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その想い

Pixiv・Twitterにてキャラクターのイメージイラストを書きました。

#蒼春の異世界冒険譚で検索(?)すれば、出て来る筈です。たぶん。

 揺れ惑う炎の中。立ち尽くすのはまだ幼かった日の自分。

 真っ赤な血が足元を染め、目の前で沈む両親の姿にただただ茫然と立ち尽くしている。


 結局、何も守る事など出来なかった…


 俯いた頬を涙が伝い、足元に広がる真っ赤なの海へと沈んでいく。

 失った。何もかも。帰る場所や仲間、家族さえも失った。

 自身の選んだ選択が大切な人にさえ、失わせた……


 ずっと疑問に思っていたんだ。

 国王を手に掛け、フレイを持ち去り海賊に身を落とした事を。

 差し迫られて自分で選んだ筈の選択が果たして本当に正しかったのか。

 本当に、他に選択肢はなかったのかと。


 あの人ならばどうしたのだろうかと……けれど、答えてくれる人はもう居なくて。

 結局、何一つ、守る事など出来なかった……


 広がった闇が徐々にその視界を奪っていく。

 深い暗闇に引かれるように思考が落ちて行きそうになった。


『いつまでいじけてるつもりなの!?』

『いい加減、顔を上げろ』


 不意に声が聞こえた。その声に落ち掛けた思考がはたと止まる。


『レイズ』


 誰かに名前を呼ばれた。

 その声に顔を上げれば、すぐ傍には優しく微笑むあの人の姿が。

 光を失い涙で濡れる姿を見て、あの人は少し困ったように笑う。


『泣くんじゃない、男だろ?』


 あの人はそう言って笑いかけた。

 そして、小さい手にはあまりに大きく、重いそれを手に渡す。


『その剣、お前にやるよ。自分にとって大事なものを守るんだ』

「大事なもの……」


 繰り返した言葉。

 その言葉に頷いて、あの人のはこう言葉を続ける。


『お前は俺の大事な家族で、お前は俺の――“誇り”だからな』


 暗闇へと落ちて行く意識の中。懐かしい記憶を、そんな夢を見た気がした。

 瞼の裏へと浮かんだその光景。その光景に跳ね上げられるように落ち掛けた意識は急浮上する。



***



「笑っちまうよな」


 アレンは言った。その言葉に続くようにすぐ傍から音が聞こえた。

 その方向へと視線を向けると、意識が戻ったのか、レイズが僅かに身体を動かした。


「……っ」


 レイズは苦痛に顔を歪めながらも、ゆっくりとその腕をつく。

 そして重くのしかかる重力に逆うように、傷ついた身体を徐々に徐々にと持ち上げていく。ゆっくりとレイズは一人立ち上がった。

 けれども、その身体はもはや満身創痍の状態で。全身に火傷を負い、身体のあちこちからはかなりの出血も見受けられる。

 立ち上がったレイズのその姿。その様はもはや立っているのがやっとに見えた。


「まだ立つか」


 立ち上がったレイズを見て、ジェーナイトは冷たく言葉を放つ。

 レイズはただ深く俯いたままで。

 視線は依然として伏せられていて、その表情は私の位置からではよく見えない。


「良い加減に認めたらどうだ?この剣を貴様なんぞが手にしたところで、所詮英雄になどなれはしない」

「英雄……か」


 ジェーナイトの言葉にレイズが僅かに反応を示した。そして、彼は薄っすらと笑う。


「……確かに、俺は英雄なんかじゃない」


 閉ざしていた口から静かに言葉が溢れ落ちた。


「国を守り、たとえ大勢を救ったとしても、その結果、自分にとって一番大事な物を取り零した。俺は本当に、あの人とは大違いで……あの人のようにはなれはしない……」


 自嘲を含んだその言葉。そんな言葉をレイズは淡々とその口から述べる。


「ならば、何故まだ立ち上がる?」

「そんな事、決まってんだろ?」


 レイズはゆっくりと伏せていた視線を上げた。


