ラスボス降臨
松明の灯る長く伸びる白い橋の上。
最初の試練は、重厚なリズムを奏でて降り落ちる巨大なブロック。
続く試練は、道を遮り揺れる鈍光を放つ巨大な刃。
そして、最後に待っていたのは、雨のように降り注ぐ無数の鉄の矢。
立ちはだかる3つの試練を掻い潜り、私とアレンは遂に白い橋の先、探していた杖の元へとようやく辿り着いた。
目の前には、逞しい身体付きをした半裸の銅像。
その銅像が高々と掲げる銀色の蛇の装飾が施された長く美しい杖。
「アスクレピオスの杖……この目で拝める日が来るなんて……」
私にはよく分からなかったが、どうやらその杖はよほど価値のある物のようで。アレンは感極まったようにそう口にする。そして、杖へと向かい手を伸ばした。
しかしながら、この古城地下において。やこの異世界において。
常に油断は禁物である。
何故ならば、こういう宝探しゲームのようなイベントには、必ずある程のお約束が存在するからだ。
ズドーンッッ
今日1番の嫌な音と共にただならぬ気配が背後に降って来た。
一体全体何事か。物凄く振り返りたくなかったが、私は背後を振り返る。
振り返ったその先には――。
「ーーーーーーッッ!!!!!!」
天地を揺らす程の雄叫びが轟く。
天から降臨したのは、人型をした巨大な岩の塊のようなモノ。
その姿はゲームなどでお馴染みのキャラクター。敵キャラとして登場する所謂『ゴーレム』と呼ばれるそれによく似ていて。
イベントに置いての最後の関門。
予想を裏切らないお約束。
宝を守るラスボスが出現した。
***
「「うわぁああぁっっ!!!!????」」
その巨大な姿を前にして私とアレンは思わず絶叫する。
その悲鳴を押し潰すかのようにゴーレムの重い一撃が炸裂した。
私とアレンは咄嗟に左右へと別れ、繰り出された一撃をギリギリの所でなんとか交わす。
「なななな、何なんですか!?あれは!!?」
「ゴーレムだ!恐らくあの杖を守ってるんだ!」
問い掛けた私に対し、アレンは早口にそう答える。
どうやら見た目通り予想通り。
降臨したその巨大な塊は予想通り『ゴーレム』で正解のようである。
しかし、そんなものに正解した所で嬉しくなんて微塵もない。
「うわぁああぁっ!!」
悲鳴を上げながら私はおろおろと逃げ道を探す。
だが、探していた杖があった以上、恐らくはここが古城の終点。この先に道らしき物はない。
そして、何よりも一番最悪なのは。
私は丸腰。アレンは一応、剣と銃とを所持してはいるようだが、もはやあれは飾りと言っていい。ほとんど活用している所を見た事がない。
つまり、逃走は不可。
戦おうにも術が無い。
詰んだ……。そう思われた。
けれども、不幸中の幸いというやつか。
どういう訳か、降臨したゴーレムは逃げ惑う私を無視し、アレンにばかり執拗に向かっていく。
それはアレンがまさしく呪われているという証拠なのか。
はたまたアレンの持つコソ泥臭を嗅ぎ分けての事なのか。
というか、このゴーレムに鼻なんてあるのか。そもそも口自体無いのに一体どこからあんな雄叫びを発しているのか。疑問府は絶えず、そんな事は定かではないがしかし、今は真面目にそんな事を考えいる場合ではない。
「うわぁああぁっ!!ハルぅうー!!!!」
アレンは迫り来るゴーレムから逃げながら、悲鳴の合間に私の名前を連呼した。
何度となく繰り出される豪快な拳をアレンはなんとかかんとか交わし続ける。
しかし、それを避け続けているうちについに崖の淵まで追い詰められてしまった。
「な……っ!?」
背後は切り立った崖。もう一歩も退がれない。
「ーーーーーーッッ!!!!」
地鳴りのような雄叫びを上げて、ゴーレムが巨大な拳を大きく振り上げた。
避ける事はほぼ不可能。仮にアレンが所持している武器を使ったとしても、あの重い一撃は恐らく防ぎ切れない。
(このままではアレンが……っ)
目の前。崖っ淵に追い詰められたアレンへと向かい、ゴーレムの巨大な拳が今まさに振り下ろされようとしている。あの距離。さすがのアレンと言えども、どうあっても直撃は免がれない。
とはいえ、闘う術を持たない私に一体何が出来る?
もはや私に出来る事なんて何もない。
そう思い掛け、絶望的な気持ちが湧き上がって来る。
『君は俺を死の運命から守り、無事にホープ・ブルーが示したその場所へと連れていく。その代わりに俺は君の身分を保証し、これまで通りの船での生活を約束しよう』
先程のアレンとの取り引きが頭をちらつく。私は半ばやけくそにゴーレムに向かい大きく両の手を振り上げた。
「おーい!こっちこっち!こっちぃい!!」
ゴーレムに向かい必死になって両手を振る。
「こっちったっらこっち!こっちを向けぇえ!!」
一体何をやっているんだ私は。
こっちこっち!……って、こちらに引き付けてそれから一体どうするんだ。
「このっ……こっちだって言ってるでしょーが!!!!!!」
私は足元に落ちていた小石を拾い、それをゴーレムに向かい投げ付けた。コツンとゴーレムの頭に投げた小石が直撃する。ゴーレムの視線がアレンから僅かにだがこちらへと向いた。
「こっちだったらこっち!こっちだよぉお!!」
ようやく私の存在に気付いたかのようにゴーレムはこちらへと向かい、僅かに視線を寄越した。その隙にアレンはゴーレムの足元を潜り、なんとかその場から退避を試みる。しかし、アレンが逃げようとしたその瞬間、ゴーレムの鋭い一つ目がそれを逃しはしなかった。その巨体は再びアレンの方へと向きを正す。ゴーレムは更に高く巨大な拳を振り上げた。
「うわああああああ!!!!ハルぅうううう!!!!!!!!」
あの拳が振り下ろされたらもはや一貫の終わりだ。
一体どうする?どうすればいい?私に一体何が出来る?
戦う術などない。かといって守りに徹する術も持たない。自分の身一つまともに守る事すら出来ない私に今の状況で一体何が出来る?
この状況下、もう打開する手は何も無いのか。
本当にここで終わってしまうのか。
何か、何かないのか?
なんでもいい。
せめてあの拳を防ぐもの、なんでもいいから防ぐもの。
せめて何か盾のようなものさえあれば――
***
一瞬何が起こったのか分からなかった。
突然、目の前が眩い光に包まれた。
その光は徐々に消え、視界が次第に戻って来る。
「え………っ?」
私はただただ唖然とした。アレンの目の前に突然それは現れた。
アレンの目の前に出現したのは白く輝く魔法陣。
突然現れたそれはまるで盾のように振り下ろされたゴーレムの拳を受け止めた。
「白い、魔方陣……?」
突然目の前に現われたそれは淡く白い光を放ってゆっくりと回る。そこには、見た事もない文字と記号が複雑に刻み込まれていた。
一体どうしてこんな物が……。
というか一体、何処からこんな物が……。
私は辺りに視線を配り、そのでどころを探す。
そして、スカートのポケットの中に同じような白い光を見つけた。私はポケット中へと手を入れ、そしてその光を取り出す。
取り出された光の正体。それは、ホープ・ブルーの宝石だった。




