言えなかった、言いたかった 1
ユキに押し付けられた日記には大好きだった彼女の字が綴られていた。ベンチに座り、記憶を辿るように一字一字指でなぞっていく。すると、ある時からこの日記に俺が登場していることに気が付いた。
○月○日
いつも一人でいる子がいる。
何だか、ユキみたいだと思った。
小三の時だ。俺が見つけるずっと前から君は俺を見つけてくれていたってこと?
○月○日
いつからだろう。クラスの空気がよくない。
今の空気は好きじゃないな。
あの頃の俺は、世界に自分の味方なんていないって諦めていたんだ。
○月○日
さとうはじめ君は、一部のクラスの男子達にからかわれても、気にしてないみたい。強いな。
強くなんてない。俺はただ強がってただけなんだよ。
○月○日
ユキにさとう君のことを話したら、放っとけって言われた。でも、気になるんだもん。話してみたいな。
君の優しさにどれだけ救われていたか。あの時の俺に伝えられる勇気はなかったけど。
○月○日
先生がさとう君の名前を間違えて呼ぶ。さとう君は気にしてないみたいだけど、いいのかな。私が勝手に先生に言うのもなぁ。
君のお陰で狭い狭い俺の世界は息をつける程に広がったんだ。
○月○日
今日、初めてさとうはじめ君と話した。私から話しかけたらびっくりしていたけど、嫌な顔をしないでちゃんと話してくれた。もっと仲良くなれたらいいな。
嫌なんてとんでもない。嬉しかった。でも、素直に嬉しいなんて言えるはずもなくて……。君の笑顔に救われていた。
○月○日
空気感がユキと似てる気がする。だから、一緒にいると落ち着くのかな。
俺と彼奴は似た者同士だってよく言われた。どこがだよって気持ちしかなかったけど、君が笑うなら何でも良かった。
――そして、俺の知らない君のこと。
○月○日
何でか分からないけど、ユキのことで女の子達にやきもちを妬かれる。ユキと私は双子なだけなのに。
○月○日
ユキが女の子に人気があるのは知ってる。ユキに言ったら興味ないって言ってた。ユキは人見知りだから、話しかけられてもあんまり笑わない。私は妹だから、緊張せずに笑顔で話してくれる。それが女の子達は気に入らないのかな。
ずっと不思議に思っていた。女子達と一緒にいないこと。話し掛けてくれたあの時から彼女はずっと俺といた。それが彼女の優しさからだと思っていた俺は呑気にも程がある。違ったんだな。彼女も俺と同じだった。
○月○日
気付いてしまった。はじめ君は私のヒーローだ。
こんな俺を彼女はヒーローだと言っていた。本当に救われていたのは俺の方なのに。
○月○日
今日、ユキがはじめ君と話したらしい。気に食わない奴だって言ってたけど本当かな? ユキは素直じゃないから。
“はじめ君はユキと似てる。誤解されやすいけど、本当は強くて優しくてあったかい。興味ない振りして人間が大好きなところもそっくり。”
そう言ってくれた彼女の笑顔が今でもずっと頭から離れない。
○月○日
はじめ君もユキも女子に人気がある。二人は気付いてるんだか、いないんだか全然興味ないみたい。その事に少し安心している私がいる。女子の友達もほしいなんて贅沢なのかな。
思えば彼女は俺の前ではずっと笑顔だった。悩んでいる素振りなんて微塵も見せずに。俺みたいに分かり易いものなんかじゃなくて、陰でもっと陰湿な嫌がらせをされていたのかもしれない。
ごめん……、俺は気付いてあげられなかった……。
○月○日
“はじめ君は私のヒーローだよ”って言ったらきょとんとしていた。でも、これからも私は言い続けるよ。
俺が思い出すのはいつも笑っている君で。小学校の間も中学に上がってからもずっと、ずっと君は笑顔だった。
○月○日
私にとってはじめ君は特別な人。はじめ君にとっての私はどうなのかな。
そんなの決まってる。俺にとっても君は特別だった。誰よりも何よりも大切で……。
“修学旅行”という文字を見つけて手が止まる。
中学の修学旅行で俺は彼女に気持ちを伝えるつもりだった。だから、約束をした。夜に二人で会おうと。
○月○日
明日は修学旅行。はじめ君と二人で夜に会う約束をした。特別だよって伝えてもいいのかな。いつも二人で話してるけど、場所が変わると空気も変わるから少し緊張する。たくさん思い出を作りたいな。
そう、修学旅行の夜に会おうって俺がハルを誘った。ハルは星とかそれに纏わる話とかが好きだったから。ホテルの近くに星が見られるような場所があればと思って調べた。ホテルから少し歩いた場所に穴場があるって分かって、ネットに上げられている写真がとても綺麗だったからハルにも見せてあげたいって思ったんだ。




