表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/127

幼馴染

「悪いなフォクセル。俺の聞き間違いか?この鎧の中が空洞だって言ったのか?」


 聞き返したアレンに対しフォクセルは鎧を睨んだまま頷く。


「おいおい、冗談だろ……?」


 そう言ってアレンは今度はラックの方へと視線を向ける。


「そうあってほしいけど、たぶん当たりだよ」

「そんなまさか……」


 だが、ラックからもまたフォクセルと同様の返答が返って来た。


「……おいおい、マジかよ」


 アレンは声を引攣らせ、鎧の軍勢をまじまじと見詰める。


「一体なんなんだ、こいつらは……」


 周囲を取り囲んだ鎧の騎士の軍勢。

 フォクセルとラックは言った。鎧の中が空洞だと。

 そんな事など有り得ない。だったら一体、どうやってこの鎧の騎士達は動いているというのか。


 鎧の騎士は剣を振り上げ何度となくラックとフォクセルに斬り掛かる。

 確かに言われてみれば、この鎧の騎士達はどこかおかしい。鎧越しとは言え、ラックとフォクセルの鋭い攻撃にも全くダメージを受けているようには見えない。それどころか何度倒してもしきりに起き上がり向かって来る。

 これではいくら倒してもキリがない。このままではいくらラックやフォクセルが強くともいつか体力が尽きてやられてしまう。

 鋭い金属音が鳴り響く中、不気味な鎧の軍団に四方からじわじわと追い詰められていく。どうしよう……これは本当にまずい。


「頭を狙って!」


 刹那。凛とした声が辺りに響いた。

 その瞬間、後方にいた鎧の騎士の首が一つへ宙へと飛んだ。続いて、鎧の中から勢い良く炎が噴き上がる。その炎はまるで鎧の中に閉じ込められてでもいたかのように轟々と空へ向かい立ち昇った。噴き出した炎は瞬く間に鎧の全身を侵食する。鎧の騎士は炎に包まれた。轟々と燃え盛る炎に焼かれ、鎧はドロドロと溶けていく。やがて鎧の騎士は跡形も無く焼失した。


 一体何が起こったのか。

 声のした方へと視線を向ける。そこには長いローブを頭からすっぽりと被った人物が剣を手に立っていた。


「首の辺りを狙って!そこがこいつらの弱点よ!」


 謎の人物は叫んだ。

 それを聞いてラックとフォクセルは一点に鎧の騎士の首元を狙う。

 その人物が一体何者なのか、素性は分からない。だが、声からするに恐らく女性だろうと思われた。

 顔を隠したその女性。細身だが身のこなしは素早く、その動きは洗練されているように感じられる。その人物の振るった剣が再び鎧の騎士の首元を捉えた。月光を弾く銀色は騎士の首を跳ね上げる。またしても、鎧の中から天へと向かい真っ赤な炎が噴き上がった。

 彼女の言う通り、騎士は首元が弱点のようで。先程と同様に、鎧がまた一つ炎に巻かれて焼失した。ラックとフォクセルもまた彼女と同様に展開した鎧の軍勢の首元を狙い薙ぎ倒していく。

 劣勢と思われていた戦況。しかし、彼女の登場により戦局は一変する。

 ラックとフォクセル、そして謎の人物の奮闘により何とか全ての鎧を撃退する事に成功した。


「助かった……」


 全ての鎧が炎に巻かれて焼失した。

 アレンと共にラック達が奮闘する様をただただ怯えながら傍観していた私はほっと安堵の息を吐く。さっきまでの戦闘が嘘のように辺りはしんと静まり返った。

 突然現れた謎の人物。その人物は手にした剣を鞘へと収めた。


「誰かそこにいるのか!」


 すると、すぐ近くから声が響いた。続いてバタバタと複数の足音が近付いて来る。こちらに向かって誰かが駆けて来るようだ。


「憲兵が来たみたいね」


 そう言って彼女は近付いて来る足音とは別の方向へと走り出す。


「こっちよ!捕まりたくなかったら一緒に来て!」


 完全に被害者はこちらとはいえ、憲兵に見付かっては厄介だ。

 彼女が何者なのか、素性は知れないが選択肢はない。突然現れた彼女についてアレン一行はその場を離れた。



 ***



 憲兵から逃れる様にしてその場を離れたアレン一行は、突然現れた謎の人物について、王都から離れた街外れにある一軒の建物の前へとやって来ていた。

 謎の人物を先頭にして建物の中へと足を踏み入れる。中は暗く寂れている。どうやらそこは空き家のようだった。


「ここならとりあえずは安全よ」


 彼女の持ったランプに明かりが付けられた。それにより部屋の中に僅かな明るさが灯る。


「どこの誰かは知らんが、助かったよお嬢さん」


 鎧の騎士を追って走り、次は憲兵から逃げて走り。

 真夜中だというのに走ってばかりで、その空き家へと辿り着いた時には私はヘトヘトに疲れ切っていた。

 その一方でアレンは突然加勢してくれ謎の人物にお礼を述べる。そんなアレンに対し彼女はゆっくりと振り返った。


「まさかとは思ったけど、本当に貴方なのね……」


 彼女は困惑気味にそう言うと、頭からすっぽりと被っていたローブを外した。

 その下から現れたのは流れるような橙色の髪。翡翠色の瞳。紺青色の軍服に身を包んだ可憐な女性だった。


「どうして貴方がここに?」


 アレンを見た彼女は酷く動揺している様子だった。どうやら彼女はアレンの事を知っているらしい。翡翠色の瞳が困惑に揺れている。


「失礼だが、お嬢さん。誰だったかな?」

「私は帝国軍人よ」

「生憎、俺には帝国の軍人に知り合いはいないんでね」

「“炎の属性を持つランク・ナインの妹”と言えば分かるかしら?」

「炎の属性?」


 だが、彼女がアレンの事を知る一方で、アレンは彼女が誰なのか分からない様子だった。しかし、彼女のその言葉を聞いてどうやら察しがついたようで。アレンは真っ直ぐに彼女を見詰める。彼女もまたアレンを見詰め、身を乗り出すようにして問い掛けた。


