が降りかかた。その耳障りの悪い声に背後を振り返れば、そこには――


 スネ毛剥き出しの筋肉質な脚。

 濃ゆ過ぎる化粧に真っ赤な唇。

 深いスリットの入った際どすぎるカラフルな服。

 ド派手な衣装を纏った謎の2人組がフォクセルを見詰めて立っていた。


 彼らはエントリーナンバー87番と88番。

 ジュリオとグレコ、マイニング兄弟。いや、姉妹。

 男色家である彼らは細くて可愛いイケメン好き。賞金稼ぎの双子である。

 好みのイケメンを探して闘技大会に出場した彼らは適当に参加者達を蹴散らしながら進んだのち、戦闘もせずに立ち尽くした一際華奢なフォクセルへと目を止めたのだった。


「艶やかな漆黒の髪に透き通るような白い肌――」

「長い睫毛に流れるようなその視線――」


 ハアハアと荒い息を溢しながらジュリオは頭から爪先まで舐め回すような視線をフォクセルへと向ける。フォクセルの全身にねっとりと視線を這わせたのちジュリオはじゅるりと舌舐めずりをした。


「もうなんて可愛らしいコなのかしら!かなりアタシのタイプだわ!」

「お姉様ったらアタクシが先に見付けたのよ!横取りなんて酷いわ!酷いわ!」


 熱い眼差しを向けるジュリオに対し、剥れた顔をしたグレコが食って掛かる。

 依然その場に立ち尽くしたフォクセルを前に怪しい双子は獲物を取り合って揉め始めた。そんな怪しさ満点の彼らを一瞥して、フォクセルは珍しく首を傾げる。


「……誰?」

「アタクシ達が誰かですって、お姉様」

「ふふふ、アタシ達を知らないのね。いいわ、教えてあげる」


 フォクセルの言葉を聞いたジュリオとグレコは互いに向き合い頷き合う。

 そして、スネ毛の生えた長い手脚をふんだんに使い、ゆらゆらとそれを舞い始める。


「性別さえも超越した気高くも誇り高く美しき存在――」

「神が犯した甘美な罪!」

「「そう私達は――妖艶にして華麗なる賞金稼ぎ!マイニング姉妹!!」」


 バーンッ!!と音が鳴りそうな程のその迫力。もしもこの場にスポットライト等があったとしたならば、結構それなりに見えたかもしれない。

 しかし、ここは闘技場のど真ん中。そして今は熱い闘志がぶつかり合う闘技大会の真っ最中。そんな状況下であることさえ忘れて、ジュリオとグレコの双子は華麗な舞をフォクセルに対して披露した。異様にして異常を極めた彼らの姿。それには付近で熱いバトルを展開していた猛者達も思わず手を止め呆気に取られる。誰もが目を止めてしまう程の妖艶にして華麗な舞。それをせっかく披露したにも関わらず――


「ちょっと無視してんじゃないわよっ!」


 彼らの優雅な舞をフォクセルは全く見てなどいなかった。


「アレンが頭のおかしい奴には関わるなって」


 あまりにもギャンギャンと喚く双子を振り返り、フォクセル一言そう述べる。フォクセルは踵を返し、そして再びスタスタとその場を離れようと歩き始めた。

 しかし、そんなフォクセルの素っ気ない態度が逆にこの自称乙女達を更に激しく燃え立たせる。


「本っ当になんて無礼なコなのかしら!そんなコには礼儀を教えてあげなくちゃいけないわね」

「そうよ!お姉様!あの無礼でイケメンで美味しそうなコにアタクシ達の流儀を教えてあげましょうよ!」


 ジュリオとグレコは互いに手にした武器を構える。


「その華奢な身体にアタシ達の恐ろしさを教え込んであげるわ!」


 背を向けたフォクセルにジュリオが勢い良く斬り掛かった。

 背後から迫る異質な気配にいち早く気付き、フォクセルはそれをなんなく交わす。だが、側面から現れたもう一方の気配にはやや対処が遅れてしまった。


「……っ」


 頬の辺りに痛みが走る。

 フォクセルの側面へと回り込んだグレコが鋭い刃で斬りつけたのだった。


「真っ赤な血……あぁ……なんて美味しいのかしら」


 ジュリオとグレコは剣にこびりついたフォクセルの血をそれみよがしに互いに舐め合う。その様は異様にして異常。もはや狂気すら感じる程だった。


「…………」


 その光景を前にして。今まで顔色一つ変えずにいたフォクセルだったが、ようやく彼らがただの変質者ではない事に気が付く。フォクセルは改めてジュリオとグレコの双子に対し向き直った。


