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祐真くん 4




 俺はいつかのあの日のことを思い出した。


 中学生になり特に何かの部活にも所属していなかった俺は、まだ明るい内に学校を出た。だからといって、真っ直ぐ家に帰るわけでもなく、いつも何処かしらをふらふらしていた。


 その日は久しぶりにゆっくり本でも読もうかと思って公園にふらりと立ち寄った。暫くの間、読書に没頭していたのだが、ふと耳に入ってきた声が気になって顔を上げた。


「私のお家にもっと沢山おもちゃがあるの。一緒に遊びましょ。お母さんも後から来てくれるから」


 車椅子に乗った女性が三歳か四歳くらいの男の子に声をかけていた。バッグの中にあるおもちゃを見せながら、この他にも家に沢山あるからと誘っているようだ。男の子はおもちゃで遊びたい気持ちはあるようだが、母親の姿が見えないことで迷いがあるのか答えを渋っている。すると、女性は子どもの目を覗き込んで言った。


「この車に乗ってみたくない? お家までこれで連れていってあげる」


 それは子どもにとっては非常に魅力的なお誘いだったらしい。好奇心には勝てなかったようで、二つ返事で承諾してしまった。俺は二人の背中が小さくなっていくのをそのまま見つめていたが、はたと気付く。


 これは俺が止めなきゃいけないやつじゃないか?


 巧みな言葉で子どもを誘っていたが、これは誘拐なんじゃないかと思えてきた俺は、本をスクールバッグに仕舞うと直ぐ様二人の後を追いかけた。


「ちょっと待って! そこの女性(ひと)!」


 直ぐに気付いて行動したのが良かった。それ程公園から離れていなかった為、簡単に追いつくことが出来た。


「な、何ですか?」と怪訝そうに俺を見る女性。明らかに動揺している。しかし、一々説明するのも面倒だったので、俺は女性を無視して車椅子に乗っている男の子に直接声をかけた。


「僕、さっき公園でお母さんが君のことを探してたよ」


 怖がらせないように前に回り込んで目線を合わせ、笑顔を作る。下手くそな笑顔でも何とか様になったようで、男の子はお母さんというフレーズに飛び付いた。


「お母さんが?」


「ああ。お兄ちゃんと一緒に公園に戻ろう」


「うん!」


 車椅子からぴょんっと降りた男の子の手を握る。


「――ってことなんで、いいですよね?」


 女性の答えは聞かず、そのまま公園に戻った。子供に危害を加える様子もなかったし、後を追いかけて来る様子もない。何より、女性の纏う雰囲気が何と言えばいいのか、痛々しかった。


 寂しい――――。苦しい――――。


 痛いよ――――。辛いよ――――。


 誰か助けて――――。

 

 俺には女性が自分の行動に自分で傷付いているように見えた。

 

この女性(ひと)は自分が間違ったことをしていると分かっている。分かってて、行動して、傷ついている。だから、きっと俺が何かを言う必要はない。これ以上、この女性(ひと)を傷付けたら駄目だ、――そう思った。


 必要以上に関わって面倒くさいことに巻き込まれるのも嫌だしな。


 口から出任せに母親が探しているからと言って連れて来てしまったが、公園に戻ると本当に男の子を探していたらしい母親と直ぐに出会した。その場で引き渡すと、喜びを最大限に表すように目の前で抱き合う親子。「女性に連れ去られそうになっていましたよ」なんて物騒なことは言わずに「お母さんを探していましたよ」とだけ言っておいた。決して嘘は言っていない。


 母親は「ありがとうございます、何かお礼を」と言ってくれたが、大したことはしていないからと断った。それでも、なかなか引き下がってくれなくてどうしたものかと苦労した記憶がある。



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