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2階からシャンデリア作戦

『何があるか分からないから。護身用に持って行って』


 そう言ってラックは銃を1つ私に手渡した。ラックから借りた銃を手に私は張り出したバルコニーへと身を潜める。

 下では相変わらず戦闘が続いていた。金属音が弾け、熱風が巻き上がる度、熱い炎が噴き上がって来る。


 私は見よう見真似で銃を構えた。簡単なレクチャーを受けたとはいえ、ぶっつけ本番。果たして本当に一発で命中させる事が出来るのだろうか。

 不安を抱きつつも、反対側に身を潜めるアレンからの合図を待つ。タイミングはレイズがジェーナイトから離れた瞬間だ。

 ドコドコと心臓が鳴る。震えそうになる腕を叱咤して私はその瞬間を待った。

 緊張の瞬間。レイズが熱風に押し返され、ジェーナイトから離れた。


 (今だっ!)


 すかさずアレンが合図を出す。それに合わせて私は引き金を引いた。

 発砲音が辺りに鳴り響く。それと同時に鋭い衝撃が一瞬にして走り、銃を構えた腕がピリピリと痺れた。発砲した瞬間、思わず目を閉じてしまった。

 放たれた銃弾は――ガキンッと金属音が響き、シャンデリアがグラリと揺れる。


 (やった!命中した!)


 放たれた銃弾は幸運にも的を射た。外れたシャンデリアが大きく傾き、ジェーナイト目掛けて落下していく。ジェーナイトまであと数メートル。

 命中した!そう思われた。

 だが、そんな事などお見通しだと言わんばかりの余裕のある動作でジェーナイトは振り返る。そして自身目掛けて落下するシャンデリアをジェーナイトはフレイの一振りで焼き払った。


「そんな……」


 愕然とその光景を見詰めた。しかし、悠長に構えてはいられなかった。

 振り払ったそのまま、ジェーナイトは反対側に立つアレン目掛けて火焔を放つ。ゴォオオオッと凄まじい音を立て炎の渦がアレンを襲った。


「アレン船長っ!!」


 私は思わず身を乗り出すようにして叫んだ。だが、人の心配をしている場合などではない。

 くるりと向きを変えたジェーナイト。ジェーナイトは続けざま、こちらへと向かって火焔を放った。

 迫り来る炎の斬撃に慌てて逃げ出そうとするが、その勢いは凄まじく。

 踏み出した足下の床は砕かれ、身体は宙へと投げ出される。斬撃の衝撃波によって勢い良く吹き飛ばされた。ドサッという鈍い衝撃と共に私は床へと叩きつけられた。

 そして――落ちた場所が最悪だった。

 私はジェーナイトの真ん前。ジェーナイトの真っ正面へと落ちてしまったのだった。



***



 床へと叩きつけられた全身が痛み、息が詰まる。それでもなんとか上体を起した。すぐ目の前には冷ややかに嘲笑う帝国軍大佐ジャック・ジェーナイトの姿。


(逃げないと……っ)


 全神経が警鐘を鳴らす。けれども、早く立って逃げなければという意思に反して、足は完全に萎え、立ち上がる事すらままならない。


「小賢しい真似を」


 立ち上がろうともがく私に対しジェーナイトは冷たく言い放った。


「どこ見てんだっクソ野郎がっ!!」


 そんなジェーナイトの背後から剣を構えたレイズが突っ込んで行った。

 しかし。その剣撃もジェーナイトには届かず。

 レイズはフレイによって薙ぎ払われすぐ傍の壁へと叩きつけられた。


「レイズさんっ」


 私は痛む身体を引きずりながら無我夢中でレイズの元へと駆け寄った。


「レイズさんっ!」


 レイズの身体を支えて上体を起こす。

 服はボロボロ、身体は血だらけで傷だらけ。全身に火傷を負い、斬りつけられた傷口からの出血が酷い。だが、そんな状態のレイズに対しても追撃の手は止む事はない。


「これが英雄の息子の力か。期待外れだ。全く失望させてくれる」

 

 ジェーナイトは冷ややかな視線をレイズと、そして私へと向ける。

 なんども打ち付けられ斬りつけられた身体が痛むのか立ち上がれないレイズ。


「何してんだ、逃げ……ろ……」


 息も絶え絶えに私に告げる。


「そんな……そんな事……っ」


 このまま瀕死のレイズを置いて1人で逃げる。そんな事など到底出来なかった。

 キラリと光る銀色が視界の隅に映る。すぐ傍に落ちているそれが目に入った。ラックが護身用にと持たせてくれた拳銃。私はそれを掴み取り、そしてその銃口を――目の前に立つジェーナイトへと向けた。