「確かに俺は英雄でもなければ、あんたのような力も無い。あいつについて身を落とした薄汚い海賊風情だ。


 けど、だからって。


「あんたがフレイに相応しいとは思わないからだよ」



***



「貴様っ」

「だから“奪われた物を奪い返す”」


 ジェーナイトは口調を荒げた。

 しかし、レイズの言葉を聞いてそれはすぐに失笑へと変わる。


「奪い返すだと?今更フレイを取り戻したところでどうする?剣は既に持ち主は選んだ。既に勝敗は決した筈だか?」

「そうかもな」

「……何がおかしい?」


 尚も嘲るジェーナイト。ジェーナイトはせせら笑った。

 しかし、当のレイズは口元に薄っすらと笑みを湛えたまま。

 自嘲のつもりなのだろうか。その不可解な態度にジェーナイトは不信感を露わにする。


「なんで自分にその剣が使えるのか。……なんて。正直、そんな事を考えた事もなかった。……けど、そんな事、今更考えたところで結局、知り得る方法はただ一つ」


 水を打ったような静寂の中、その言葉は静かに響く。


「……なあ、フレイ。聞こえてんのか知らねぇが、もし聞こえてんのなら――」


 応えてくれ。


「たとえ、それがどんな答えでも……構わない」


 レイズは毅然として顔を上げた。

 その碧眼は揺るぎなく、業火に燃ゆるフレイを見据える。


 誰かに勝る物など無い。

 誇れるような物はおろか、掲げるような大義さえ無い。


 ……自身が相応しいとは思わない。


 だが、たとえそれでも――

 俺は――


「今一度問う!選べ、フレイ!俺かそいつか、お前のその持ち主を!」



 ***



 フレイの炎が大きく揺れた。途端、炎は激しく燃え上がる。

 燃える炎は大きく波立ち、唸りを上げて激しく逆巻く。噴き上がる熱風が渦巻いて、剣は眩い光を放った。


「なにっ……!?」


 驚愕の声を掻き消して、刀身から放たれた光は眩しく視界を白に染めた。


「なんだとっ……!?」


 光の中からジェーナイトの悲鳴が響いた。

 慣れて来た目をそちらに向ければ、フレイの纏う炎がジェーナイトの纏う炎と相反するように激しく揺れている。


「馬鹿なっフレイが熱を持っただと!?」


 驚愕の声を上げ、ジェーナイトはフレイを手にした左手を見る。

 フレイの纏う炎は激しく逆巻き、逆流するようにジェーナイトの腕を這う。紅蓮の炎は業火を飲み込み赤々とその左腕を燃やした。


「ぐぁあああっっ」


 その熱に耐え切れずにジェーナイトはフレイを手落とす。

 手離されたフレイが階段を滑り、離れた床へと転がり落ちた。滑り落ちたフレイへと向かってレイズは勢いよく床を蹴る。


「それに触れるなッ」


 負傷した左腕を庇いながら、ジェーナイトは自身の纏う火焔を放った。

 一気に床を蹴ったレイズ。

 しかし、放たれた炎の方が遥かに早い。


 ダメだ、届かない。そう思われた。


 その瞬間、フッとフレイが宙に浮いた。

 そしてそのまま宙を舞い、フレイは放たれた火焔を切り裂いた。

 フレイはそのままくるくるとひとりでに宙を舞って。

 まるで狙いすましたかのようにレイズの目の前へと突き刺さった。


 纏った業火を脱ぎ捨てて、鈍光を放つ鈍の剣。

 その光景はまるで。


 ――剣を取れ――


 レイズに対し、フレイがそう言っているかのようだった。

 静寂の中、レイズはゆっくりとフレイの柄へと手を掛ける。力を込め、ゆっくりとフレイを引き抜いた。


 その途端、劫火は息を吹き返す。

 鈍だった筈の剣は、赤く燃え踊る炎を纏った。

 光を帯びて揺らめく炎。それは刀身だけに留まらず、レイズの腕へと絡み付き、全身へと回り行く。炎は逆巻き揺れながら、レイズの全身を包み込み赤々と熱く彼を燃やす。その姿はまるでレイズ自身がフレイの劫火を纏っているかのようだった。



