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閉幕

 辺りはしんと静寂に包まれた。

 国を覆った業火が消えた。


「終わった……」


 思わずそんな言葉が口から溢れる。

 時を跨いだ伝説はレイズの想いに応え、国を焼き尽くす業火を打ち破った。

 静寂に包まれた玉座の間。そこには劫火を纏うフレイを手にしたレイズが1人立っていた。

 紅蓮の炎に揺れた舞台。その幕は降ろされた。しかし、はけた筈の普段袖でその演目は尚も続く。アレンが倒れたジェーナイトへと駆け寄った。


「アンタにフレイの事を吹き込んだのは誰だ?」


 アレンはジェーナイトを問い質す。

 その問いに対し、ジェーナイトは虚ろなアレンへと目を向けた。


「アンタにフレイの事を吹き込んだ奴がいた筈だ。そいつは誰だ?“彼ら”とは一体何者なんだ!?」


 アレンは倒れたジェーナイトの胸倉を掴み、問いを重ねて必死にその答えを聞き出そうとする。

 アレンの様子はいつもとは明らかに違う。その顔からは笑みが消え、いつもの余裕を今は少しも感じない。こんな必死な顔をしたアレンを私は一度も見た事がなかった。

 血を流したその口が微かに動く。虚ろな目をしたジェーナイトはアレンにその答えを示す。


「……く……ろの」


 ジェーナイトは掠れる声でこう告げる。


「黒の……再来……」


 たった一言そう言って、ジェーナイトは意識を手放した。

 

「黒の再来……」


 アレンは掴んでいた襟元を離す。

 彼の瞳には明らかな動揺が浮かんでいた。


 そこにバタバタと複数の足音が近付いて来る。

 表で鎧の騎士達と戦っていた兵士達が駆け付けた。どうやらジェーナイトを倒した事により、魔力の供給と魔法の発動が止まり、鎧の騎士達は止まったようだった。

 駆け付けた誰もがその場の光景に目を見張った。しかし、それはすぐに負傷したケイル国王の方へと向けられる。


「陛下!」

「陛下!ご無事ですか!」


 兵達は皆口々に言って、ケイル国王の元へと駆け寄りその身体を支える。そんな兵士達にケイル国王は頷いて答えた。

 静かな夜を取り戻したディーレフト。誰もが安堵の息を吐いた。


「さて」


 そこに、パンッと小気味よい音が響く。


「これにて一件落着。お後がよろしいようなので」


 言ってアレンは親指を立て後ろを指し示す。


「逃げるとしますか」



 ***



「待てっ」


 踵を返した背中に声が掛かった。


「待ってくれレイズ・ローゼルっ」


 ケイル国王がその場を去ろうとするレイズを呼び止めた。その声にレイズは駆け出そうとした足を止める。


「レイズさん……」


 私の位置からではレイズの表情はよく見えない。しかし、私には彼が揺れているように見えた。

 国王殺害、王国転覆。

 秘宝を持ち去り逃亡を図った。大罪人とされたレイズ・ローゼル。

 彼は3年の時を経て、再びディーレフトを救った。

 その炎華に咲いた演目を国王のみならず、多くの兵士や住民達が目の当たりにした。その事実は今度こそ、闇に葬られる事はなく、きっと大衆から拍手喝采が送られることだろう。レイズは今度こそ、本当に国を救った英雄となったのだ。

 海賊であるアレンとは違う。

 レイズはもう逃げる必要などどこにも無いのだ。


「レイズ・ローゼル……私はっ――」

「レイズ」


 何かを言い掛けたケイル国王。

 その言葉を遮って立ち尽くすレイズをアレンが呼んだ。


「何やってんだ、行くぞ」


 そして彼はこう続ける。


「当然、来るだろ?」


 アレンはそう言って笑った。そして、レイズに向かって何かを投げて渡す。アレンはそのまま、レイズからの返事を待たずに走り出した。

「ハル」とレイズ同様に立ち尽くす私をアレンが呼んで。その声につられて私は駆け出した。

 走り出したアレン。そのすぐ後に私は続く。アレンは一切迷う事なく、広い玉座の間を直進して、そしてそのまま真っ直ぐに駆けていく。


 ……え?真っ直ぐ?


