気に食わない男 1
やっぱり気に食わない目の前にいるこの男。しかし、天地がひっくり返ったって妹がこの男のことを好きだった事実は変わらない。俺の大切な大切な妹が生涯でたった一人愛したのがこの男だなんて。しかも、あろうことか、ハルは俺とこの男が似ていると言っていた。気に食わない訳がない。
初めて一の存在を知った時からずっと、気に食わなかったんだ。だけど、悔しいけど分かってしまったから。ハルにとって、間違いなくこの男がヒーローだったことが分かってしまったから。
――ハルはずっと苦しんでいた。
小さい頃からずっと一緒だった片割れ。両親が亡くなり、親戚達から疎ましがられても二人でならと寂しさも悲しさも全部共有してきた。幸いなことに、俺達には祖母がいた。祖母だけは俺達双子のことを優しく見守りながら惜しみ無く愛情を注いでくれていたし、俺もハルもそんな祖母に要らぬ心配をかけまいと二人でお互いの不足を補いながら、子どもながらに何とかやってきていた。そのつもりだった。
雲行きが怪しいと感じ始めたのは、小学校の三年になった辺りからだろうか。いつもは明るくて元気なハルだったが、何となく落ち込む日が増えたように思えた。何でもお互いに相談する仲だったし、その時も何かあればいつものように相談してくるだろうと思って、妹から言ってくるのをずっと待っていた。しかし、いつまで経っても直接的な原因を話してくることはなかった。話すのは関係ないことばっかりで。
「ユキは昔から女の子にモテるよね。誰か好きな子とかいないの?」
「興味ないよ」
「またまた、そんな事言って。可愛いなって思う子ぐらいいるでしょ?」
「だから、興味ないって」
「照れてるの?」
「そんなんじゃないよ」
「じゃあ、教えてよ。ユキが可愛いと思う子! ねぇ、だれー?」
「……じゃ、ハル」
「え?」
「俺はハルが一番可愛いと思うよ」
ニコッと笑って言えば、ビックリしたように目を見開く妹。からかい半分と本音が半分。
「もうー、そうやっていっつもはぐらかすんだから」
頬を膨らませて不満顔な妹に笑ってしまう。そして、いつものように笑うなと怒られた。本当にハルが一番だと思ってるんだけどな。
ハルが言ってくれないなら、自分で見つけるしかない。そう思って色々と心当たりを探ったり、周りを観察したりしていた。双子である俺達が同じクラスになることはなくて、ずっと一緒にいられたら、きっともっと早く気付いてあげられたんだろうけど――。
――いや、そうでもないのか?
原因、というか切っ掛けは俺だったみたいだから。
ハルの様子が気になって休み時間の度にこっそりとハルのクラスへ行くようになった。そして、気付く。ハルはいつも一人だった。俺とは違って、人懐っこくて寂しがり屋なあのハルがだ。
ある時、休み時間に女子数名とハルがクラスから出ていくのが見えて、俺はその後をこっそりと追った。誰もいない空き教室に入っていく。見つからないように細心の注意を払いながら中の様子を窺うと会話が聞こえた。
「ねぇ、鳴瀬さん。私達、ユキ君と仲良くなりたいの。でも、何だか素っ気なくてさ」
「笑ってくれないし、話も直ぐに終わらせられちゃうし」
彼女達の話すトーンは少しキツく感じる。しかし、妹は物怖じすることなく応えていた。
「ユキは人見知りだから」
「でも、鳴瀬さんとは楽しそうに話すでしょ」
「それは、私達は兄妹だし……」
そりゃそうだ。妹と他人に対する接し方が違うのは、当たり前のことだろう。
「うん、だからユキ君が私達と緊張せずに話せるように鳴瀬さんに仲を取り持ってほしいの」
ああ、そっちね――。
彼女達は別に、俺の妹に対する接し方と他の人への接し方が明らかに違うという事を言いたい訳ではないらしい。早とちりしてしまった。
俺の悪い癖、かな?
ハルは快く承諾するのだろう。面倒くさいけど、きっとハルの方が巻き込まれて面倒くさいだろうし、一言二言話して俺から仲良くする気はないと断ればいいや、――くらいに思っていた。




