“はじまり”って何処からが“はじまり”なんだろうね 4
「治験者を募っていることは、この前も話したよね。このイス――椅子って呼んでるんだけど――に座ると、その人が潜在的に心の内に閉じ込めてしまっている闇を夢として具現化することが出来る。詳しいメカニズムについては、企業秘密だから言えない。でも、そこは気にしないでね。それで、その闇と向き合うことで泣けなかった人が泣けるようになったり、心のもやもやが解消されたり……。まぁ、要するに現実と向き合えるようになって、結果的に精神的な救済に繋げようっていう実験かな?」
そして、その過程で辿り着いた、共感力の高い人間ならば、他人の夢に入り込める、という説。それを立証するために俺が呼ばれた。
「他人の夢に入ったとして、俺は何をすればいいんだ?」
「別に漫画やアニメみたいな派手に動き回るヒーローになる必要はない。その夢の中での主人公は、あくまでもその夢を見ている人だからね。その人自身で気付いて、受け入れて、進む必要がある。一にはそのサポートをしてほしいんだ。具体的なマニュアルはないから、一自身で考えて、その人が気付けるように、進めるように上手くやってくれ」
「いやいや、簡単に言うけどな」
「大丈夫だよ、一なら」
「適当に言うなよ」
「時には、適当さだって必要だよ」
これさえ分かっていれば大丈夫だから、と渡された紙には夢治療を行うにあたっての注意事項が記してあった。
はじめる前に――
この注意事項を必ずお読みください。
注意事項は以下の三つです。
◇◆◇
一、これはあなたを苦しめるものではありません。
二、あなたにとって大切なものを肌身離さずお持ちください。ただし、持ち込みができるのは一人につき一点のみです。
三、必ずお戻りください。
◇◆◇
上記を守り、快適な旅をお過ごしください。
……Have a nice dream
「さぁ、手始めに俺の夢に入ってみてよ」
俺はユキに促されるまま椅子に座り、そして目を閉じた。