 やっとの思いで登ってきた長い階段のある通路は玉座の間を出て向かって右。そこを曲がらずにアレンはひたすら前方へと直進する。

 一体どこへ向かうつもりなのかとその先へと視線を向ければ――

 そこにはジェーナイトとの戦闘でぽっかりと城の外壁に空いた大きな穴が。

 そこからは満点の星輝く夜空が望め、眼下には惨禍に見舞われた王都の街並みが広がっている。


 ……まさか、これは。


 とてつもなく嫌な予感がして、足を止めた掛けた私の腕をアレンが掴む。


「さて、ハル」


 私の腕を掴んだまま、アレンはくるりとこちらを振り返った。そしてこの男はさも楽しげにこう述べる。


「英雄が見事に国を救った輝かしいこの舞台。ここは華々しく退場と行こうじゃないか!」


 華々しく退場ってまさか……


「さあ、俺の合図でしっかりと力強く床を踏み切るように!」


 言ってアレンは更にそのスピードを上げていく。

 この後の展開は想像通りである。

 私はアレンに腕を引かれたまま、言われるがままに力強く床を踏み切って。ぽっかりと外壁に空いた大穴からまさかまさかで外へと向かって飛び降りたのだった。



 ***



「いたたたた……なかなかラックのようには上手くいかないもんだな」


 ゆっくりと身体を起こしたアレンは打ち付けた腰をさすりながら苦笑を浮かべた。


「し、死ぬ……今度の今度こそ、本当に死ぬっかと思ったぁあ……」


 代わって私は芝生の生えた地面に両手をつき、半泣き状態でそう吐き出した。

 城の外壁に空いた大穴から外へと向かって飛び降りた私とアレン。

 暗い夜の空を真っ逆さまに落下していく中、アレンはぐいっと私の身体を引き寄せ、そして外壁へと向かって何かを放った。それはいつぞやに海へと向かってダイブした際に見た、細いワイヤーのような装置。ラックの秘密道具であった。


 本来ならばラックのように地面手前で徐々にスピードが落ち、華麗に着地出来る筈なのだが、それがどういう訳か上手くいかず。

 そのまま、私とアレンは地面へと向かって急降下。

 途中に生えていた木やその枝と葉がクッションとなり、落下スピードが軽減されはしたが、ほとんど直撃したと言っていいその衝撃は本当に半端ではなかった。


「やっぱ、ラックに借りといて正解だったな」


 そんな死ぬ思いをしておいて呑気な言葉を口にするアレン。

 この男……本当に危険極まり無い。

 命が惜しくはないのだろうか?

 というか、一体いつの間にそんなものを?


 そんな疑問が頭を過ったが、そういえば、ラックが私に護身用にと銃を渡した後、アレンも確かにラックに何かを借りていた。恐らくはその際にラックに秘密道具のワイヤーを借りたのだろうと思われた。だがしかし、そんな事はこの際どうでもいい。


「なんでよりにもよって飛び降りての退場なんですか!?」

「なんでって、そりゃあ色々と手っ取り早いし、それに城のあの長い階段をひたすら下っての退場じゃかっこがつかないだろ?」

「かっこがつかないって……そんな……」


 まさかただそれだけの理由であの高さから飛び降りたというのか。


「それにあいつだって、色々と面倒なのはごめんだろ?」


 アレンはそう口にした。

 アレンの言うあいつとは、恐らくレイズのことだろう。


「あいつにもさっき予備を渡しておいたし、まあ大丈夫だろう。……たぶん」

「けど、レイズさんはもう……」


 戻っては来ないんじゃないだろうか……


「なに、あいつなら心配ない」


 私の考えを見透かしたかのようにアレンは笑顔でそう口にする。


「けど……」


 続く言葉を言いかけた時、それを掻き消すように頭上から声が降って来た。

 そして私とアレンが落下した時と同様に、まず悲鳴が聞こえて、次にバキバキと木の枝が折れ、ガサガサとその葉が鳴る音。最後にドサッという鈍い音を立てて上から何かが落下して来た。


「……ってーな」

「レイズさん!」


 頭上から落下して来たのはレイズ・ローゼルその人だった。

 打ち付けた腰をさすりながらレイズはゆっくりと身体を起こす。

 どうやらレイズもアレン同様、ラックの秘密道具を上手く扱えなかったようだ。


「なんだ、随分とカッコ悪い退場だな」


 あからさまな顔を向けるアレンを見つけるとレイズはすくっと立ち上がった。そして、立つなりズンズンとアレンの元へと詰め寄っていく。


「アンタな!なんでよりにもよってあんな所から飛び降りてんだよっ!?」

「国を救った英雄にはカッコよく華々しい退場がお似合いだと思ってな」

「普通死ぬぞ!あんなところから飛び降りたら!」

「けど、大丈夫だっただろ?なかなかの良い演出じゃないか」

「そんな事を言ってんじゃねぇっつの!もうちょっと考えて行動しろよっこの馬鹿がっ!」


 物凄い剣幕でアレンへと詰め寄ったレイズ。それをアレンはのらりくらりといつもの調子で受け流す。いつもの2人の押し問答が始まりかけた。


「そんなに文句を言うならあそこに残ってても良かったんだぞ?」


 いつになく目を吊り上げて怒鳴り散らすレイズ。それに対してアレンは剥れたようにそっぽを向く。


「……っ」


 珍しい態度をとったアレンを前にレイズは思わず面食らい。そしてぐっと押し黙ってしまう。無言となったレイズ。彼は剥れたアレンを無視して、その足を一歩踏み出す。


「さっさと行くぞ」


 私とアレンにそう声を掛けて、レイズは1人歩き出した。

 そんなレイズを見て、私とアレンは顔を見合わせ、静かに笑って。

 私とアレン、そしてレイズの3人は残火の揺れるディーレフトの街を駆け、夜の闇へと紛れた。


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