言えなかった、言いたかった 8
ハルの笑顔に憧れていた。ハルの笑顔が好きだった。でも、突然その大好きな笑顔が奪われた。犯人を責めて、自分を責めて何度も何度も後悔した。
それにしても――、とチラリとユキを見る。
「お前って顔だけはいいのにな」
「“だけは”は余計じゃないかな」
「いやいや。口悪いし、性格に難有りまくりだろーが」
「そんなことないよ」
「そんなことあるだろ。謎の拘こだわり多いし、理屈っぽいし……、変人だし」
「一に言われたくないんだけど」
「俺も自分で捻くれてないとは言わないけど、お前よりはマシだろ。……もう研究手伝わないぞ」
口でこいつに勝てるなんて思ってないけど、言われっぱなしも癪だから、少しばかりの抵抗を試みる。
「何言ってるんだよ。この研究に協力することは一のお仕事にとってもいいことばっかりなはずだけど? データ集めには持って来いの場所でしょ。関係性としてはウィンウィンなはずだよね」
頬杖をつきながら余裕そうな表情で俺を見るユキ。
……そーだよ。そーなんだよ。こいつの言う通り、ここは俺の求めている情報の宝庫でデータ収集には持って来いなんだよ。
あー、くそっ腹立つなー。
顔が整ってる分、余計に腹立つな。
本当にハルと双子かよ。
あの可愛い可愛いハルの兄貴かよ。
「これからも協力してくれるってことでいいんだよね?」
素直に頷くのは嫌だったので「コーヒーおかわり」と言ってビーカーを奴の目の前に突き出した。
ユキはそれさえも予想していたのか、「りょーかーい」とにっこり笑って立ち上がる。
そしてまた、戻って来るとコトリとそれを俺の前に置いた。
「一はさ……」
そして唐突に話し出す。
「俺とハルのことが分からなくなっちゃうくらい、ハルのことを思ってくれていたんだよね? くっそまじめに一途にハルのことだけを思ってたんだよね? そのくっそまじめなところ、全然変わってないし、くっそまじめに夢に囚われちゃうし。あれから何年経ってると思ってんだよ。どんだけ、ハルのこと好きなんだよ。本当、お前は気に食わない奴だ」
「はいはい。お前が俺のこと嫌いなのは分かってますよ」
初めて会った時から何度も言われてるんでね。そして、お前が言った言葉、そのままお前にブーメラン。あれから何年経ってると思ってんだよ。どんだけ、ハルのこと好きなんだよバカ兄貴。
「嫌いなんて言ってないよ。気に食わないって言ったんだ」
「一緒だろ?」
「嫌いと気に食わないは似て非なるものだよ」
なんか、デジャブだ。何だっけ? 前にもこんな会話したことあったな。
“俺と一緒にいていいのか? 彼奴は、俺のこと嫌いって言ってたけど”
“気に食わないとは言ってたけど、嫌いとは言ってなかったよ”
“同じだろ?”
“同じじゃないよ。嫌いと気に食わないじゃ全然意味が違ってくるもん。もう、はじめ君だって分かってるでしょ? 本当に二人とも素直じゃないんだから”
――ああ、ハルに言われたんだ。まぁ、俺もこいつに対して思うところは同じ。嫌いなんじゃなくて、“気に食わない奴”ってことで。
「そのままでいいから。そのままのくっそまじめで一途な気に食わない奴でいてよ、一」
“そのままの貴方でいいんだよ、はじめ君”
ユキの声がハルの声と重なった。
「もう忘れないでよね、ハルのこと」
「言われなくても」




