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アキラの彼女 4

 



 色々考えてはみるが、俺がどれだけ憶測を並べたところで実際の事はアキラにしか分からない。でも、ずっとこのまま夢の中にいるわけにもいかないし。一か八か、接触してみるか。駄目だったら駄目だった時だよな。よし、と気合いを入れて俺は立ち上がる。そして――、


「あ、あれー久しぶりー? アキラだよな?」


 我ながら下手すぎる。声は上ずってるし、緊張のせいで変な感じになってるし。頑張って笑顔も作ってみたけど、引き攣っている自信しかない。


「お前……、誰だよ?」


 案の定、不審者を見るような目付きで睨まれる。


「俺、佐藤。佐藤一(さとうはじめ)。小学校の時一緒だったんだけど、覚えてないか?」


「佐藤……って、……何だよ、“まじめ”かよ」


「ああ、そんな風に呼んでる奴等もいたな」


「お前が何でここにいるんだよ」


 俺だと分かると更に鬱陶しそうな目で睨み付けられる。


「仕事関係でちょっとこの辺に来てたんだよ。ところで、こちらは?」


 美月に話題を持っていこうと振ってみるが失敗した。というか、キレられた。


「はぁ!? お前に関係ねぇだろ!」


「ちょっと、アキラそんな言い方しなくてもいいじゃない」


 いや、これは成功したのか? 美月はアキラを宥め、ごめんなさいねと言いながら俺の腕に触れる。


「私、天野美月(あまのみつき)です。彼と同じ会社で働いているの」


 男好きしそうな妖艶な笑みを浮かべる美月。アキラがどうして、この女に拘っているのかは分からないが、俺はやっぱり好きにはなれない。


「おい、美月。勝手にこいつに名乗ってんじゃねぇよ」


「なぁに、嫉妬でもしてくれてるわけ?」


「別にそんなんじゃねぇよ。俺は昔からこいつが嫌いなんだよ。腹立つ顔しやがって」


 いや、この顔は生まれつきだし。どうこうなるもんでもないし、するつもりもないから諦めてほしい。


「えー、そうかな? 私は佐藤さんの顔、結構タイプだけどなぁ」


 美月は冗談なのか本気なのか、首を傾げて笑っている。面倒臭いからそういう絡みは()めてほしいんだけど――――


 ほら、言わんこっちゃない。怒っちゃったじゃんか。


 ドンっとテーブルを叩き、アキラは俺の胸ぐらを掴んだ。


「何なんだよ、お前! 用がないならさっさとどっか行けよ!」


「ちょっと、()めなよアキラ」


 美月がアキラの腕を掴むが、苛立ちは更に加速していく。


「美月は黙ってろ! 大体、お前は俺と付き合ってるんだろーが! なのに、こいつなんかに色目使いやがって」


 俺達のやり取りに気付いたショートボブの女性店員が慌てて此方にやって来る。


「お客様、どうされました? その……、他のお客様もいらっしゃいますので……」


 アキラは店員の言葉に気まずくなったのか、くそっ――と言いながら俺から手を離す。その時、強めに押された為、俺はよろめいてしまい、近くのテーブルに打つかる。何とか片手をつき、バランスを取ったが、その拍子にカシャン――と俺のポケットから何かが落ちた。見るとそこには男女のツーショットが待ち受けになっているスマホ。これはアキラのスマホだ。何でここに?


「何だよ、これ。なんで、お前が俺の写真……」


 スマホを拾ったアキラの動きがピタリと止まる。そして、女性店員、次に美月に目を向けてギリッと苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。


「だっせぇな……、くそっ……」


「アキラ、どうかしたの?」


 美月が問いかけるも、持っていたスマホをぎゅっと握りしめ、先程よりも更に苛つきながら彼女を睨み付ける。


「うるせぇな……。お前、俺の前から消えろ」


「はい!? 意味分かんないんだけど。いきなり何よ」


「うるせぇ、消えろって言ってんだろ!」


 アキラはスマホを投げつけた。俺が見たのはそこまでだった。




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