▼深淵(ラック視点)
日が落ちても尚、街はその活気を失う事はない。
ラックは戻って来ないハルを探し街の広大な市場を探索していた。
恐らくハルは、探索そっちのけで昼間から酒を煽るアレンに嫌気が差し、外の空気を吸いに店の外へと出たのだろう。
ハルは異世界の人間だ。
にわかには信じがたい話ではあったが、身に纏う衣服や聞いた話。眼に映る様々な物に興味を持ち、それらに目を輝かせる様子などから、それは事実であるのだろうと思っていた。
そんな“異世界人”のハルがとったであろう行動。
店の外へと出たハルは、そのまま物珍しさから一人で街を散策してみようという気になったのかもしれない。
目の前にはリンプインの街最大の広大な市場。
日が暮れても尚、その人数は一向に減らない。それが昼間ともなれば尚更。更に人数は多く通りはごった返していたに違いない。
市場を通り過ぎ、大通りへと出る。
人の流れに乗り、しばらく大通りを探索していたラックだったが、中間地点を過ぎた辺りで通りを一歩逸れ、細い脇道へと入ってみる。
やはり人通りは少ない。
そのまま、ラックはその脇道の奥へと足を進めた。
人の多い大通りに比べれば、やはり歩き易くは感じる。
しかし、賑やか雰囲気は一変。
細い道の先は、暗く漆黒の闇が覆い、寂れた空気が漂っていた。脇道の先には更に細い道が幾重にも存在し、それらは複雑に入り組んでいるようだった。
旅慣れ慣れしていないハルが、人混みを避けて脇道へ入ったという可能性。
確かにこの様子なら道に迷ったとしても不思議ではない。
しかし、ほろ酔い状態であったアレンの様子からして、ハルが居なくなってからかなりの時間が経っていると思われる。
人混みを避け、好奇心に任せ細い脇道を更に奥深くへと進んだ結果、本当に道に迷ったのか。
あるいは……
もし、そうでないとするならば――
“何らかのトラブルに巻き込まれた”
更に足を進めれば、闇は更にその濃さを増す。
道端にはぽつぽつと数人の男達がたむろしているのが散見された。彼らの眼光は皆一様に鋭い。
見掛けこそ、活気があり賑やかな雰囲気漂う陽気な国のようにも思えるが、この手の国では、それは単なる表層に過ぎない。その根底には底知れぬ闇が横たわっている。
「……っ」
胸が締め付けられるような息苦しさを覚える。
憎悪に似た感情が沸々と湧き上がり、消えない記憶が容赦なくその扉を叩く。
湧き上がった感情を押し殺す様にクッと唇を噛み締めた。
2年前、アレン達と出逢って命を拾われたその時から。
もう二度と関わらないと決めた。
けれど、ハルが姿を消し、“それ”に巻き込まれた可能性が否定出来ない今、そんな事を言ってはいられない。
羽織ったマントの留め具を外し、自身の目立つ赤髪を隠すように目深にフード被る。目の前に広がる深闇の更にその奥へと、ラックは静かに足を踏み入れた。