「ローゼルは?レイズ・ローゼルは一緒じゃないの?」

「あいつは一緒じゃない。この国に着いた途端、どこかへ行っちまったよ」

「そう……なの」


 アレンの言葉を聞いた彼女は目を伏せた。そして、ぽつりと呟く。


「やっぱりレイズはこの国に来てるのね……」


 突然、現れ鎧の軍勢から助けてくれた彼女。どうやら彼女はレイズの事も知っている様子だ。


「レイズさんのお知り合いなんですか?」

「ええ、そうよ」


 私の問いに彼女は頷いた。


「私の名前はリリ・ナイン。レイズ・ローゼルの元同僚で彼の幼馴染なの」



 ***



 リリ・ナイン。

 帝国軍に所属する軍人でありレイズの元同僚。レイズの幼馴染だと彼女は名乗った。


 そう言えば、昼間、アレンはここはレイズの生まれ故郷だと言っていた。

 そして、彼女、リリはレイズの元同僚だと言う。

 元同僚という事は、レイズも以前は帝国軍人だったという事だろうか?そんなレイズの幼馴染が何故こんな真夜中にあんな場所に現れたというのか。

 私の疑問をよそにラックがリリに問いかける。


「さっきのは鎧は一体何?」

「分からない」

「分からない?」


 聞き返したラックに彼女は頷いた。


「あの鎧の騎士が初めて目撃されたのは2年前。その後、度々王都周辺で目撃されるも、通報を聞いて駆け付けたその時には既に跡形も無く消えている。実害はなく、住民からの目撃情報は時折あっても誰かを襲ったなんて事は初めてなのよ」


 ラックに続いて今度は私が質問をしてみる。


「リリさんはどうしてあの鎧の騎士の倒し方を知っていたんですか?」

「前に一度、西の街外れにある古い廃屋に不審者が住み着いていると通報を受けて向かった際、そこであの鎧の騎士に遭遇したの。その時に奴と戦ったのよ。鎧の中が空洞なのは反響で分かったわ」


 「不気味だったわ」と彼女は話を続ける。


「奴は何度倒しても起き上がって来た。かなり苦労したけど、それでもなんとか倒す事が出来たわ。そしたらさっきと同じで鎧の中から炎が噴き上がったの。そのままその鎧は炎に包まれて跡形も無く消えてしまった」

「どうしてそんな奴等が俺達を襲ったりしたんだろう?」

「さあね。理由は分からないわ」

 

 リリの話を聞いてラックは腕組みをした。しかし、それには彼女も首を横に振った。続いてリリはアレンの方を見る。


「けど、貴方がここに居るって事は――」

「3年前の続き、か」


 アレンのその言葉にはリリはカッと目を見開いた。


「バカな事言わないで!そんな事、ある訳ないじゃない!」

「けど、レイズはそうは思ってないかもしれない」


 彼女はぐっと押し黙った。その瞳は何かに耐えるように揺れていた。


「3年前に一体何があったんですか?」


 私はにリリに尋ねた。

 確か飲食店の店員の話では、3年前に国王が亡くなったと言っていたと思ったが。


「……」


 その問いにリリは唇を噛み締め深く俯く。

 ややあって彼女は重い口を開いた。


「3年前レイズは・ローゼルは前国王を殺害し、その秘宝たる炎の剣を盗み去った」



 ***



「レイズさんが国王を殺した……?」


 その言葉に私は思わず聞き返した。

 リリは深く項垂れた。

 重い沈黙が辺りを包む。

 確かに海賊という職業柄上、盗みもすれば壊しもする。最悪人を殺めたりする事も、もしかしたらあるのかもしれない。

 だが、たとえそうだとしても、あのレイズが国王を殺して盗みを働くだなんて……リリの話がとても信じられなかった。


「なるほどな」


 重い沈黙をアレンが破った。


「やっぱり国はレイズの存在を認めなかったか。まあ、それはそうか。もし“あのこと”が明るみに出れば無用な混乱を招く事になるしな」

「………」

「そしてアンタは真実を知りながらも国の為、レイズ1人を犠牲にしたって訳か」

「違うっ私はっ……」


 アレンの言葉に反論しかけてリリはそれをやめた。


「仕方ないじゃない……私には他にどうする事も出来なかったのよ……」


 そう言ってリリは辛そうな表情のまま深く目を伏せた。

 再び重たい沈黙が流れる。灯されたランプの明かりだけがゆらゆらと寂しく揺れていた。


「外の様子を見て来るわ」


 その後、リリはそう言い残し一人空き家の外へと出て行ってしまった。

 残されたのは私とラックとフォクセル。そして何かを知っている様子のアレンの四人。


「リリさんの話……レイズさんが国王を殺してその秘宝たる炎の剣を盗んだって……本当なんですか?」

「ああ、本当だよ」


 リリの話が信じられず、私はアレンに問い掛けた。

 それに対しアレンは頷く。


「けど、それは結果論であって真実とは少し違う。どうやらこの国ではレイズは国王殺して剣を盗んだ大罪人って事になってるらしいが。だが、真実はそうじゃない――」


「あいつは国を救った英雄だよ」


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

次回からは、レイズ・ローゼルの過去編となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