泣いてないよ、泣いてない 3
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ホテルの外に駆け出す。あの時、ハルと一が待ち合わせていた場所。
修学旅行の夜、ハルは彼奴と会う約束をしたんだと俺に嬉しそうに話していた。もう、彼奴の話は聞き飽きたと話し半分で聞いていた俺だったけど、夜になって何だか嫌な予感がして。
教師達に見つからないようにこっそりとホテルを抜け出した俺が見つけたのは、道の途中で倒れている妹だった。
「ハルっ! ハルっ! ねぇ、しっかりしなよ!」
抱き起こすと手にぬるりとした感触が。目の前で起きている事を受け止めきれなくて、何度も何度もハルの名前を呼んだ。
「誰か! 誰か来てよ!」
俺の悲痛の叫び は悲しいかな、綺麗な夜空に吸い込まれていくばかりだ。ここはホテルから少し距離があるし、周りには誰もいなかった。
「ユ、キ……っ……」
意識がないと思っていた妹は、辛うじてだが意識があった。しかし、素人目に見ても危ない状態なのは分かる。
「ユ、キ…。私、死ぬの、かな……」
「死なないっ……。ハルは死なないよ! 誰か呼んで来るから待ってて。ハル、諦めるなんて俺、許さないからねっ」
ホテルに向かうため、ハルから一旦手を離そうとすると弱々しい力ながらも待って、と腕を掴まれる。
「ユキっ……。ごめ、……っ、……ね」
「謝らなくていいから、兎に角待ってて」
声が聞こえているのかいないのか、ハルの手は弱々しく離れていった。
「……はじめ君、……に、……会いたい、な」
更にぐったりとなったハルを目の前にして、発狂しそうなのを必死で耐えながら、死に物狂いでホテルへと走った。駆け込んできた俺の血塗れの姿を見た教師達は何事かと驚きながらも、直ぐに対応してくれた。
「先生っ、ハルを、ハルをお願いします!」
本当は直ぐにでも戻ってハルの側にずっといたいけど、俺にはまだやらなきゃいけないことがあるから。
「どこ行くんだ、鳴瀬!?」
再びホテルを飛び出した俺に向かって後ろで呼ぶ声が聞こえたけど、彼奴に知らせなきゃという思いで、俺は必死に彼奴のところまで走った。
“……はじめ君、……に、……会いたい、な”
――そう言っていたから。会わせてあげたかった。だけど、その願いが叶うことはなかった。最期に彼奴に会うことなく、ハルは息を引き取った。
間に合わなかった……。君の最期の願いすらも叶えてあげることが出来なかった。ごめんね、ごめんねって、“ごめん”ばっかりが増えていって、もうどうすればいいのか分からなくなって。
謝りたいのにもう君はいなくて、ハルなら大丈夫だよって背中を押してあげたいのに、何処にも君がいないから、思いだけが募るばっかりで……。
ねぇ、ハル。俺はもう君の為に何かをしてあげることは出来ないのかな……。
ずっと、ずっと思ってた。
ずっと、ずっと……。




