泣いてないよ、泣いてない 6
◇
一、お前も俺と同じだ。あの時からずっとあの場所に囚われ続けていたんでしょ? だから、決着はあの場所じゃなきゃ駄目なんだよね。ハルとお前が待ち合わせしていた場所。そうでしょ?
「ユキ……?」
妹を探す一の声は焦燥しきっていた。縋がるような声。お前の気持ちは痛いほどよく分かるよ。俺にとってもあの子は世界で一番大切な子だったから。
一の後ろで立ち止まると俺に気付いたのか、名前を呼びながら此方を振り向く。
「ユキ……?」
妹を求めて伸ばされる手。しかし、それが俺に触れることはなかった。少しの沈黙の後、一はぼそりと呟いた。
「ユキ……じゃ、ないんだよな。君、誰なんだよ?」
ちゃんと、自分で気付いたんだね。だったら、そろそろいい加減受け入れてくれなきゃ困るよ。
俺ももう……、限界なんだって。
「ユキだよ」
声は高いままで告げてみる。
「違う、お前はユキじゃない! ユキは何処だよ!?」
頭を抱え、首を振り俺を拒絶し始める一。しかし、これまでのように送り返されることはないようだ。
「ユキだよ、一。俺がユキだ」
頭に手をやり、右手でバサッと長い髪を取り去った。そして左手の甲で口紅を拭う。目を見開いている一に向かって片方だけ口角を上げて見せる。ニヤリという効果音付きで挑発的な視線を送ってやった。俺はちゃんと笑えているだろうか。
「ハル……? 何でお前が……?」
まだ、言うのか。そこから認めてもらわないと話が進まないんだけどな。
一は信じられないという表情そのままに戸惑いを隠せないようだ。
「違うよ、俺がユキだって言ってるでしょ。お前が今までユキって呼んでた俺の妹、その子がハルだよ。思い出してよ、一。お前だって分かってるんでしょ? こんなこと続けたって意味無いって……。ハルはもう、いないんだよ」
「意味、分かんねぇ……、よ」
きっと、ここから今直ぐにでも逃げ出したい衝動に駆られているはずだ。しかし、その場に縫い付けられたように一の足は決して動くことはない。それを見て、やっぱりここが最終地点なんだと確信した。
「いつまで逃げてるつもり? そんな逃げ腰の男、俺は認めないからね」
胸元に忍ばせておいたハルの日記を取り出す。お前が現実あちらに戻る為の鍵。呆然としている一にそれ押し付けると俺はくるりと向きを変え、来た道を戻り始める。
俺が出来るのはきっとここまでだから。
向こうから此方にやって来る人影を見つけてほっと胸を撫で下ろす。
ちゃんと、来たね。
あの部屋で一人でじっとしていることなんて、やっぱり君には無理だよね。
君の性格は俺が一番よく分かってるよ。
俺はまっすぐ前だけを見て歩いていた。暗闇だけを見つめて君と目を合わせることもなく。
まぁ、あとは二人で何とかやってよ……。
すれ違う片割れにあの時言えなかった言葉を送る。そして、すれ違い様に自分の声と重なって聞こえた君の言葉を俺は一生忘れない。
「――ハル、頑張れ」
「――ユキ、ありがとう」
君が俺の名前を呼んだ。ずっと聞きたかった君の声で。
ねぇ……きっと、気のせいじゃないよね?




