アキラの彼女 5
◇
おかえり、とユキの声がしてホテルに戻ってきたのだと理解した。
「何で夢から覚めたのにお前が俺の前にいるんだよ」
不機嫌そうな声の主は、紛れもなくアキラだ。
「はじめ君は貴方の目を覚まさせるために、貴方の夢の中に入ってくれたんだよ」
俺を睨み付けているアキラにユキが説明する。
「何訳分かんねぇこと言ってんだよ。つーか、お前誰だよ?」
「お前じゃない、鳴瀬だ」
ユキの代わりに直ぐ様ハルが答える。ユキがお前呼ばわりされたことが引っ掛かったようだ。
「っ、お前も誰だよ!?」
ハルがいたことには気付いていなかったようで、アキラは体を仰け反らせ椅子から落ちそうになっている。
「俺は、鳴瀬葉瑠。この子はユキ。俺の妹だよ。木崎亮」
「何で俺の名前知ってるんだよ」
今のアキラは、辺り構わず周りを全員敵として威嚇する獣のようだ。
「俺達も木崎と同じ小学校だったんだよ。妹はお前と同じクラスになったこともあるしね」
ユキはアキラを刺激しないようにと、声を発さずうんうんと頷いている。
「鳴瀬って、双子の……」
「そう、その鳴瀬だよ」
昔の同級生だと分かったからか、アキラは少し落ち着きを取り戻したようだ。
「――で、何なんだよ? さっき言ってた、こいつが夢に入ったとかどうとかって」
「木崎達に声をかけても体を揺すってもなかなか目を覚まさないから、仮説を立てたんだ」
俺達は話し合っていた仮説を一通り説明した。
「それで気を失った一が目を覚ましたら、木崎の目も覚めた訳だけど。俺達の仮説は間違ってなかったってことだよね?」
「知らねーよ。そういうことになるんじゃねぇの。つーか、勝手に他人の夢に入ってんじゃねぇよ、まじめ」
「彼の名前ははじめ君だよ」
「うるせぇな、そんな事どうでもいいだろ」
「どうでも良くないよ!」
珍しく怒るユキをハルが宥める。宥められて少し落ち着きを取り戻したユキがアキラに聞いた。
「木崎君はどうしてそんなにはじめ君に突っ掛かるの?」
「俺はなぁ、昔っからこいつのことが気に入らねぇんだよ! みんなでふざけて楽しんでてもクソまじめでノリ悪いし、空気読まねぇし」
「へぇ、アキラは楽しかったんだ? ああいうの。俺はあんな不味い空気、読むのも吸うのも嫌だった」
「っ、そういうとこだよ! そういうところが気に入らねぇんだ! 何言われても何やられても、俺は気にしてませんみたいな顔ですかしやがって」
ドンっ――とテーブルを叩き立ち上がったアキラの顔は悔しそうに歪んでいた。俺に向かって言っているはずなのに、その苛立ちの矛先は俺に向けられているようには思えない。苛立ちをぶつけながらも、アキラは自分自身に苛立っているように見える。
――そうか、こいつも転校先で苛められていたから。いや、もしかしたらそれよりもずっと前からこいつは自分自身に嫌気が差していたのかもしれない。
ノリや空気を重視してきたアキラからすれば、俺の存在は疎ましい以外の何ものでもなかったんだろう。




