祐真くん 2
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「すみませーん。ボール取ってくださーい」
子どもの声がして顔を上げると目の前にボールが転がってきていた。ベンチから腰を上げ、ボールをふわっと投げる。
「ありがとうございまーす」
複数の子ども達からお礼を言われ、それに応えるように片手を挙げた。改めてベンチに腰を下ろし、目の前に広がる景色を見渡す。
晴れた空。
遊具や砂場で遊ぶ子ども達。
それを見守るママ集団。
公園だった。
夢に入ったのか、と瞬時に理解する。
「佐藤君? 佐藤一君……だよね?」
突然声をかけられ、そちらを見る。レストランで倒れていた内の一人。旦那の方だ。
「僕のこと、覚えてるかな? 君が小学生の頃に担任をしていたんだけれど」
「…………。あっ! 麻井、先生ですか?」
記憶の片隅にあった担任の顔が突如として浮上してきた。
「そうそう。麻井祐一です」
にっこりと笑う先生は当時の面影を残しながらも、あの頃よりも幾分か笑い皺が濃くなっていた。
「君にはあの頃悪いことをしたな、と思っていたんだよ。名前の件。周りの生徒達が呼んでいるから、てっきりそうだと思い込んで……。出欠確認の度に“さとうまじめ君”と呼んでしまうなんて。嫌な思いをさせてしまっていたよね」
「いえ。それに間違ってるって言ったら、先生それ以降はちゃんと呼んでくれたじゃないですか」
「いやぁ、本当に申し訳なかった。佐藤君と鳴瀬さんに言われるまで気付かなかったなんて、担任失格だよ」
麻井先生の人の良さそうな申し訳なさそうな笑みを見て、あの時言えて良かったと思った。ユキのお陰だ。何もかもを諦めていた俺に助言してくれた。あの時は驚いた。本当に俺の名前を“さとうまじめ”だと思っていたんだから。
“なんだろなぁ、抜けてるっていうか天然っていうか。先生に言えば? あの先生なら、ちゃんと直してくれると思うよ”
“今時、キラキラネームなんて言われるくらい色んな名前の子がいるくらいだからね。あの先生、本気で佐藤くんのこと“まじめ君”だと思ってるんだよ”
本当にその通りだった。俺は彼女と初めてまともに会話した日から、自然と先生のことを観察するようになっていた。確かにしっかりしているとは言えないし、天然発言もしばしば。
どうして今まで気付かなかったんだろうか、と自分の鈍さに呆れた。こんなにも分かりやすいのに、他者への諦めがこんなにも周りを見えなくしてしまっていたなんて。自分の視野の狭さに気付いたのはこの時だった。




