1話 異世界への道
「山田優斗さん。14年間お疲れさまでした。」
「えっと、ここはどこ?」
「ここは死後の世界です。あなたは残念ながら死んでしまいました。」
目の前には大きな白い翼が生えた天使様と思わしき人がいた。
白い空間。足元も、空も、どこまでも淡い光に包まれていて、境界というものがなかった。
ただそこに、天使様だけがはっきりと立っていた。
「そうですか、やっぱり手術は失敗したんですね。」
僕は小さいころから重い病気があり、病院で寝たきりの生活を送っていた。
点滴の音。白い天井。窓から見えるのは、四角い空のかけらだけ。
同じ景色を、十四年も見続けていた。
その病気が進行して命にかかわるということで緊急手術をすることになったが、手術は失敗したようだ。
痛みも苦しさも、もう感じない。
不思議と、怖さもなかった。
「本来だったら天国か地獄の二択なのですが、あなたには特別にもう一つ選択肢があります。」
「もう一つ?」
「それは、別の世界に転生することです。」
別の世界...。
なんだか楽しそう
「別の世界ってどんな世界なんですか?」
「そうですねぇ。魔法が存在していて危険な世界や、科学が今より発展した世界があります。」
魔法というワードに心惹かれるけど危険なのか...。
でも魔法使ってみたいなぁ。
「魔法がある世界に行ってみたいです!」
危険かもしれないけど、魔法は使ってみたい...。
「それでは、あなたの魂を新たな世界へ送ります。なお、一つだけ特典を授けます。」
「特典?」
「はい。あなたは特別に、ひとつ魔法とは別のスキルを選んで持っていけます。どんなスキルでも、あなたの願うままに。」
スキル……。
まるでゲームみたいだ。
でも、僕にそんなもの、何が必要なんだろう。
「えっと……じゃあ、健康になりたいです。」
「もとから健康な体に転生できますので、そこは安心してください。」
よかった。健康なのは保証されているのか。
それだけでもう、嬉しい。
十四年間、まともに動けなかった。
自分の足で歩くことさえ夢みたいだった。
じゃあどうしようかな。
願いか...。
生前の僕は常に病院にいて、自由という言葉から一番遠い場所にいた。
窓の外の青空を見ても、そこへ行くことはできなかった。
外の空気を吸ってみたかった。風を感じたかった。
自分の足でどこかへ行きたかった。
「自由になれるスキルが欲しいです。」
その思いが自然に口をついた。
そういうと目の前の天使様が少し微笑んだ気がした。
「では、『解放者』というスキルを授けます。」
天使様の手から光の羽がひとつ舞い上がり、僕の胸の中に吸い込まれていく。
その瞬間、心の奥に温かいものが広がった。
「このスキルは、あなたが不自由だと感じたときに真価を発揮します。鎖を断ち切り、壁を越え、心が縛られた瞬間に力を貸すでしょう。」
なんかすごそう....。
「……つまり、僕が“自由じゃない”と感じるほど強くなるってことですか?」
「その通りです。あなたの魂は、自由を求めて十四年を生き抜いた。
その想いこそが、このスキルの根源です。」
そう言うと、天使様の翼がふわりと広がった。
白い羽がひとつ、僕の胸元に舞い降りる。
「――では、旅立ちなさい。解放者よ。」
光が僕を包み込み、すべてが溶けるように消えていった。




