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▼燃え落ちる夜

 暗い室内に不気味な足音が響く。

 その者が一体何者なのか、一際暗いこの位置からでは確かめる事が出来なかった。心臓がドクドクと脈を打ち、その音が耳にまで聞こえる気がする。身体は恐怖に震えていた。暖炉の中へと身を隠したレイズはその影に見つからないように必死に息を殺していた。


 その影はまるで何かを探しているかのように室内を巡り荒らしていく。

 先程、一階から大きな物音がした。続いて父親の激昂した声が響く。

 また大きな物音がして、そして急に静かになった。

 一階で何かがあった。そして恐らくは父の身にも……それだけはまだ幼いレイズにも分かっていた。

 静まり返った室内に響く足音はゆっくりとレイズが身を隠した暖炉の方へと近づいて来る。


「………っ」


 レイズは震える手で咄嗟に抱えた父の剣、フレイの堅い柄を握った。

 得体の知れない何者かから自身の身を守る為。グッと腕に力を込め、レイズは剣を引き抜こうとした。

 しかし、何度力を込めてみても剣は一向にその鞘からは抜けはしない。焦りが更に恐怖を煽り、心拍数を跳ね上げていく。

 勇敢にも剣を抜こうと試みたレイズだったが、最後は縋るようにしてフレイを抱き、ただひたすらに神に祈った。その祈りが通じたのか、不気味なその影はレイズの隠れた暖炉を通り過ぎ、室内から出て行った。

 徐々に足音が遠退いていく。やがて、完全に気配が消えたのを感じて、レイズは身を隠した暖炉の中から飛び出した。


 階段を降り切ったその先で、幼いレイズは目を見張った。

 目に飛び込んで来たのは部屋を染める鮮明な紅。床を流れる夥しい血。

 その血の海にレイズの父と母、ロイ・ローゼルとミラー・ローゼルが倒れていた。


「父さん、母さんっ」


 レイズは腕に抱えていた剣を投げ捨て2人の元へと駆け寄る。


「父さん!父さん!目を開けて!」


 震える手で縋るようにしてロイの身体を必死に揺すった。


「レイズ……」


 その声にまだ僅かに意識のあったロイは微かに目を開ける。

 それと同時、ゴウッという音を立てて室内が炎に包まれた。どうやら先程の者が家に火を放ったようだった。その炎は床を焼き壁を焼いて、火はどんどんと燃え広がっていく。


「ここから逃げろ……」


 ロイは最後の力を振り絞りレイズにそう告げた。


「嫌だっ父さんと一緒にここにいるっ」

「……バカ言うな。男だろ?泣くんじゃない」


 そう言ってロイは涙を流すレイズに対し僅かに残った力を使い笑いかける。そして、自身の隣で血の海へと倒れた妻、ミラーへとゆっくりとその視線を向けた。


「ミラー……ごめんな……絶対に家族を守るって約束したのにな……」


 消え入りそうな声でロイはミラーに声を掛ける。けれどもミラーからは反応は返っては来なかった。

 ロイは再びその視線を涙を流す我が子へと向ける。そして、溢れる涙を拭うレイズの頭を優しく撫でた。

 伏せていた顔を上げたレイズ。それを見たロイは視線でレイズが先程投げ捨てた剣、フレイを示した。


「その剣、お前にやるよ……自分にとって大事な物を守るんだ……」


 言ったロイの頬を一筋の涙が伝う。


「レイズ、お前は俺の大事な家族で……お前は俺の――」


 ロイは笑った。

 最後の力を振り絞って。涙を流しながら我が子に、最後に一言そう言った。

 そしてそのままゆっくりとその目を閉じたのだった。


「父さんっ……父さん…っ!!」


 呼び掛けたレイズにロイはもう応える事はなかった。

 火の勢いは凄まじく、燃える壁が音を立てて崩れていく。

 レイズは投げ捨てた剣を拾い、溢れる涙を拭いながら燃え落ちる家からフレイを抱いて逃げ出した。


 翌朝――

 レイズは家から離れた森の中で両親の友人であるテル・ナインによって発見、保護される。テルの通報を聞いて軍に所属していた父の戦友ジャック・ジェーナイトが駆け付けた。

 テルに身体を支えられ、フレイを手にしたまま泣きじゃくるレイズ。ジャックはそんなレイズを見て辛そうに目を伏せ、そしてそっと彼の肩に手を置いた。


 もしもあの時、自分に剣が抜けていたのならば、もしかしたら両親はまだ生きていたかもしれない。

 もしもあの時、自分にフレイが抜けていたのならば……――



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