***



『なあ、この剣に名前は無いのか?』

『名前?』


 唐突な問いにそう聞き返せば、よほど真剣な顔で彼は頷く。


『炎を纏う剣だからファイヤーソードか?いやいや、勝利の剣だから、ビクトリーブレードとか?うぅ~ん……』


 思い付いた名前を彼は次々に口にする。

 そのあまりのネーミングセンスに内心呆れてしまいそうになる。

 このままでは、誉れ高き伝説の剣が、ビクトリーファイヤーソードになってしまいそうなので。


『――なら、フレイはどうだ?』


 真剣な顔で悩む彼を前に、咄嗟に頭に浮かんだ名前を提示した。


『勝利の剣・フレイか!』


 彼の顔に笑顔が咲く。その名前に彼は目を細め満足気に笑った。



***



「『終末に世界を焼き尽くすとされる炎の剣』

『愚かな者が持てば鈍だが、正しき者が持てばひとりでに戦う、勝利の剣』」


 異なる伝承として謳われし2つの剣。

 記された文献は乏しく、その存在は幻想か、或いは伝説の域を出ない。

 実体の証明は誰にも叶わず、真実など到底知り得ない。

 だが、古い異説によれば、それらは同一のものだとされる説がある。


 その瞬間、遠い日の記憶とその伝説が脳裏を過った。


 遠い昔、仲間を守りたいというロイの想いに応え、それはロイに剣を抜かせた。そして時を経て、その剣はレイズの問いに応じ、その覚悟に応えた。

 レイズは今度こそ本当に、自分自身の力でフレイに自身を認めさせたのだ。


 揺らめく劫火は鮮やかでその色彩は思わず目を奪われる程に美しい。

 ジェーナイトの業火のように毒々しくむせ返るような炎ではなく、それは凛とした光を帯びて揺れていた。

 かつて『劫火の英雄』と謳われたロイでさえ、その炎を刀身に纏うのが精一杯であった筈。

 全身に逆巻く劫火を纏ったレイズの姿を見て、アレンは一人笑みを零す。

 本当にこの親子には驚かされてばかりだ。


「さすがお前の息子だよ」


 いや、そんな事は寧ろ。


「当然だよな、ロイ」


 アレンは一人、その口元に笑みを湛えながら古い友人への言葉を口にした。



***



「馬鹿な……っ」


 ジェーナイトは驚愕に目を見開いた。

 かつての英雄でさえ、その炎を刀身に纏う程度であった。それは力を手にした自身でさえも同様で。しかし、今目の前に立つこの男はそれを遥かに凌駕し、自身が炎と化したかのよう。

 紅蓮に揺れるその姿。その闘志が噴き上がる熱を通して伝わり、身を焦がすようだった。

 レイズは手にした劫火の剣・フレイを構える。そして、赤く燃える刃をジェーナイトへ向けた。


「そんな事が……そんな事がある筈がないっ」


 ジェーナイトは自身の纏う火焔を放った。放たれた炎は渦となりレイズへと向かい襲い掛かる。

 レイズはフレイを大きく振り上げ、勢い良く剣を振り下ろす。

 振り下ろされたフレイは真っ二つにその業火を切り裂いた。


「それは貴様如きに使いこなせる物ではないッ」


 赤く燃えるジェーナイトの腕から続く、第二波、第三波が放たれる。

 フレイはそれを次々と斬り伏せ、レイズは間髪を置かずに床を蹴る。

 一気にその間合いへと踏み込んで、ジェーナイトの目の前へと差し迫った。


「図に乗るなッ」


 ジェーナイトは自身の拳を真下へと向けた。その業火は床を砕き、破片が辺りに散開する。

 目眩しを兼ねた石の障壁。そのことごとくが、目の前で真っ二つに切り裂かれる。その光景を目の当たりにして、ジェーナイトは再び火焔を放とうと燃える拳を構え狙う。しかし。


「居ない……っ!?」


 切り裂きかれた障壁の先にレイズの姿はなかった。あったのは眩しく輝く白い光。障壁を切り裂いたのはひとりでに宙を舞うフレイだった。

 ジェーナイトは慌ててレイズの姿を探す。しかし、それではあまりにも遅過ぎた。


 ジェーナイトの真横。

 レイズは一気に距離を詰める。レイズは大きく肘を引き、そして。


「うぉらぁあああぁああっっ!!」


 豪快な右ストレートをジェーナイトの顔面へと叩き込んだ。

 大きな影が僅かに舞って、その身体は数メートル先へと吹き飛ばされる。

 ジェーナイトは片膝をつき、なんとかその場に踏み止まった。

 レイズはゆっくりとジェーナイトへと歩み寄る。そして、片膝をついた彼を静かに見据えた。


「ローゼル……ッ」


 ジェーナイトは殺気に満ちた視線をレイズへと向ける。

 その目は血走り、ギラギラと輝いて相手を睨む。右ストレートを喰らった顔面は青紫に腫れ上がり、口からは僅かに血が流れていた。

 そんな視線を諸共せず、レイズは片腕をゆっくりと上げ、天へと翳す。その手にまるで吸い込まれるようにしてフレイはレイズの手の中へと戻った。


「まだだ、まだ終わってはいないっ」


 ジェーナイトは床を蹴り、赤く燃え立つその腕をフレイへと向かって必死に伸ばす。レイズはフレイをその手に構え、そして。その業火を貫いた。


「あんたも良い加減、目を覚ませ。フレイはもうあんたの物じゃない。この剣は俺の、フレイは俺の物だ」


 鮮血を撒いて崩れ行くジェーナイトに対し、レイズは静かにそう告げたのだった。


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