 フォクセルvs.ジュリオとグレコの双子姉妹。


 闘いの火蓋が切って落とされた。



***



 双子との戦闘は熾烈を極めた。

 一方の攻撃を交わしてたとしても、もう一方が更に別の角度から攻撃を仕掛けてくる。しかも、双子の息はぴったりで全く隙がなく、反撃の余地が無い。

 次々と繰り出され続ける双子の攻撃をフォクセルはなんとか交わし続けていた。


「避けてばかりじゃ面白くないわ。その腰に差した刀を使ったらどうなのかしら?」


 華麗にして猛烈な勢いで剣撃を繰り出し続けていたジュリオが突然、攻撃の手を止めた。そして、ジュリオはフォクセルに対してそう提案する。

 無抵抗な相手をただ一方的になぶった所でそれ程面白味は感じられない。寧ろ全然物足りない。激る彼らの身体は更なる刺激を求めていた。

 しかし、そんなジュリオの提案をフォクセルは即時却下する。


「コレは使わない」


 自身の腰に差した刀へと視線を落としフォクセルは静かにそう呟く。


「アレンがコレは使うなと言ったから」


 静かに告げられたその言葉。

 そんなフォクセルに対し、双子の中にはだんだんと苛立ちが募っていく。


「なんでもかんでもアレンアレンって。一体誰なのよ、そいつは?あんたの母親か何かな訳?」

「アレンは俺にとって……」

「お姉様!アタクシなんだかもう飽きて来たわ!もっとイケメンで可愛いコを探しに行きましょうよ!」


 ジュリオの問いに答えかけたフォクセルだったが、それを遮りグレコがわんわんと提案する。その提案にジュリオもまた同意した。


「それもそうね。かなり勿体無いけれど……なんだかアタシもだんだん飽きて来たわ」


 言ってジュリオは手にした剣を構え直す。

 双子は互いに呼吸を合わせると、フォクセルへと向かって一直線に突っ込んでいった。


「それじゃあ、バイバイ!私の可愛いハニーちゃん!!」


 ジュリオとグレコは互いに渾身の一撃を放った。

 ギィィンッと金属音が弾ける。前方と後方。挟撃するように放たれた双子の斬撃をフォクセルは主催者側から貸し出された剣と自身の刀とを使って防いだ。


「このコ、なんて力なの……っ!?」


 自身の渾身の一撃を防いだフォクセルに対し、ジュリオは思わず息を呑む。


「負けられない。アレンの為に」


 言ったフォクセルは双子の剣を弾き返した。

 そして、今度はこちらから双子に対して攻めの姿勢で臨んでいく。

 そんな双子との戦闘の最中、フォクセルの中に1年前のとある光景が蘇っていた。


『――その刀は抜くな。お前自身がそれを必要だと思うまでは絶対にな』


 1年前、瀕死のアレンが口にした言葉。

 今、自身に対して攻撃を仕掛けて来るこの双子。

 その姿はまさに、その時アレンを瀕死の状態にまで追い込んだ“アイツ”によく似ていて。その圧倒的な力量差を前に敗北しかけたアレンだったが、それでも余裕の表情を崩さずに彼は確かこう口にしていた。


「『気色の悪いカマ野郎』。『自己愛主義の自惚れ屋』。『自画自賛に浸ってんじゃねぇよ』」

「な、なんですってぇえ!!??」

「酷い酷いわ!お姉様!もうこんなコ、ブチ殺してやりましょうよ!!」


 突然フォクセルから発せられたその言葉。

 彼自身には挑発の意図など全くなく、単にその時アレンが言った言葉を口にしたに過ぎなかったが、ジュリオとグレコはそれを自分達への侮辱と取った。

 激昂した相手は更に大きく振り被る。鋭い斬撃が目の前へと迫った。

 ――仕留めた。そう思われた。


「な……っ!!??」


 しかし、先程とは比べ物にならない程の力でその刃は弾かれる。

 剣は完全にジュリオの手を離れてしまった。完全無防備となったジュリオの懐にフォクセルが素早く飛び込んで来る。その手にはどういう訳か、今さっき剣撃を弾いた筈の剣は持たれてはいなかった。

 フォクセルのは両手は完全なフリー。自分と同じ完全な丸腰。

 腰には刀が差されてはいたが、この男は刀は抜かないと豪語していた。

 この男は決してその刀を抜かない。

 しかし、その僅かな油断が仇となった。


 ふわりと浮遊感が身体を襲う。


「へ?」


 一体何が起こったのか。

 それを理解する暇もなく次の瞬間にはグラリと視界が反転し――凄まじい衝激が脳天から突き刺さった。背後からフォクセルを追い掛けていたグレコでさえ、その光景に思わず手を止め掛ける。

 フォクセルは無防備となったジュリオに対し、華麗にバックドロップを決めたのだった。


「お、お姉ざまぁああーーっっ!!!!????」


 キーキーと甲高い響きを奏でていた声が思わず、地の低いものへと戻る。

 まさかのお姉様瞬殺という展開に仰天し呆気に取られたグレコ。


 その一瞬の隙が命運を分けた。

 素早くその場から立ち上がり、思い切り地面を踏み切ったフォクセル。


 その身体はくるくる華麗に宙を舞い。

 一瞬、漆黒の影で太陽が陰った。

 次の瞬間、強烈な衝撃が顔面にめり込む。

 フォクセルの空中からの鋭い蹴りが見事グレコの顔面に炸裂したのだった。


「………」


 表情一つ変えずに華麗に地面へと着地したフォクセル。

 ジュリオとグレコ、マイニング姉妹との対決。

 熾烈を極めた激戦の末、見事フォクセルにその軍配が上がったのだった。


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