目覚め 2
俺が一人で探すよりも皆で探した方がいいに決まっている。焦りからか足が縺つれ、転けそうになりながらも何とか目的の場所まで辿り着いた。そして、入り口付近で何かに躓いた俺は転がるように中へと入った。
「ハル、ユキが!」
叫びながら、顔を上げた俺は言葉を失った。誰もいない。ハルもアキラも、麻井先生達もさっきまでいたはずの人達がいない。俺は立ち上がり、皆の名前を呼びながら、辺りを探す。
「おい、誰かいないのか!?」
何でだ?
何で誰もいない?
皆、殺人犯に捕まったのか――?
くそっ――――。
ユキは何者かに連れ去られるし、その上ハル達もいなくなるなんて。レストランの奥、テーブルの下。それどころか、このホテル全体から人の気配が消えた気がした。
一度、冷静になろうと目を閉じて深く息をする。
冷静になれ。冷静になるんだ。
ここにいないなら、皆で何処かに移動したのかもしれない。最優先はユキだけど、何処にいるのかも分からない今、順番に探していくしかないんだ。
持っている懐中電灯を握りしめ、俺は再びホテルの中へと歩き出す。
一階のフロント、トイレ、エレベーター。そして二階、三階と順番に丁寧に調べていく。先程は焦りから、まともに調べられていなかったのかもしれない。
ユキがいなくなって、ここまで自分が追い詰められるとは正直思っていなかった。自分のことですら、どこか冷めたように見ていたくらいだ。こんなにも精神をすり減らして極限状態に追い込まれるなんて、驚きだった。
冷静になれ、冷静になれと自分に言い聞かせながらユキを探す。部屋の中に入れないかどうかも含めて客室の扉も全て確認していった。
残るはここか……。301号室と書かれたプレートを見つめる。震える自分の手に気付かない振りをして、その扉をゆっくりと開いた。
「ユキ、いないのか……?」
自分の息づかいが、やけに大きく感じる。落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせながら部屋の中を入り口から順番に調べていくが、やはり誰もいない。しかし、窓が開いていた。
皮肉にも綺麗な月が空に浮かんでいる。恐る恐る窓に近づき、顔を出してみた。空を見上げ、それから下へと目を向ける。そこには、暗闇が広がっていた。
もしかしてここから外に出たのか?
吸い込まれそうな漆黒から目をそらせない。駄目だ。一度、離れようと部屋の中に戻ろうと思ったが、無理だった。突然、視界がグニャリと歪み、目の前の景色が捉えられなくなる。
どうして、今なんだよ……。
あまりの気持ち悪さにふらついてしまい、俺の身体は窓の外へと傾いた。咄嗟に伸ばした手の隙間からは綺麗な星空が見えていた。
◇
――――っ。
無意識に息を止めていたのか、大量の酸素を肺に取り込みながら閉じていた目を開く。頭の中がぐるぐるとする感覚が抜けなくて、額に手をやり、目を閉じて、深呼吸を繰り返す。少し落ち着いてきたところで辺りに目を向けてみる。ここはホテルの外のようだ。先程までいた建物が少し向こうに見える。周りは木々に囲まれ、ベンチが一つぽつんとそこにあるだけだった。
「ユキ……?」
辺りを見回しながら呼び掛けてみるが、やはり求めている声が返ってくることはない。俺はこの場所を知っている。昔、来た覚えがある。遠くの方でパトカーなのか救急車なのかサイレンの音が聞こえる。脱力感に襲われながら、その音にぼんやり耳を傾けていると、ザッと後ろで誰かが立ち止まる音
がした。
――――ユキ!
振り返るとそこには俺が探していたはずの彼女。探していたはずなのに、何故だか俺は喜べない。彼女の姿こそしているものの、俺には良くない報せを告げに来た天界からの使者のように思えた。
目の前にいるのは、本当にユキなんだろうか……。今の俺に判断できるだけの気力は残っていなかった。縋がるように声を絞り出す。
「ユキ……?」
彼女に触れたくて手を伸ばす。しかし、俺の手は彼女に触れる前にピタリと動きを止め、そしてだらんと下へ脱力した。
「ユキ……じゃ、ないんだよな。君、誰なんだよ?」