「勇敢なお嬢さんだ」


 私を見てジェーナイトは冷たく笑う。

 身体は震えていた。銃を人に向ける恐怖なのか、それとも目の前に立つジェーナイトに対して恐怖してなのか。恐らくその両方だった。


 撃たなければ。ジェーナイトを。

 引き金を引かなければ。


 けれども、私の身体は硬直して動かない。

 相手は軍人。そんな私の心などまるで見透かしているかのようにジェーナイトはわざと剣を下ろし両腕を広げてみせる。「撃てるものなら撃ってみろ」と。


「何してる……っ早く逃げろっ」


 銃を構えたまま硬直する私の背後からレイズが叫ぶ。


「出来ませんっ!」

「お前まで死ぬつもりかっ!?俺を置いてさっさと逃げろっ!!」

「嫌ですっ!」


 そんな事、絶対に出来ない。


「フン、興醒めだな。そろそろ終わりにするとしよう」


 ジェーナイトは手にしたフレイを天高く翳す。

 炎を纏う刀身が赤々と揺れ、轟々と猛々しく業火が燃える。

 ジェーナイトはフレイを振り下ろした。凄まじい音を立て炎が津波のように押し寄せて来る。


 この状況。一体どうすればいい?私に一体何が出来る? 

 手に持った銃を固く握り締める。引き金を引くか?しかし、迫り来る炎に対し銃弾はとても有効だとは思えない。引き金を引いたところで今更遅過ぎる。

 もう何も出来る事はないのか。私に出来る事は何もないのか。

 背後からレイズが叫ぶ声が響く。

 レイズを助けたい。このまま終わらせたくなんてない。終わりたくなんてない。

何か、何か何か何か。なんでもいい。なんでもいいから。お願い、どうか。

 このままここで、終わりたくなんてないんだ――


 

***



 瞬間、白い光が視界いっぱいに広がった。

 ゴォオオッという熱風が数メートル先で止まったのが分かる。徐々に戻って来た視界に捉えたのは、見覚えのあるそれ。突然瞬いた光の中から現れたのは、いつぞやの地下古城にてゴーレムと戦った時に現れた物と同じ。白い光の魔法陣だった。突然出現した魔法陣は、目の前へと迫った炎の波をまるで壁のようにせき止め、盾のようにしてそれを防ぐ。

 私は慌ててスカートのポケットの中へと手を突っ込み、アレンから預かっていたホープ・ブルーの宝石を取り出す。取り出されたホープ・ブルーは目の前の魔法陣と同じ白い光を内に宿していた。


「ホープ・ブルーが白い盾を出した……」


 (あの時と同じだ)


 私は以前にもあった似たような状況を思い出す。

 炎の勢いが弱まると共に突然出現した魔法陣の光も徐々に薄くなっていく。やがて、まるで私とレイズを助けるかのように現れた白い魔法陣は静かに消失した。


「小癪な真似を!」


 白い魔法陣が消失した途端、ジェーナイトは再び火焔を放たった。

 無防備となった私とレイズを再び第二波が襲う。


 ジェーナイトの攻撃が迫る中、私は必死に頭を働かせ、今の状況を整理する。

 突然、目の前に現れた白い魔法陣のようなもの。それはベット半島でのゴーレムとの戦闘の際、現れた物と同じように思えた。

あの時は必死過ぎてよくは分からなかったが、今なら少しだけ分かる気がする。今のはきっと『魔法』だ。ホープ・ブルーが魔法を発現させたのだ。

 

私は咄嗟に手にしたホープ・ブルーを自身の前へと翳す。

今のこの状況はあの時とよく似ている。 

ならばきっと、今度も――私は目一杯大きく息を吸い込む。


「盾ぇえええええ!!!!」


 そして、力の限りそれを叫んだ。

 その声に応えるかのように再び白い魔法陣が出現し、轟々と燃える第二波を防ぐ。


「や、やった……」


 私はもう一度、あの白い魔法陣を出現させる事に成功した。


「小娘ごときがっ消え失せろっ!!」


 だがしかし、単調な攻撃を繰り返すゴーレムとは違う。事は以前のようには運ばなかった。

 ジェーナイトは先程よりも大きくフレイを振り払った。フレイから放たれた炎の波は先程よりもやや低め。轟音を立て地面を砕き凄まじい勢いで迫ってくる。

 地面。つまり足元。

 半ば宙に浮かぶ盾では防ぎきれない。

 目の前の地面が渦巻く炎によって砕かれた。


(ダメだ……)


 熱い炎の波に晒され、頭が真っ白になりかけた。

 その瞬間、何かが私の身体を勢い良く引き寄せた。


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